情報共有や業務管理の徹底 工夫凝らし働きやすい環境に〜弁護士キャリア最前線〜
弁護士の人材確保が難しいと言われる昨今、せっかく採用してもすぐ辞めてしまう、というケースも多々ある。そんな中、「働きやすい職場作り」に注力することで、離職率を低く保っている法律事務所もあります。 弁護士・法務人材のキャリア支援サービス「弁護士ドットコムキャリア」では、ネクスパート法律事務所の寺垣俊介弁護士と佐藤塁弁護士にインタビューし、働きやすい職場作りの工夫や、全国展開する事務所ならではの経営戦略全般について聞きました。 聞き手/弁護士ドットコムキャリア 原田大介 文/安藤陽子 (弁護士ドットコムタイムズVol.68<2023年6月発行>より)
「働きやすい法律事務所を作りたい」という思いで設立
―まず、ネクスパート法律事務所の特徴や強みを教えてください
2016年に我々2名で設立しました。現在東京をはじめ、全国に10の支店を展開しています。そこに所属する弁護士は計36名、事務員が41名です。
個人の生活に密着した一般民事、刑事が主に扱っている案件ではありますが、3年前から企業法務にも注力しています。なお一般民事では家事(離婚や相続)、債務整理が多く、交通事故は少ないですね。
強みは、ひとりの弁護士が問い合わせから受任、案件の処理、完了まで一貫して対応していることです。ただ今後は効率化や組織力の向上を目指すべく、事務的な部分は他のスタッフが担当し、弁護士は主要な部分だけをおこなうという方向も検討しています。それにより弁護士としてのやりがいはそのままに、本当に重要な部分だけに力を注ぐことができると考えています。
―事務所設立の経緯を教えてください
当時は今よりも労働環境が悪い法律事務所が多く、そういった中で「働きがいがありながらも、労働環境や風通しが良くて働きやすい法律事務所を作りたい」という思いから設立しました。
所属している弁護士の離職率は低いため、納得、満足して働ける環境を提供できているのではないかと思います。
定期的なコミュニケーションで
円滑な情報共有
―具体的に、働きやすい環境作りのためにしていることを教えてください
月に3回、主に支店長とアソシエイトとで、アソシエイトが担当している案件の進捗管理をしています。その中で進め方の相談であったり、業務量が多すぎないか、無駄な作業が発生していないかを確認します。もちろん弁護士同士では普段から適宜相談し合いながら進めていますが、定期的に進捗管理をすることがコミュニケーションにも役立っています。
また、事務所内で情報共有ができるよう、チャットツールのSlackを活用しています。これにより拠点間でのやり取りも、Slack上で気軽にできます。
一般民事や刑事だと、似た内容の案件を経験している弁護士も多いので、自分で調べるより、Slackで他の弁護士に聞いた方がずっと早い、なんてこともありますからね。
―Slack以外で情報共有のための取り組みはありますか
月1回オンラインで全体会議、分野別の勉強会を実施しています。分野別の勉強会では、書籍や判例には書いていないような実務的な内容に絞って生々しい話をしています。
支店間のコミュニケーションとしては、全スタッフが一堂に会する機会が年に1回あります。支店長に関しては年に2回合宿をしていまして、支店間の連携を深め、情報共有の土台を作るのに、大いに役立っています。
―全国に支店を展開している中で経営戦略上、工夫していることがあれば教えてください
以前は支店をどんどん増やしたいと思っていました。しかし今はコロナの影響で、依頼者との対応から裁判に至るまで、多くの業務をリモート対応できるようになったこともあり、店舗数を増やすというよりも、各支店を強化していく方向で進めています。
例えば、仙台支店を強化することによって、東北全域を対応できる可能性もあると思っています。もちろん現地に足を運ばないと対応できない案件もありますが、リモート可能な部分はリモートで、といった感じですね。
少数精鋭、
時間をかけた丁寧な新人教育
―所属している弁護士は、どのような方が多いのでしょうか
64期から75期までまんべんなく各期の弁護士が所属しています。採用にあたってはコミュニケーション能力を重視しています。コミュニケーション能力とは何かというと長い話になりますが、話しやすさや気遣いで、依頼者や他のスタッフの期待値を超えていくことができる集団であればいいなと思います。
一方で近年、弊所では企業法務にも力を入れています。毎日たくさんのリサーチや契約書の作成・レビューなどの依頼があり、これらは原則当日または翌営業日までに返すことを目指しています。企業法務を行うには、コミュニケーション能力に加えて、いわゆる事務処理能力や探求心なども重要になってくると思います。
―新人弁護士は、どのように教育していますか
各拠点で一度に1、2人しか採用しないため、じっくり時間をかけて新人教育ができています。
基本的にはOJTで先輩弁護士と一緒に案件に入ります。依頼者との面談に同席するところから始まり、電話の対応をする、内容証明郵便を作成する、訴訟書類を作成する、といった具合に徐々に仕事を任せていきます。
先輩弁護士のやり方を参考にしながら、自分なりの仕事の進め方などを身につけていけますし、先輩弁護士のアドバイスやフォローもありますので、安心して経験を積んでいける環境ではないでしょうか。
特に地方では、
「弁護士採用が難しい」と感じる
―現在、集客と弁護士採用という大きな課題があると思いますが、この2つの課題について工夫していることがあれば教えてください
集客に関しては、広告費をなるべく増やさずにリピーターを増やす、ということを意識しています。一つひとつの案件からの繋がりであったり、紹介であったり、そういうところから依頼を増やしていきたいと思っています。
採用に関しては、今まで所属している弁護士からの紹介で採用したケースが多かったのですが、だんだんそれも難しくなっている印象を受けます。
特に地方の支店に関しては難しいと感じることが多いため、現地での採用にこだわらず、東京で採用して教育した後に地方の支店長になってもらう、ということもあります。
―最後に、ネクスパート法律事務所の今後のビジョンについて教えてください
事務所のビジョンとしては「次世代型総合プロフェッショナルファームになる」「新しい弁護士像を創る」の2つがあります。従来の弁護士業務にとどまらず、不動産やコンサルティング、M&A仲介など、弁護士の周辺領域にまで関わる、といったイメージです。また、起業家の輩出というのも目標にしています。
中長期ビジョンとしては、2つほど業務の方向性があると思っています。
医師のように専門領域に特化していくという方向性と、税理士や会計士のように、資格を超えて新しい分野を切り開くという方向性です。弁護士業務に関しては医師のように専門領域に特化して、事務所全体としては弁護士業務以外にもアンテナを張って何か新しいことをしていきたいという思いがあります。その意味では起業家精神のある方も来てくれたら嬉しいです。
お知らせ
弁護士ドットコムでは、弁護士・法務人材のキャリア支援サービス「弁護士ドットコムキャリア」を展開しています。これまで蓄積してきた知見と、豊富な弁護士・法務人材のデータベースをもとに、各事務所・企業の特徴や状況に合わせたキャリア支援を行っております。
https://career.bengo4.com/
ネクスパート法律事務所
2016年設立。現在は全国10支店、所属弁護士36名、事務員41名。一般民事、刑事を中心に、最近では企業法務(薬機法医療法関連 web3法務など)に対応。「ネクスパートにかかわる人を幸せにする」というパーパスを掲げ、先進的な存在としての地位の確立を目指す。
寺垣 俊介 弁護士
65期。第二東京弁護士会所属。都内の法律事務所で3年間勤務したのちネクスパート法律事務所を創業。現在は、薬機法・医療法・景表法などを中心に広告法務を強みにしている。
佐藤 塁 弁護士
65期。東京弁護士会所属。都内の法律事務所で3年間勤務したのちネクスパート法律事務所を創業。現在は、AIやweb3法務に精通し、自身でもweb3事業を立ち上げている。