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法律事務所のDXは"可視化"から始める〜弁護士キャリア最前線〜

法律事務所のDXは"可視化"から始める〜弁護士キャリア最前線〜

AIやクラウドサービスの普及により、これまでのアナログな業務をデジタル化し、効率化や生産性の向上を図る動きが加速しています。そんななか、他の事務所に先駆けてDXに力を入れているのが、「法律事務所リーガルスマート」です。「法律事務所PRESIDENT」という名前だった同事務所は、2024年3月に名称を変更し、IT活用を前面に打ち出しています。代表の笹原氏に、DXへの取り組みについて聞きました。 聞き手/弁護士ドットコムキャリア 原田大介 文/周藤瞳美 (弁護士ドットコムタイムズVol.71<2024年6月発行>より)

法律事務所にも押し寄せる、
ITによる大きな業務変革の波

―現在の事務所のコンセプトを教えてください
 現在は「テクノロジーと人の力で、権利が自然と実現される未来を創る」というミッションを掲げています。ここでいう権利実現の理想の形とは、Amazonのようなサービスではないかという話を所内でしているところです。顧客体験としては、クリックするだけで勝手に権利が実現されていくようなイメージですね。

―事務所名も変更されて、テクノロジー活用を前面に打ち出されていますね
 それは、すべての産業がITによって大きな業務変革を遂げているという事実があるからです。歴史を紐解けば明らかですよね。法律事務所だけが例外であるはずがない。IT化やDXによって、自動車産業をはじめ、さまざまな業界の市場規模は何倍にも拡大しています。法律の世界でも、同じことが起こるはずだと私は考えています。ただ、それを実現するためには、IT人材が必要不可欠です。私自身、IT企業を創業した経験があり、エンジニアの方々とのつながりがあったので、彼らを専属で採用することができたのも大きかったです。

データベースと顧客インターフェイスを整備し、データを可視化する

―貴所におけるDXの取り組みの概要を教えてください
 何といっても“可視化”です。お客様の声や社内の業務プロセスをはじめ、さまざまなデータを可視化することに力を入れています。具体的には“データベースの整備”と“顧客インターフェイスの整備”の2点に注力しています。データベースとしては、顧客管理ツール「Salesforce」を導入し、顧客情報や案件情報を一元管理しています。そして、顧客とのコミュニケーションツールとしては、「LINE」をメインに活用し、対面だけでなくオンラインでも密にコミュニケーションが取れる環境を整備しています。

―可視化というと、具体的にはほかにどのようなデータが対象になっているのでしょうか
 わかりやすいところでいえば、たとえばマーケティングデータです。有効な問い合わせ数、面談化率、受任率など、マーケティングの各フェーズの数値は常に可視化し、分析しています。また、分野によっては同時に数千件もの案件が稼働しているので、それぞれの案件がどのフェーズにあるのかを常に把握しておく必要がありますし、案件の優先度も可視化するようにしています。
 最近注力しているのは、事務員一人ひとりの成果と行動の可視化です。たとえば、ある書類作成業務において、一人の事務員が何件処理したのかといった数字を案件ごとにすべて可視化しています。弁護士も同様ですが、誰がどの案件を何件持っていて、どの程度進捗させているのか。そういったことが誰の目にも明らかになることは、とても大切なことだと考えています。

可視化は業務改善の出発点

―なるほど。それだけ可視化にこだわっているのはなぜでしょうか
 可視化は、業務改善の出発点だからです。そもそも、見えないものは改善のしようがありません。逆にいえば、見えるものは改善可能なんです。ここに気付くことがDXの第一歩であり、DXの根幹となる考え方です。デジタル化によってデータが可視化されれば、それだけ改善の余地が広がる。だからこそ、私たちは可視化を重視しているんです。社内でもDXの話になると、よく「業務のムダをなくしたい」とか「省力化・自動化したい」という意見が出ます。気持ちはよくわかりますが、そこから始めるのは順番が違います。可視化あっての改善なんですよね。

―可視化によって働き方に変化はありましたか
 案件の優先度が明確になったことで、地方拠点も含め弁護士が行動に移しやすくなり、楽になったという声は多くありますね。その弁護士の状況をデータで見て適切な案件をアサインしたり、定量的に目標設定をしたりといったことも可能になっています。
 顧客視点でもメリットは大きいと考えています。お客さまからすると、解決や着手が早いというのは大きな評価ポイントの一つになりえます。当所では、受任後1週間以内に最低でも方針やスケジュール感を共有するようにしていますし、たとえば交渉案件では、内容証明の案を1週間以内にお客さまに送付するようにしています。これらは、各案件をデータで一覧化することによって実現できています。

汎用的なツールで
まずは一歩を踏み出してみる

―働き方改革の裏側には、所員のITリテラシー向上も必要だと思うのですが、その点はいかがでしょう
 デジタルツールを使いこなせる弁護士やスタッフを増やすのは重要な課題です。もちろん、一朝一夕にはいきませんし、当所としても試行錯誤の連続です。たとえば、業務の進捗管理ツールを導入してみたものの、思ったより現場での入力が徹底されなかったり。だからこそ、ツールの使い方だけでなく、なぜ可視化が重要なのか、その本質的な意味を伝え続けることが求められます。

―DXを進めたいと考えている法律事務所は、何から手を付ければよいのでしょうか
 DXを進めるためには、とにかく一歩を踏み出すことが大切です。最初から完璧を目指す必要はありません。たとえば、カスタマイズ不要で所内全員が気軽に文書を共有できるアプリケーションを導入して、よくある質問や各種の手続き、事務員・弁護士の心得、マニュアルなどを作成し、誰もがいつでも最新版を読める状態にしておくというのは、大きな進歩になりえます。
 またSalesforceのような顧客管理ツールを用いなくとも、スプレッドシートや汎用的な情報共有ツールなどでかまいませんので、まずは、弁護士や事務員のパフォーマンスを可視化して把握することが大切です。人間はどうしてもバイアスがかかってしまうので、「この人働いていないな」とか「動きが遅いな」と感じていても、実際に成果や行動を可視化してみると、実は他の優秀だと思っている人よりも働いていたというケースもあります。
 DXというと大掛かりなものを想像してしまいがちですが、まずは所員が直感的に使えるツールを導入して、業務の可視化からはじめていくのが良いでしょう。この業界では、口頭で仕事を依頼する場面もまだ多くありますが、そこをまずスプレッドシートでToDo化して伝えるようにするだけでも十分です。そして、ToDoの完了数を可視化し、振り返りの時間を設けてPDCAを回していく。これなら、そこまで難しくありませんよね。必ず良い変化が訪れるはずです。

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笹原健太弁護士

2010年に弁護士登録(第二東京弁護士会、旧63期)。2014年1月に弁護士法人PRESIDENT(現:法律事務所リーガルスマート)を設立し、2017年2月にContractS株式会社も設立。ContractS株式会社代表取締役に専念するため、2018年に弁護士登録抹消。その後、PRESIDENTの経営に本格復帰し、2023年2月に再度弁護士登録。2023年にPRESIDENT代表に復帰。

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