著名弁護士の本棚〜実務で使うおすすめ書籍5選〜 【消費者被害】荒井哲朗弁護士
各分野の著名弁護士にインタビューし、若手や初学者向けの「おすすめ書籍=推し本5冊」を選んでもらいました。(弁護士ドットコムタイムズVol.71<2024年6月発行>より)
消費者被害
弱みにつけこんで財産を奪い取る詐欺は、時代に合わせて手法を変化させ、被害は後を絶たない。東洋経済と弁護士ドットコムの共同企画「弁護士が選ぶ弁護士ランキング」で、消費者被害の3位だった荒井哲朗弁護士は、実務で結果を示してきた人だ。「悪を相手に、全力をつぎ込める」とこの分野に携わるようになった。
弁護士になった約20年前は先物取引などの詐欺的投資取引が多かった。先物取引被害全国研究会に出向くと、被害の根絶に真摯に向き合う先輩たちがいた。『先物取引裁判例集』を読めば「法律構成が体に沁み込み、自分も負ける気がしなくなります」。これを「勝利の追体験」と表現し、先達の軌跡を追うことを重要視する。『虚構と真実:豊田商事事件の記録』もその一つだ。
一方で、最新の状況を追い続ける必要があるのも詐欺の特徴で、『Q&A振り込め詐欺救済法ガイドブックー口座凍結の手続と実践ー』はその指針となる一冊。被害回復に向けた手法が10日単位で変わることもあるという目まぐるしさの中で、絶えず情報をアップデートしながら戦ってきた。
時に自業自得とも批判される被害者にとって財産を取り戻すことが回復につながり、悪徳業者には逃げきれないと思わせることができる。「被害回復こそが、被害根絶への何よりの近道」との信念、積み上げたノウハウや法感覚を伝える日弁連の講座「あきらめない債権回収」は“神回”として知られる。
詩人になりたかった時期もある荒井弁護士は、書面に文学的表現を一部、織り込むことがある。どうすれば裁判官により伝わるか。そのヒントは小説などからも得ている。
【荒井弁護士の5冊&ひとこと】
- 『虚構と真実 豊田商事事件の記録』全国豊田商事被害者弁護団連絡会議・編 全国豊田商事被害者弁護団連絡会議/発行 1992年7月 【絶版】被害額・被害者数ともに国内最大の詐欺事件 弁護団戦いの軌跡
- 『先物取引裁判例集』先物取引被害全国研究会・編 先物取引被害全国研究会/発行 2023年10月 8,900円(税込)定期発行の最新87巻 被害根絶に取り組む弁護士たちの最新の知見
- 『Q&A振り込め詐欺 救済法ガイドブック−口座凍結の手続と実践−』江野栄・秋山努・編 民事法研究会/発行 2013年12月 1,980円(税込)2023年被害額441億円 依然やむ気配のない特殊詐欺 資金の流れを理解
- 『東京飄然』町田康・著 中央公論新社/発行 2005年10月 1,800円(税込)作家・ミュージシャンの婦人公論連載エッセイ そぞろ歩きを「ならではの文体」で表現
- 『アラビアの夜の種族』古川日出男・著 角川書店/発行 2001年12月 2,835円(税込)ナポレオン艦隊が攻め入るカイロが舞台の物語 日本推理作家協会賞&日本SF大賞を受賞
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荒井哲朗弁護士
あおい法律事務所。東京弁護士会。54期。