AI時代に企業内弁護士が選ぶべき会社とは 金子晋輔弁護士が語る「人とAIへの投資」という新たな選択の軸
AIの急速な進化が職場環境を変えつつある今、法律事務所から企業への転身を考える弁護士、あるいは勤務先の変更を検討している企業内弁護士にとって、どのような会社を選ぶべきか。 法律事務所Verseの金子晋輔弁護士は、「AI投資」を一律に評価するのではなく、「人への投資」との掛け合わせで会社を見極めることが重要だと指摘する。企業への転職における新たなフレームワークについて話を聞いた。(取材・文:松本慎一郎)
AIに投資している会社には3つの類型がある
―今回のテーマ「AI時代に法務パーソンが選ぶべき良い会社」について、問題意識を持ったきっかけを教えてください。
他社の法務の方が、「AIに積極的に投資している会社かどうかがキャリアの指標になるのではないか」と書かれている文章を読んで、そうだなと思う反面、AIに投資している会社にも大きく分けて3類型あると感じたのです。
1つ目は、ChatGPTや社内GPTを導入したものの、あとは各自で使ってください、という状態の会社です。お金は使ったけれど、それ以上の仕組みが伴っていないパターンです。
2つ目は反対に、AIで仕事を徹底的に自動化し、AIに振り切る方針を打ち出している会社です。「あなたの仕事はあなたの仕事をなくすことだ」というようなAI・DX推進の文脈で迫られると、精神的にきつい思いをする方もいらっしゃるのではないかと思います。
1つ目のパターンでも、AIを使わない社員に対して「なぜ使わないのか」だけを言われるという状況が生まれやすく、どちらも現場の法務担当にとっては辛い環境になりかねません。
―では3つ目の類型というのはどのようなものですか。
AIをきちんと導入しながら、同時に人への投資も怠らない会社です。
場合によっては、AI投資よりも人への投資の方により力を注いでいる会社があってもいいと思っています。
AIと人の両方に投資している会社でなければ、自分自身のキャリアを考えたときに成長しにくいのではないか、というのが今回の問題意識の出発点です。
人とAIへの投資、4つの象限
―「人への投資」と「AIへの投資」という2軸で会社を整理されているとのことですが、具体的にどのような象限が生まれますか。
両方に積極的に投資している会社を「掛け算型」とすると、これはまさにキラ星のように輝く存在で、企業内弁護士にとって最も伸び代のある環境です。
一方で、人への投資は手厚いがAI活用がこれからという「ポテンシャル型」、逆にAIツールが先行していて人への投資はまだ追いついていない「ツール先行型」、そして人にもAIにもまだこれからという「これから型」という4象限で整理できます。
どの象限が良いかは、個人の状況によって異なります。掛け算型はどんな人にとっても伸び代がある環境ですが、競争が激しく入社しにくい面もあるでしょう。
すでに企業法務の専門性や実務経験を持っている弁護士であれば、ツールを積極的に活用している会社に入ることでそのスキルをAIで増幅させていくことができますし、これから経験値を積んでいきたい段階では、面倒見のよいポテンシャル型の会社の方が安定して力をつけやすいかもしれません。
―ライフステージによっても選ぶべき象限は変わってきますか。
そうです。親のこと、子どものこと、自分の健康など、仕事以外で優先度の高いことが重なっている時期には、仕事での成長を最優先にしにくくなります。
そういう状況で「これから型」の会社に入ると、自分自身がその会社の空白を埋めなければならなくなり、人生をハードモードにしてしまいかねません。
キャリアのフェーズと自分の志向を重ね合わせながら、この象限を参照することで、自分に合った会社選びの軸が見えてきます。
良い会社を見抜くために、面接では何を質問するべきか?
―この象限を念頭に置いたうえで、実際の面接でどのように会社を見抜けばよいでしょうか。
外から見ると、AIへの投資額や人材育成への投資額はなかなか分からないので、面接の場で聞くしかないというのが現実です。
経営幹部の方が面接をされるようであれば、「経営会議では最近どういったテーマがメインになっていますか」と聞けば、人の話をしているのか、AIの話をしているのかが自然と浮かび上がってきます。
他にも、「経営陣は週に何時間ぐらい社員と対話していますか」「若手に任せた挑戦的なプロジェクトは直近でありましたか」「AI導入によって社員の役割はどう変わりましたか」といった質問は、会社の姿勢を測るうえで有効だと思います。AI推進専任の部署や職種が新たに生まれているかどうかを聞くのも一つの手です。
―企業内弁護士ならではの視点からの質問はありますか。
通常、リーガルリサーチ系データベースの利用環境や研修・書籍代の支援について質問する方も多いと思いますが、プラスアルファで聞くとしたら、「AI導入後、どの部署からどういった相談が増えましたか」という質問が有効だと考えています。
法務部の仕事は、各部署からの問い合わせを起点に動くことが多いですから、「問い合わせ元の景色がどう変わったか」は非常に重要な情報です。
たとえば、最近ベテラン社員や経営層からの相談が増えてきたとすれば、その会社が新規事業の検討を始めているサインかもしれません。
「AI推進を始めてから面白い相談が来るようになりましたか」という聞き方ができれば、企業内弁護士として入社後に質の高い法務業務に関与できる会社かどうかが見えてきます。
―AI導入が人員削減に使われているかどうかも確認ポイントになりそうですね。
そこは極めて重要だと思います。「AI導入によって人を減らしたのか、それとも人の役割が進化したのか」という点は、会社の人材に対する姿勢を如実に示します。効率化の結果として人を減らしたという話が出てくれば、その会社が人への投資に積極的かどうかを改めて考えた方がよいかもしれません。
会社選びは成長と面白さを軸に
―最後に、企業への転職を検討している弁護士が会社を選ぶうえで大切にすべきことを聞かせてください。
成長や裁量、挑戦といったキーワードがよく使われますが、突き詰めると「面白いと思える仕事が来るかどうか」が真ん中にあるのだと思います。「若手が生き生きしているかどうか」というのは、その会社の文化を測る1つの指標になります。
法律事務所ではクライアントから依頼が来る仕事が中心ですが、企業内では事業の内側から案件に関わることができます。その面白さを最大限に発揮できるかどうかは、会社がどれだけ人とAIに投資しているかと密接に関わっています。
今回整理したフレームワークは、AI時代に「自分が成長できる環境かどうか」「自分が貢献できる環境かどうか」という本質的な問いに立ち返るためのものでもあります。企業内弁護士としてのキャリアを長く豊かなものにするためにも、ぜひ参考にしていただければと思います。
※本稿はYouTube「松本慎一郎の法務サバイバー」をもとに編集しています。
https://www.youtube.com/watch?v=KmMuzxl4siE
金子 晋輔(かねこ しんすけ)弁護士(日本・ニューヨーク州)
法律事務所Verse代表。主な業務はAIスタートアップ支援、AI活用コンサルティング(ワークショップ、ハッカソン、コミュニティ企画運営)。 テクノロジー領域の法務・知財を15年経験。伊藤見富法律事務所(現:モリソン・フォースター法律事務所)にてテック企業やメーカーを 知財・システム開発訴訟にて代理。 アクセンチュア株式会社法務部マネージャーとしてDX案件の契約法務、法務部のナレッジ共有・ワークショップを担当。 dely 株式会社(現:クラシル株式会社)にて法務責任者、コーポレート担当執行役員、採用・労務責任者等を経験。X(@kaneko_sh)では生成AIの活用事例も投稿している。