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「業界の新スタンダードを」税務サービス開発に注力 Beso・仲田氏(税理士)の見据える未来

「業界の新スタンダードを」税務サービス開発に注力 Beso・仲田氏(税理士)の見据える未来

法律や会計分野におけるDXサービスは、生成AIの登場もあって、激しいスピードで進化を遂げている。この進化を担うのは、エンジニアだけではない。士業の当事者が自ら開発者として、先進的なサービスの開発に取り組んでいる。弁護士ドットコムの「士業DX白書2025」では、そんな士業当事者たちがどのような思いでサービス開発に取り組んでいるのかを聞いた。今回は株式会社Besoの仲田芽衣・取締役兼COO(税理士)のインタビューを紹介する。(ライティング:国分瑠衣子)

実務3年半で独立「中小企業の過去ではなく未来を見たい」


ーー20代で起業しました。きっかけは何だったのでしょうか。

税理士事務所で働いていたときに、中小企業の課題を目の当たりにしたことです。月次決算が締まらなかったり、年末調整は従業員全員分の紙がそろうのに時間がかかりました。その裏側を見ると、経営者自身がプレーヤーとなっていて忙しかったり、バックオフィス業務の人が少なかったりという課題があったんです。

顧客企業の資料回収が遅れると、当然、税理士事務所の業務も後ろ倒しになります。企業だけの問題ではなく、税理士からきちんと伝えきれていないという課題もありました。当時はfreee(フリー)やマネーフォワードが急拡大し、クラウド会計が注目されていたころ。クラウド会計の導入支援をすれば、中小企業のバックオフィスが楽になるよねと、同じ税理士事務所にいた白木(淳郎・Beso代表取締役)と話していました。

税務は過去のデータを見て税務申告しますが、白木とは「過去の数字じゃなくて未来の数字を追いたいよね」なんて夢を語っていました。周りの先生たちからも「ちょうどいいタイミングなんちゃうん」と背中を押していただき、私が税理士登録したときに独立しました。実務3年半ぐらいだったので、今考えると結構チャレンジングでしたね。

ーー独立した当初はどんなサービスでしたか。

freeeの導入支援と、財務コンサルで売り上げを伸ばしました。メンバーを増やし、法人の規模を急拡大することに注力。1番を取る・有名になるということを目標としていました。ただ、メンバーを増やすと、私がプレーヤーをしながらマネジメントをし、組織をスケールさせるというのは限界がありました。

それこそ課題だと思っていた中小企業のように、経営と実務が分離できない事態に陥ってしまうんです。大規模化は失敗に終わりましたが、逆に組織化しなくても、大規模法人と同じような働き方やサービス提供ができる仕組みがつくれないかと考え始めました。

ーーその後、新たなフェーズに移りました。

「業界にインパクトを与えたい」「もっとデカいことしたい」と、プロダクト開発や上場を目指そうと、2021年後半からSaaS開発をスタートしました。最初に開発したのが「ZoooU(ゾー)」という税務マネジメントシステムです。当時のメンバーは私と白木を入れて4人でした。白木だけ30代で、あとは20代です。「税務業界を変えよう」「できないことはないんじゃないか」とものすごい勢いで進みました。

ーープロダクト化する難しさはどういったところにありますか。

 CEOの白木とアイデアを考え、それを私がプロダクトにどう落とし込めるかを考える。白木は元プロ野球選手だけにすごいハイボールを投げてくるので、対応するのは大変です。

私はエンジニアもSaaS開発も未経験なので、「どう言語化してエンジニアに伝え、理解してもらうか」が一番難しく、今も悩んでいます。税理士業務の現状や理想を、文字や図に落とし込んでエンジニアと何度もディスカッションしています。

税理士の独特の商習慣と業務内容をプロダクトに落とし込むのは骨が折れますが、税理士事務所を経営して、実務を行ってきた自分だからできることだと思います。起業したときから「自分たちの強みって新しいことを受け入れられる若さだから、テクノロジーを最大限に使い、他社と差別化しよう」と言っていました。新しいプロダクトをつくることはチームのモチベーション向上にもつながります。

ーー自社開発のプロダクトで上向いてきているんですね。

日々トライアンドエラーで、失敗を生かしながら進んでいます。資金調達も重要で、開発したプロダクトを広めるためには、専門家を味方につけることも大事です。知名度を高めるために、有名な先生にDM(ダイレクトメール)を送ったり、エンジェル投資家になっていただいたりとサポーターを増やしていきました。集まりに頻繁に顔を出して「税理士っぽくない人がおるぞ」と注目してもらえるよう努力もしています。

デジタルツールを武器に「ひとり税理士」の戦い方を示す


ーー事務所経営と起業から見えてきた税理士業界の課題は何でしょうか。

これまで人を雇えば解決したことが、人手不足で難しくなっています。インボイス制度が始まり、作業量はさらに増えており、テクノロジーでカバーしなければなりません。

これからは、大規模な事務所と一人事務所の「ひとり税理士」、二極化が進むでしょう。大規模事務所はいろいろな案件が受けられるし、経営と実務を分けられる。ひとり税理士は人件費などコストをかけず、自分の裁量で自由に働くことができる良さがあります。

そのどちらでもない、10人ぐらいの小規模事務所は、全ての案件が先生に紐づいているので権限移譲もできず限界がくるのではないでしょうか。「作業」する人を雇おうとしても人手不足だし、雇っても人件費がかかり利益を圧迫します。そして、人の作業はやはり個人差がある。一番儲からないパターンで、淘汰されていくと思います。

今、税務業務の作業部分の負担をなくす、新しいプロダクト「Pasumu」を開発しています。これまで時間がかかっていた領収書の資料回収といった「前工程」から全てデジタル化。自動的に会計ソフトにデータが入るイメージですね。将来的には、税理士だけではなく中小企業向けにサービスを展開したいと考えています。開発に携わり、事業会社と話すようになると、課題が顕在化していくという感覚があります。

ーー税理士業界は、他士業に比べて高齢化が激しいと言われています。

いい面も悪い面もあります。スキルや経験値が高まるのはいいことですが、新しい知識へのキャッチアップが遅いように思います。例えば、お客さんが「クラウド会計を導入したい」と言っても「うちは対応していません」という“税理士ブロック”があります。電子帳簿保存法の案内をできないという話も聞きます。中小企業のDXを遅らせる原因です。批判を恐れずに言えば「逃げ切り世代」というのはいると感じます。

ーーAI時代に負けない税理士になるためにはどんなマインドが必要でしょう。

この業界は戦略がなくても一定程度は食べていけるし、すべての仕事がなくなるとは思いません。作業やデータ収集はAIが強いですが、システムをそれぞれの顧客企業に合うよう最適化するのは人間にしかできません。AIと税理士の知識を掛け算できれば、強い税理士になれます。

本来、税理士は取引先企業の一番近いところで数字を見ていて、社長と会う機会も多い。社長個人の資産まで見ることもあるほどで、都合の悪いことも含めて身近な相談相手です。より人間性が重要視されるので、もっとコミュニケーション力を磨く必要があります。

ーー今後の展望は。

税理士法人を経営しながら、株式会社BesoのCOOを兼務してきましたが、2024年秋に税理士法人Besoを大手税理士法人に売却しました。2025年からは株式会社BesoのCOOとして、自分にしかできないプロダクト開発にフルコミットします。

組織化に失敗した経験を生かし、「組織化しなくても、生産性の高い会計事務所はつくれる」「開発したプロダクトで生産性を上げて『ひとり税理士』でも戦える」ということを私自身がモデルとなって証明したいです。自分のスキルを高めて楽しく自分のお客さんと向き合える、新しい業界のスタンダードをつくります。

【Pasumu(パスム)】
経理業務の効率化を支援するクラウド型サービス。特に月次試算表作成や決算作業において、証憑資料の収集不足による業務の停滞を解消する設計が特徴。証憑の収集から仕訳データ作成、会計ソフトへの連携までを自動化し、税理士や会計事務所が複数クライアントの証憑管理や処理を一括で効率的に行える機能を備えている。人を雇用せずとも業務の滞りが発生せず、且つ業務の抜け漏れが発生しない事務所運営をサポートする。

【プロフィール】
仲田芽衣(なかた・めい)
株式会社Beso取締役兼COO。同志社大商学部卒、兵庫県立大学大学院経済学研究科修了。京都の税理士法人をへて独立、2019年Beso group創業。株式会社BesoのCOOとして、2021年にはSaaSの開発に取り組み、ZoooUなどのプロダクトをローンチ。代表を務めた税理士法人Besoは最大で大阪・奈良・東京の3事務所を展開した後、2024年に売却した。

【お知らせ】
「士業DX白書2025」では今回のような開発者インタビュー以外にも、弁護士、税理士など7士業を横断した、DX期待度スコアの算出、士業ごとの概要・課題分析、士業やそのユーザーのアンケート、DXサービスリストの作成など、多岐にわたるコンテンツを掲載しています。PDF版を無料で配布していますので、ぜひご一読ください。
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