社外役員 注目高まる弁護士登用 紹介会社を経営する越直美CEOに聞く
コーポレートガバナンス強化の観点から社外役員(社外取締役・社外監査役)に注目が集まって久しい。近年は取締役会に占める「数」だけでなく、ジェンダーを中心とした多様性などの「質」に議論の重心が移りつつあり、特に女性弁護士の需要が高まっている。その実態や弁護士の可能性を探る。(企画:新志有裕、園田昌也、明石知也 取材・文:園田昌也) (弁護士ドットコムタイムズVol.77<2025年12月発行>より)
相次ぐ企業不祥事、重要性増す「社外役員」
2010年代、日本では大企業の不祥事が相次いだ。大王製紙の背任事件、東芝の不正会計、日産自動車の報酬虚偽記載などなど。中でも2011年に発覚したオリンパスの粉飾決算事件では、不正を指摘したイギリス人社長が、取締役会の全会一致で解任されるなどしたため、国内外からコーポレートガバナンス不全への非難が相次いだ。
取締役会の適切な運用が求められる中、海外投資を呼び込みたい政府の思惑もあり、2015年に社外取締役のより積極的な活用などを求める改正会社法が施行された。独立性を高めるため社外取の要件を厳格化したり、上場企業等が社外取を置いていない場合は株主総会で「置くことが相当でない理由」の説明を義務化したりといった内容だ。
同時に金融庁と東証による「コーポレートガバナンス・コード(CGコード)」も適用され、一定の上場企業には社外取を原則2人以上選任するか、できない場合はその理由を説明することなどが求められるようになった。これ以降、社外取が増えていく。
東証によると、適用半年後の2015年12月末時点で、東証一部・二部(当時)上場企業のうち、社外取を2人以上選任していた企業は57.5%。これが2016年12月末になると79.5%、2017年7月には84.8%にまで上昇している。
さらに2021年3月に施行された改正会社法では、上場企業の大多数を占める監査役会設置会社等に対し、社外取を1人以上選任することが義務付けられた。監査等委員会設置会社と指名委員会等設置会社はもともと社外取が必要なため、全上場企業に社外取が義務付けられた形だ。
また、東証再編を見据えた同年6月のCGコード改訂では、プライム市場に対して社外取締役を3分の1以上選任すること(必要な場合には、過半数の選任の検討を慫慂)なども求められている。
社外役員は「多様性」のフェーズへ
社外取が増える中、議論は取締役会メンバーの質にも及んでいく。少し時をさかのぼって2018年のCGコード改訂では、取締役会・監査役会について「ジェンダーや国際性の面を含む多様性」の確保についての文言が加えられた。
取締役会の多様性を求める声は海外からも強い。機関投資家に株主総会の議決権行使を助言する米グラスルイスや米インスティテューショナル・シェアホルダー・サービシーズ(ISS)は、取締役会の性別多様性要件を満たさない場合、社長や会長の選任議案に対して反対を推奨してきた。CGコードは違反しても罰則がないが、議決権行使基準を満たせないと経営陣がその座を追われるおそれがある。企業にとってのプレッシャーは強い。
実際に2023年には、女性取締役がいなかったキヤノンで御手洗冨士夫会長兼CEOの再任議案が賛成率50.59%でギリギリ可決となり、経済界に衝撃を与えた。
こうした中、政府も「女性版骨太の方針2023」などで、東証プライム上場企業を対象に2025年までに女性役員を1人以上選任することや女性役員比率19%の達成、2030年までに女性役員比率30%以上の達成といった目標を掲げている。
女性取締役の9割が社外、女性弁護士に熱視線
しかし、女性は家庭に入るものとの意識が強く、年功序列などの慣行が根強かった日本では、女性管理職の数も十分ではなく、内部昇格で女性役員を増やすのは現状困難だ。この状況下で取締役会のジェンダーバランスを是正する手法として、女性の社外役員起用が増えている。
コーポレートガバナンス助言会社のプロネッドの調査によると、2025年7月1日時点で東証プライム上場企業の女性取締役は2910人で、うち社外が2599人と約90%を占めているという。
女性社外取の一大供給源になっているのが、弁護士や会計士といった士業だ。特に弁護士は4.5万人のうち、約20%が女性(2024年3月末時点)。司法試験合格者ベースなら約30%で、比較的ではあるにせよ、現代日本においては女性が多く活躍する業界と言える。
企業に社外役員を紹介する「OnBoard」の調査によると、2025年6月末時点で、上場会社の社外監査役も含めた女性役員のバックグラウンドでは、企業出身が46.3%でトップ。次いで弁護士(26.4%)、公認会計士・税理士(16.4%)、大学(7.0%)、公務員(2.5%)などと続く。
同社代表取締役CEOの越直美弁護士は、「弁護士という職業も多様性の1つ。企業に対しては、社外取か社外監査役かはともかく、リスク対応の観点から社外役員に弁護士と会計士は1人ずつはいたほうがいいと案内しています」と話す。
OnBoardは「ダイバーシティは成長戦略」をかかげ、マッチング事業だけでなく、社外役員と希望者に対するトレーニングも提供する。現在、2000人を超える社外役員の候補者がおり、そのうちの3〜4割が弁護士だという。弁護士が多い理由の1つは、創業者が弁護士であるためだ。また、東京弁護士会、第二東京弁護士会と協定を結び、セミナーや説明会を行っている。
上記のほかにも、第一東京、大阪、愛知県、福岡県などいくつかの単位会では、社外役員を希望する女性弁護士の名簿を公開している(男女混合名簿の単位会もある)。ただ、現在の社外役員選定では、独立性確保のため「一本釣り」は減っているといい、企業側からすると名簿だけだと使いづらさもある。
「名簿から経歴はわかります。加えて、面接などで人柄を知る必要がありますが、企業側からすると声をかけておきながらお断りが発生するので心理的に難しい。私たちが間に入れば、候補者の人柄も分かるし、複数候補者からの選考もセッティングできます」
否定ばかりの姿勢はNG、会社の成長に責任を持つ
では、社外役員としての弁護士には、どのような知識・能力が必要なのだろうか。まずは企業法務全般の法律知識だ。業種によっては金融や薬事など規制法の専門知識も重宝される。取締役会では質問や意見の発信といった弁護士の日常動作も生きるだろう。ただ、だからこそ、コミュニケーション能力が大切になる。
「企業側からは否定ばかりの弁護士は困ると言われています。厳しいことを言うときこそ、ほかの役員や事務局との信頼関係が必要です。役員である以上は、会社と会社の成長に責任を負っている。明確な違法行為ならともかく、常にノーリスクでは成長はない。こういう方法ならできるとか、意見書をもらってリスクヘッジをしようとか、最後は会社と一緒になって事業を進めていこうという姿勢がなければ務まりません」
通常の企業法務と社外役員の立場の違いを意識し、会社の事業やビジネス知識などへの理解も深めていく必要がある。
また、企業側からすれば弁護士の違いは分かりづらい。他社での経験の有無は安心材料として重要なポイントだ。しかし、社外役員の経験がなく、「1社目の壁」を超えられない場合でも、上場を目指すスタートアップで社外役員のチャンスがあるという。経歴があまり重視されない傾向があり、上場に成功すれば、2社目、3社目と声がかかりやすいからだ。
一方で、越弁護士は「社外役員の選考面接では会社側に無理に合わせる必要はない」とも強調する。カルチャーの合わない会社の社外役員になっても、その後うまくいかないからだ。その会社を応援したいか、自分の専門性を生かせるかを軸に選ぶのが良いという。
好事魔多し、「顧問弁護士感覚」は危険
経団連の調査によると、2025年7月1日時点で東証プライム上場企業の女性役員比率は18.4%。2026年からは、米グラスルイスが多様性比率を20%に引き上げるため、女性の社外役員の需要はさらに高まりそうだ。
「これまで日本企業で女性役員が増えてきたのは、株主、すなわち機関投資家の議決権行使基準の影響が大きいです。だからこそ、株主のために社外役員としての責務を果たせるか、女性の力量が問われます」
近年、女性の社外役員需要が増えているものの、企業法務全体で見れば女性弁護士は顧問を獲得しづらいと言われ、社外役員を務める男性弁護士が少ないわけでもない。社会的には社内昇格組が増えるまでの地ならしも期待されており、女性弁護士にかかる負荷や期待は大きい。
また、企業側の熱意が決して高くないからこそ、注意が必要な面もある。「顧問弁護士感覚で社外役員を引き受けると危ない」と警鐘を鳴らすのは、日弁連の社外役員ガイドライン策定などにもかかわる中西和幸弁護士。
「不祥事が起きれば、社外取締役や社外監査役は何をやっていたんだとなる。善管注意義務を果たせていなければ、裁判になることもあります」
性別に限らず、企業によっては未だに社外役員を「数合わせ」程度にしか考えていないケースもあるという。しかし、そうした「意識の低い」会社ほどトラブルに巻き込まれる可能性は高い。実際、会計士は敗訴事例もあるという。
中西弁護士は、社外役員の弁護士や会計士の支援にも取り組んでおり、就任前から会社にトラブルがあったときなど、幅広く対応している。安易な気持ちで社外役員を引き受けないよう、また、トラブル対応を失敗して痛い目や怖い目にあわないようにサポートしている。
「きちんと会社のことを調べることが大切です。いい社外役員ほど、いい会社を選んでいるのでトラブルも少ない」
社外役員は弁護士の新たなフィールドの1つとなりつつあり、志望者も多い。競争が激しくなっているからこそ、自己研鑽と一歩立ち止まる慎重さも大切だ。そしてそれらこそが、弁護士の社外役員に求められる素養の1つでもある。
越直美(こし・なおみ)弁護士
三浦法律事務所パートナー、第二東京弁護士会(55期)。OnBoard 代表取締役CEO。社外役員としてはソフトバンク株式会社 社外取締役など。元滋賀県大津市長。