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虎に翼から考える、ジェンダー平等の社会を目指すには?

虎に翼から考える、ジェンダー平等の社会を目指すには?

NHK連続テレビ小説「虎に翼」が法曹界でも話題になっています。 弁護士ドットコムは7月9日、ドラマにちなんで、現在のジェンダーギャップについて語る会を催しました。 元裁判官の春田久美子弁護士、伊藤忠商事株式会社での会社員経験もある武井由起子弁護士、札幌弁護士会副会長の竹信航介弁護士と参加者が、それぞれの経験や思いを伝え合いました。その模様をお届けします。 (弁護士ドットコムタイムズVol.72<2024年9月発行>より)

日本は進歩が遅いだけでなくバックラッシュが起きている


最初に、武井弁護士が女性弁護士が全体の2割と少ない理由、所得格差について語りました。

<武井>

「私はバブルの時期に就職した世代です。これから女性の社会進出も増えるだろうという明るい未来を感じました。しかし、今も日本のジェンダーギャップは世界で底辺。進歩が遅いことに加え、バックラッシュが起きている感覚があります。

進歩が遅い業界ほどギャップも大きい。女性弁護士が少ないのも、いまだに法学は男性の学問だという風潮が残っていることがあります。もうひとつは、仕事がとてもハードなこと。土日や夜間でも緊急事態があれば依頼者のもとに駆けつけ、対応しないといけません。

また所得格差は、DVによる離婚相談や法テラスなど報酬の少ない案件が、女性に集中しがちな傾向にあったり、ワークライフバランスを考えると、人に雇ってもらうか、インハウスロイヤーを選択するためだと思います。ただ、厚労省の賃金統計でも弁護士のみの集計が今はありません。日弁連の経済基盤調査は10年ごと。定期的な調査や、比較分析が必要だと思います」

家事調停官の経験がある竹信弁護士も女性が離婚事件を担う場合が多いと話します

<竹信>

「企業からの相談や顧問は男性弁護士に、離婚事件は女性弁護士に振るという法律事務所も多いと聞きます。当然、事件類型ごとに収入格差があるので、離婚事件や法テラス案件ばかり担当したままキャリアを重ねると、独立しても所得が低いままということがあるのかなと思います」

ワークライフバランスは、パートナーや親の協力なしではあり得ない


家事や育児・介護などのケア労働と仕事の両立について、2度の結婚を経験している春田弁護士と武井弁護士は、パートナーと親のおかげで乗り切れたと語ります

<春田>

「最初の結婚は裁判官同士で、家事は私が全部ひとりでこなして、毎日ヘトヘトでした。しかし、子どもを授かってすぐに夫が他界しシングルマザーに。裁判官の仕事は赤ちゃんを育てながらはできないという岐路に立たされました。親に子育てを任せて、なんとか仕事を続けられた。それがなかったら無理でしたね。

その後、今の夫と出会って娘を授かりました。フランス料理のコックで、家の全てを担当してくれています。私が外でお金を稼ぎ、家の中のことは夫が担当する形です。

裁判官と弁護士を比較すると、裁判官は育児休暇はバッチリ。仕事も男女関係なく給料も同じなので、仕事面では男女平等です。そこは大きな違いかなと思います」

<武井> 

「うちも似たような感じです。子どもが小さい頃、私が育児と仕事が大変で病気で倒れてしまったので、近所に住む親に、平日夜9時まで子どもを預かってもらい、ご飯やお風呂など身の回りの世話をしてもらっていました。バリバリ働くことと子育ての両立は難しいです。

今は、子どもが中学で手がかからなくなったので、私が主としてお金を稼ぎ、同業でない夫がかなり家事育児をやってくれていて、また、この春から夫が年金生活になったので、その傾向がより強くなりました。仕事も少しペースダウンしたいのですが、私立学校なのでお金もかかります。

性的役割分業はおかしいと思っていたのに、結局、男女逆にやっているだけではないかと心が痛くなります。虎に翼の寅子もそうですよね」

竹信弁護士は男性も意識や家事のスキルアップが必要だと話します。

<竹信>

「ケア労働の大変さは、経験上、弁護士の仕事とは比べものになりません。自営業で同業者と競争しながら、刑事弁護のような緊急性のある事件も抱えつつ家事育児も従前通りやるのは、不可能です。
 
私の場合は、料理や掃除などのスキルが低い上に、多少であれば部屋が汚れていても気になりません。しかし、妻と子どもは気になります。自戒も込めまくって言いますが、男性も意識やスキルを上げることと、育児家事のサポートには行政からの財政的な補助は必要でしょう」

海外生活をしていた武井弁護士は、日本人はもっと手を抜いてもいいと指摘します。

<武井>

「結局日本は、男性に長時間働いてもらって、女性がそれを支えるのをベースにして社会を回しているのが根本的な問題だと思います。

日本では家事育児に力を入れるのがスタンダードになっています。子どものお弁当ひとつをとっても、アメリカではパンにピーナッツバターを塗りジッパー付き袋に入れて終了。かたや日本は、部活の朝練に間に合うように朝5時にキャラ弁を作ったりしています。もっと手を抜いていかないと、大変すぎます」

女性比率を増やすには「慣例を変えることから」


参加者からの質問にも答えてもらいました。

Q. 虎に翼は、「しょせん恵まれている女性、エリート女性の話」ともいえます。こうした、女性格差が社会的につくられる構造をどう思いますか。

A. 確かに寅ちゃんはお嬢様で、貧困から這いあがろうとしているよねさんとは状況が随分違いますよね。
私が関わった事件やその当事者との出会いで感じるのは、困ったら人に助けを求めたり、思っていることを表現できると、苦しまなくて済むのかなということ。子どものうちから、平等や自由、どうしたら自分が幸せに生きていけるかを考えてもらいたいので、出前授業という形で法教育を行っています。理不尽なことに我慢するようなことがなくなっていく社会にしたいです(春田)

Q. 最高裁判事は15人中、女性3人という現状を、変えるにはどうしたらいいですか。

A. 最高裁判事は慣例で15人中、6人が裁判官、4人が弁護士、5人が学識者と枠のキャリア構成が決まっています。そのうちの誰かが辞めると、同じキャリアの人が就任する仕組みです。まずはこの仕組みを変えるべきだと思います(春田)

枠がしようがなければ、せめて、その中で均衡を取って欲しい。弁護士枠の2人は、大手渉外事務所にいらした方なので、ダイバーシティの観点からは、家事や弱者に寄り添う弁護事件を経験した女性判事の誕生が待たれます(武井)

最高裁判事になるのは30〜40年のキャリアを積んでから。楽観的すぎるかもしれませんが、放っておいても30〜40年後には女性は25%くらいには増える。ただ、それで十分ではないはずです。女性を増やす必要性を社会が理解していくことが必要ですが、今の日本をみていると悲観的にならざるを得ません(竹信)

Q.  XなどのSNSで、ミソジニー(女性嫌悪)発言を実名でする男性弁護士について、どう思いますか。

A. 非常にまずい状況だと思います。相談者からXでの男性弁護士の発言を見て「男性弁護士が怖くて相談できない」と聞くこともあります。
法曹界でなぜジェンダー平等が必要なのか、それは、公正と正義を司るため、自分があげた声が性別などを理由に切り下げられたり、それを恐れて声をあげられなくなってしまうことは絶対に避けなければならないからです。そういう観点からも、深刻な問題だと思っています(武井)

「虎に翼」私の好きなシーン


<春田>

「法曹を目指すのに反対していた母親はるさんでしたが、君には無理だと寅子に言う桂場さんに、「うちの娘を見くびらないで。さあ六法全書を買いに行くわよ」と、本屋さんに連れて行くシーンが好きです」

<武井>

「夫の優三さんが出征する時に、「心から人生をやりきってほしい」と寅子に伝えるシーンです。これは憲法13条の幸福追求権のことだと思います。日本国憲法は出征して散っていった人たちが私たちに与えてくれたものだと、このドラマで実感させられました」

<竹信>

「主人公が同じ校舎にいる男子生徒に「魔女がいる」と囃し立てられたり、舞台で法廷劇をすると妨害が入ったりと被害を受ける場面が印象的でした。女性が社会で活躍することにネガティブなメッセージを送り、抑圧するのは、今でも起こっていることだなと。100年前のドラマですが、いまにも通ずるなと感じました」

プロフィール

春田 久美子 弁護士(福岡エクレール法律事務所)

福岡県弁護士会所属。48期。会社員から裁判官に転身し、法律事務所を開業。本業の傍ら、小中高校生や大学生などの教室に出向いて行う〈法教育〉の実践&普及に魅力を感じている。

武井 由起子 弁護士(八重洲グローカル法律事務所)

第一東京弁護士会所属。新63期。伊藤忠商事株式会社で14年間の会社員生活を経て、法科大学院に入学し、2010年に弁護士登録。ハラスメントやコンプライアンス関係、ジェンダー問題に注力している。

竹信 航介 弁護士(札幌アカシヤ法律事務所)

札幌弁護士会所属。新63期。東京都出身で幼少期に海外在住経験もある。大学卒業後に北海道大学法科大学院に入学し、旭川修習を経て、2010年に弁護士登録。趣味はアニメ鑑賞。札幌弁護士会副会長。

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