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臨床心理士に転身した弁護士が語る法律相談での対人スキルの必要性 「話す言葉が全てじゃない」 

臨床心理士に転身した弁護士が語る法律相談での対人スキルの必要性 「話す言葉が全てじゃない」 

「弁護士ドットコムタイムズ」9月号は、マルチスキルの弁護士特集。 40代で弁護士から臨床心理士に転身した岡田裕子氏は、編著書「難しい依頼者と出会った法律家へ〜パーソナリティ障害の理解と支援」を2018年に出版した。弁護士だけでなく、法律相談を受けつける事務所の職員なども含めた司法関係者に向けたもの。「対人援助職」として最低限の心理知識を得ることは、相談のスキルを上げることだけでなく、自身を守ることにもつながると説く。(プロフェッショナルテック総研・川島美穂)

依頼者のその後をサポートしたくて心理職に


 東大法学部時代から心理学にも興味があり、家裁調査官も視野に入れていたものの、心理士という仕事はまだ認知度は低かった。司法試験に合格して数年は弁護士として働いた。ある民事事件での遺族との出会いが、キャリアチェンジのきっかけになった。

 「和解で事件自体は法律的には解決し、終結します。でも、この方は悲しい・悔しい思いを抱えながら生きていなかなければならないんだと考えたときに、私はこの先を聞いていきたいと思ったんです」

 臨床心理士の資格は、大学院で修士号を得る必要がある。30代半ばで心理学部に学士入学、修士課程に進み、出産・海外生活で中断。臨床心理士資格を取得したのは40代半ばだった。当初は弁護士との両立を考えていたが、専門性を磨くことを重視し、2017年には退会した。

 「弁護士の本質は依頼者のために戦うこと。私は戦いは不得意なので、お役に立てないのではと感じていました。心理職の仕事は『プロの料理人』でなければならないと言われたことがあります。お金を頂くプロフェッショナルなカウンセリングをできるようになるには、研鑽が欠かせません」
  

自身の相談を客観視する研修は弁護士にも有益


 心理職は、自身の担当したカウンセリングを先輩心理士に振り返ってもらう「スーパービジョン」を数多く受けなければならないのだという。自分を客観視し、どんな対応が適切だったのか、違った立場の人から指摘を受けることができる。岡田氏は、この手続きは弁護士にも有益だと指摘する。

 「ロースクールの授業や若手弁護士の教育の機会に携わることがあり、法律家の相談を見ていて『依頼者の言いたいことを引き出せていないな』『困りごとを汲み取れていないな』と感じることがありました。私もやっていたから分かりますが、弁護士は要件事実に沿って話を聞いてしまいます。でも悩んでいる依頼者は、必ずしも口に出すことが全てではありません。じっくり多面的に聞いてから法的な組み立てが必要です」

 しかし、限られた時間のなかで、弁護士がそこまでするのは至難の業だ。自身が弁護士だったからこそ分かる、この唯一無二の知識をまとめたのが冒頭の「難しい依頼者〜」の著書で、各弁護士会の研修などで重用されている。

言葉の裏を読むことはAIにはできない


 米国で心理士は博士号でサイコロジストと呼ばれる。ロースクールと大学の成績指標GPAも同レベルだといい、地位も、年収も高い。日本では、国家資格である公認心理師が創設され、認知度は高まっているものの、収入はなかなか上がっていない。

 「心理職の活用がもっと広がってほしいし、特に対人援助職の方には心理の知識や理解を深めてほしいです。人は千差万別ですが、類型があることを知っているだけでも対処法は変わります」

 AIの進化がめまぐるしい昨今、数値化できない対人スキルこそが「人間」に求められているのではないか。岡田氏はカウンセリング時に、服装や声色、雰囲気、表情、話し方など、言語化されない多くの情報に気を配るという。「日本でも、心理師が弁護士と協働できる場がもっと増えるといい。そのために私の経験が生きればと考えています」

岡田裕子(おかだ・ゆうこ)氏

臨床心理士・公認心理師 東京大学法学部卒業後、1994年に弁護士登録(46期、東京弁護士会)。松尾綜合法律事務所で企業法務を中心に担当する。上智大学総合人間科学部博士後期課程心理学専攻満期退学。2010年臨床心理士資格を取得、2017年に弁護士会を退会。現在、早稲田大学臨床法学教育研究所招聘研究員、西新宿臨床心理オフィス。

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