少額紛争に特化 ODRで「泣き寝入り」減らす BUSINESS LAWYERS AWARD 2025 森理俊弁護士
「BUSINESS LAWYERS AWARD 2025」全受賞者インタビュー。起業部門の森理俊弁護士(S&W国際法律事務所)に聞く。 【受賞理由】 オンライン紛争解決(ODR)に可能性を感じ、リーガルテック企業を創業。法務大臣認証を取得し、誰もが簡便に利用できる少額トラブルのオンライン調停サービスを開発・提供する。泣き寝入りが多いという課題に対し、テクノロジーで「司法へのアクセス」を拓いた点は高く評価できる。弁護士の知見を社会課題解決に繋げた功績は起業家精神の体現といえる。 【プロフィール】 もり・みちとし 京都大学法学部卒業。S&W国際法律事務所マネージング・パートナー。弁護士登録以来20年以上、スタートアップ法務に携わる。自身も社会課題解決のため株式会社AtoJを設立し、少額債権の未払いトラブルをオンラインで解決する「OneNegotiation(ワンネゴ)」を開発・提供する。
簡単操作で解決実績1万件
少額の未払いトラブルに特化したオンライン調停サービス「OneNegotiation(ワンネゴ)」は、2022年にはじまった。利用実績は2万件超で、直近の新規申立ては月1000〜2000件で推移。解決率は50%を超えるという(2026年1月現在)。
使い方はシンプルだ。利用者は専用サイトから相手の名前、金額、連絡先等を入力。申立てを受けた側は「身に覚えがない」「今すぐ支払う」「分割で支払う」「オンライン弁護士調停を希望する」などの選択肢から応答する。スマホ1つで完結するのが特徴だ。
「債権者、債務者の双方にとって、時間もコストもストレスもかかりづらい仕組みを目指し、UI/UXの改善を重ねてきました」
少額の債権回収は費用倒れになりやすく、司法を利用できない状況が常態化している。ただ、債務者側に支払う意思が一切ないかと言えば、そうとは限らない。
たとえば、実際にあった学習塾の事例。月謝の滞納が続いていたが、受験期だったため心理的に退塾はさせづらい。ワンネゴを利用したところ、保護者から分割払いの希望があり、志望校合格と月謝回収の両立に成功した。また、医療機関の事例では、急患での手術で資力に乏しかった患者が困惑。ワンネゴを通じて分割払いの合意が成立し、半年かけての支払いで解決した。
「これまで債務者が希望を伝えられる機会はあまりなかった。催告や督促には有無を言わせない強いニュアンスがありますし、訴訟は白黒をはっきりつけます。ワンネゴは中立公正な解決機関として、双方が納得して解決できる場所を意識しています」
経験つながり、国産ODRへ
もともとビジネスやビジネスパーソンに関心があった。司法修習後、創業まもないAZX総合法律事務所に入所。いまでこそ弁護士以外にも多数の士業を抱えるスタートアップ法務の有名どころだが、当時の弁護士メンバーは5人ほどだった。
「大企業案件はビジネスの現場から遠くなりがちなので、経営者と距離が近くて面白そうだと感じました。また、創設者の後藤(勝也)さんがとても魅力的な人。人数の多い事務所だと上司は選べませんが、尊敬できる弁護士から直接指導してもらえるので絶対成長できると思いました」
7年近く所属したのち、実家の法律事務所を継ぐため帰阪。東京に比べてスタートアップが少なく、人脈を駆使して有名経営者を招いた講演イベントを企画したり、2011年には自らも副社長として音声SNS「Voicelink」を立ち上げたりと、積極的にスタートアップとの接点を持っていった。
「苦労もしましたが、スタートアップ法務以外も経験できたことはワンネゴの紛争解決の仕組みづくりに役立っています。音声SNS開発の経験は、プロダクト開発の現場に身を置く良い経験でした。当時のエンジニアとはいまの仕事でつながっています」
ODR(オンライン紛争解決)と出会ったのは2019年のこと。大阪弁護士会内での勉強会のテーマとして提案した。当初は先端トピックの1つ程度の認識だったが、学者らを招いてシンポジウムを企画するなど、リサーチを重ねるうちにこう思うようになったという。
「ODRの普及になにが必要かを考えたとき、紛争解決の知見、IT開発スキル、ファイナンスの3つがありました。自分自身の経験を社会に役立てることができる機会だと考えました」
司法アクセス、より多くへ
2020年、勉強会のメンバーらと株式会社AtoJを設立した。社名は“Access to Justice”の略。共同創業者の冨田信雄弁護士のアイデアで、大量処理が得意というODRの特性を生かすため、少額未払いに特化しての開発がはじまった。
しかし、道のりは平坦ではなく、裁判外紛争解決手続(ADR)の民間事業者認証を取得するのに2年以上を要した。ODRのみでの申請は前例がほとんどなく、価格表や利用規約、苦情対応体制に至るまで法務省と調整を重ねたという。
認証を取得したことで日弁連から声がかかり、2023〜24年には法務省委託のODR実証事業のシステム開発にも関与。信頼の獲得につながり、本業の認知度も徐々に高まってきた。
利用実績の増加について、「これまで解決できなかった問題が解決できているということ。もっと多くの人に使ってもらい、社のビジョンでもある『法の安心を世界中の手のひらに』を実現させたい」と意気込む。“2割司法”という言葉があるが、日本におけるODRのリーディングカンパニーとして、フェアな社会を実現するための一助となる。