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弁護士が語る「複数士業」事務所の本当の強み 単なる「ワンストップサービス」を超えて

弁護士が語る「複数士業」事務所の本当の強み 単なる「ワンストップサービス」を超えて

東京・丸の内にある「甲本・佐藤法律会計事務所」は、弁護士2人と税理士1人で2021年に開設した「複数士業」による事務所だ。 ホームページには3人のほか、外部専門家として、司法書士、行政書士、社会保険労務士、弁理士の各士業が1人ずつ名を連ねる。さらに海外の協力者として豪州弁護士らの名前もある。 近年はこのような複数士業による事務所が増えているといわれる。いわゆる「ワンストップサービス」の提供に強みがありそうだが、異なる士業同士で連携する難しさはないのだろうか。共同代表の佐藤宏和弁護士に話を聞いた。

——どういう経緯で事務所を立ち上げたんですか?

共同代表の甲本晃啓弁護士とは修習同期で、一緒にやらないかと私がラブコールを送った形です。石田和也税理士にも声をかけ、3人で立ち上げました。

ただ、開設当初は今のようにいろんな士業と連携することを意識していたわけではありません。

——石田税理士に声をかけた理由は?

業務上のつながりです。たとえば、税務調査に入られたとき、税理士だけで国税に対抗するのはかなり難しいんですよ。相手は監督先ですから、税務知識があっても立場上対抗しづらい。

これに対して、弁護士は弁護士自治が認められていて国とも戦える。ただし、普段から税務知識があるわけではないから、お互いが手を組んでちょうど良くなる。

税務調査以外でも、クライアントからすると、その質問が税務と法務どっちなのかは区別がつきにくい。そこを弁護士と税理士で対応すればポンポン答えられるので重宝される。この関係を今の事務所にも持ち込もうと考えました。

なので、意識的に士業連携を進めてきたわけではなく、自然発生的に始まり積み上げてきたものの延長に今があります。私は税理士登録をしていますが、甲本弁護士も弁理士登録をしていて、もともと弁護士以外の士業が近くにあったというのも今につながっていると思います。

石田税理士(右)を含めた3人が事務所の組合員

●「『適切な士業をすぐ紹介』は本当のワンストップではない」


——複数士業の知見が加わる「ワンストップサービス」はやはり強みなのでしょうか?

やっぱりウケは良いですね。クライアントからすれば相談内容を分解して、これは弁護士、これは税理士っていうのは面倒くさいでしょう。ワンストップへのニーズが高まっているというより、もともと高かったんです。でも、その受け皿が少なかった。

それが弁護士人口の増加によって、サービス提供のハードルが低くなった。今後もワンストップのニーズは顕在化していくでしょう。

ただし、我々は「いろんな士業をすぐに紹介できる」というだけでは、本当の意味で「ワンストップ」だとは思っていないんですね。同じブランドを掲げても、それぞれが別々の仕事をしていたら、単に「紹介のスピードが早くなる」というだけです。

——どういうことでしょうか?

うちの事務所では、日常的に意見交換をおこなって、互いに他士業の業務を学び続けているところに特徴があるのかなと思います。だから、ノウハウの交換がすごく活発に起きている。

たとえば、私と石田税理士との関係でいえば、先ほど説明した通り、税理士の知識と弁護士の証拠・事実認定に関する経験を持ち寄って議論を繰り返し、問題解決の方法を深めていきます。税務調査だから税理士、訴訟だからと弁護士といった紹介だけでは対応できないわけです。

あるいは弁護士業をやるうえで、訴訟の証拠として相手方の会社の株主が誰だったかを知る必要が出てきたとします。法務局に情報照会して、登記時に添付した原始定款を見るという方法があるんですが、司法書士と連携していると、法務局が利害関係人として認めてくれるポイントが分かるようになる。やはり専門家じゃないと分からない日常的な感覚っていうのがあるんです。

弁護士とでも、私は事業再生や労働法、国際法務などを得意としていますが、甲本弁護士は知的財産権やインターネットに強い。専門分野が違うので、大抵のことは二人のうちどちらかは対応できるという相互補完の関係にありますし、私も特許や商標などの知識を吸収することができます。

お互いに学び続けて、日常的に知識やノウハウを吸収しているので、個人でもある程度解決できるようになるし、チームとしてすぐに緊密な連携をとることもできます。スピード感がやっぱり違ってきます。

事務所ホームページには外部専門家として、弁理士、司法書士、社労士、行政書士が名を連ねる

●「独立性を維持」する連携の工夫


——弁護士以外はもちろん弁護士同士であっても、一緒に事務所を構えるなら専門性が被らないほうがいい?

事務所を大きくしたいのであれば、専門性が近いところで固めたブティック型事務所という戦略もあると思います。

ただ、我々は事務所を拡大するというよりは、一人ひとりが仕事で充実感を得られるということを重視しているので、専門分野が分かれていて良かったと思っています。

あるいは、いろんな専門家をかき集めてくるというのも事務所拡大のわかりやすい手段だと思いますが、我々は個々の独立性を大事にしています。独立性が強いとあまり群れたがらない。群れるのはそんなに好きじゃないけど、とれるメリットはとっていこうという共通点で一致している感じですね。それが「外部専門家」というあり方にも表れています。

——誰とでも連携していくということじゃないんですね

事務所の考え方によっても違うと思いますが、私たちは縦社会を作ろうとは考えていません。互いに自主性を尊重しあう横の関係、合理的に協力し合う関係を大事にしたいので、「信頼できる人」ということが大切です。

一番大事なのは、誠実で相手によって態度を変えないということ。意見の相違があったとき、縦社会であれば雇われるほうが言うことを聞くということになるんでしょうが、横社会では議論を尽くした上で着地点を見出だせるような人間的な成熟さがないとうまくいきません。

あとは勉強熱心で知識欲が強い人ですね。だからそんなに連携先がどんどん増えるということもないです。

——連携する上で難しい点はないのでしょうか?

強いて言えば、独立した上での横の関係性なので、こだわりが強いというところがあります。それぞれ独自のやり方を持っているので、インフラやポリシーを完全に共有するというのは難しい面もあります。

そこで役に立っているのがITの技術です。こだわりということだと、たとえばパソコンひとつとっても、Mac派とWindow派がいるんですが、双方が使えるようにプログラマーでもある甲本弁護士が各種システムを検討して導入してくれています。

——互いが独自性を保ちつつ、知識やノウハウを惜しみなくギブ&テイクするというフラットな関係性を、それぞれの人間性だけでなくシステム面からも支えているわけですね。お話ありがとうございました

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