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ローカルで生き抜く!地域で築く弁護士キャリア

ローカルで生き抜く!地域で築く弁護士キャリア

司法修習を終えた新人弁護士の登録先が都心部に集中する事態が続いている。地域によっては、新人が一切来ない「 ゼロ単位会」が発生している。弁護士ドットコムの調べ(1月19日現在)では、76期は6割強が東京三会に所属し、ゼロは8つに上った。なぜ地方人気が高まらないのか、本当に「 食えない 」のかーー。 東京・大阪以外の会員に現状を聞き、お悩みを抽出。地方で活躍する弁護士3人に、開業やキャリアのあれこれを解説いただき、「ローカル弁護士」のこれからを考える。 企画・文:川島美穂、魚住あずさ、園田昌也 (弁護士ドットコムタイムズVol.70<2024年3月発行>より)

●ローカル弁護士3人が解説 地方開業の極意


東京・大阪以外を拠点に活躍する3人の弁護士による対談イベントを1月22日、オンラインで開催した。谷口麻有子弁護士(鳥取県)、前田貴史弁護士(福岡県)、古賀尚子弁護士(沖縄県)が、地域ならではの事務所経営術やキャリアの築き方、ワークライフバランスなどについて語った約1時間半をレポートする。3人の経験からは、開業前(過去)、開業後(現在)、これから(未来)、それぞれのフェーズで「極意」が見えてくる。

開業前 「仕事も、事務所も、初期投資が大事」


01 谷口弁護士
子育てのために地元回帰、事件なんでもやった


 弁護士登録した年に長男を出産。実家のある鳥取に戻って、夫が開設した弁護士法人の支所を立ち上げました。東京ではフルで働きながら2人以上の子供を育てるのは無理でした。オムツなどが入った袋を下げて、子供をベビーカーに乗せて電車での移動というのは本当に大変。鳥取なら車移動です。保育園の送り迎えや買い物も、車なら簡単でした。


 仕事面でも見通しがありました。鳥取に戻った2010年当時、弁護士が十分に足りていたとは言えなかった。夫がひまわりで約4年間働いていたこともあり、顧客の引継ぎも見込めると思っていました。ただ、どう働けばいくらの売上が立つという感覚が全くないままだったので、最初の頃は、来た事件を全て受けるというのを続けていました。国選も回ってきたら全て受けていたので、同じ警察署で3〜4人を順番に接見するような状態でしたね。法テラスや市役所の無料相談なども受けていた。受任件数が一度に80〜90件になって、時間がなく、本当に大変でした。


02 前田弁護士
社会人経験後早く独立、住んでみたい街へ


 もともと社会人経験があるので、イソ弁で勤務するっていう感覚はなく早く独立したかったんです。友人と大阪で開業、その後、駆け出しの土地だった京都に戻ったという流れです。福岡は「前から住んでみたかった街」だから。戦略的なことよりも、どこで生活したいかを重視したいなと思っています。


 京都では、独特のコミュニケーションの仕方があって理解するまでは大変ですが、慣れると、とても心地がいいんですよね。しかも内部の人に対しては、紹介がつながるところもある。最初は疎外感があっても、入り込んだら逆にそれが強みになることがありました。


 開業するに当たっては、事務所の内装や入居するビルの格に注意を払っています。エントランスのきれいさや、エレベーターホールが広くて複数基あることなどが選ぶ基準です。顧客にとっても、働いてくれる事務員の方にとっても、そのほうがいい。京都の本部事務所にはそれまでに貯めていたお金のほとんどを投入して現金はなくなりました(笑)。


03 古賀弁護士
格安の事務所を借りて内装をゴージャスに


 神奈川県出身で、沖縄に縁もゆかりもありませんでした。東京圏内で過ごしていくつもりでいたけれど、弁護士になってすぐに妊娠。1カ月ぐらい入院したこともあり、勤めていた東京都内の事務所に迷惑かけたくないと思って即独に近いような形で辞めました。


 東京では弁護士はどんどん増えていく中で、優秀な人もいっぱい見てきました。この人たちに太刀打ちできないなと思い、夫の実家である沖縄に移住しました。当時、沖縄は弁護士一人当たりの人口が少なく、東京・大阪・福岡に次ぐ4番目ぐらいでした。しかし、高齢の方が多いこともあり、いずれは落ち着くだろうという見通しもありました。


 当初は事務所経営には苦労しました。格安の17万円で借りた事務所を1000万円ぐらいかけて豪華に改造、シャンデリアもつけました。仕事はきてたけど、着手金だけでは厳しかった。忙しくても身入りが多くなく、親に運営費を借りました。結果として、内装を立派にすることは必要でした。大きな顧客層に今はつながっているので、無駄ではなかった。もうペイしていると思います。


開業後 「自分の強みを生かして人脈づくり」


01 谷口弁護士
依頼者の8割が女性、口コミ文化が強い


 鳥取に戻った当時、県内の弁護士数50数人のうち女性弁護士は5人くらいしかいませんでした。女性という特性だけでも、ニーズはあると思いました。実際、離婚や相続など家庭裁判所絡みの事件が増えました。個人の依頼者の8割が女性です。


 よそ者に対する警戒感はありますが、逆に地元の人には頼みたくない、という場合もあるんです。鳥取出身の私と、東京出身の夫でいろんなニーズを吸い上げられています。鳥取ではまだまだ口コミがものを言います。広告したからお客さんが集まるというものではない。いろんなところに顔を出す。役を振られたら一生懸命、テキパキとやる。親しみやすさとか誠実さをアピールする。紹介は増えるし、地位は確固たるものになっていくと思います。


 最初は目の回るような忙しさだったので、7、8年目くらいからは仕事の受け方に気をつけました。3人の子供を産んだ時も長期入院して、進め方にも苦労しました。病室で電話会議、PC持ち込みで起案、依頼者を呼んで打ち合わせなど。ただやはり経営者なので、時間の融通はきくわけです。やりくりすれば、子供の参観日や親子遠足、運動会にも出られます。


02 前田弁護士
中小企業の多い町、得意の不動産が生きる


 僕は不動産が好きで、その関係の依頼が多いです。中小の不動産会社さんとか建築・建設会社さんからご依頼いただいてます。東京などの都会と比べてそこまで競争が激しくないというところはいいかなと思っています。それなりの数の中小企業が存在する「京都」や「福岡」といった規模の地方都市が気に入っています。


 不動産屋さんと知り合ったら「一緒に勉強会しよう」って言います。「お金いらんから」って言ってね。不動産のことを教えてもらえるし、こちらは離婚・相続・破産などの局面で物件が出るということなども情報交換します。不動産好きで集まってワイワイするうちに、紹介が多くなってきましたね。


 自分を頼ってきてくれた依頼者に対して、しっかり自分の方針をわかりやすく説明するのが一番の宣伝になるかなと思っています。案件にどう対応するか、どういう方針を立てるかを依頼者に説明するのは、お客さんがお金を払ってプレゼンを聞きに来てくれてるみたいなものだと思ってます。一生懸命取り組んでいることをしっかり分かりやすい言葉で伝えれば、「あの先生よかったよ」ということになるんだと思うんです。


03 古賀弁護士
地元の人たちと積極交流、顧問が倍増


 当初は「沖縄の方言を喋ってない」「イントネーションが違う」と“よそ者扱い”されたこともあります。十数年たって、沖縄出身の人と同じ価値観や仕草などカルチャーに近い動きができる「島ナイチャー(本土から移住した人)」になってから、顧問が増えるようになりました。当初は、沖縄県にお嫁に来たというと、やっと受け入れられるみたいな閉鎖性はあったと思います。


 私は、中小企業の建築・建設業の顧問が多いんです。馬が合うんでしょうね。車の話とかで心が通じ合う。人によって得意な分野は違いが出てきます。地方では、いろんな分野で公的な役割なども空いている。手を挙げれば、意外に席が回ってくることはある。やりがいを求めるのであれば、いつでもスーパースターになれます。


 紹介で回ってくるきっかけは、人それぞれなのかもしれません。ある刑事事件の弁護で、被告人の友達が「あなたいいね」と言って医療法人の案件が回ってきたこともあります。単価の低い事件でも、それをいかに全力でやるか。紹介で仕事が来るなんて、若い頃は信じられなかった。でも、来ます。頑張って目の前の仕事を依頼者のためにやることが大事です。


プチアドバイス
顧客を得るためには内装・外装にも配慮を


01 谷口弁護士

内装にはこだわり、アンティーク調にしています。趣味で地元画家の油彩画を収集して、季節に合わせて掛け替えています。


02 前田弁護士

京都事務所の会議室です。山が見え、前の御池通りは祇園祭りの山鉾巡行のときに鉾が通ります。


03 古賀弁護士

事務所内装は、開業後に相談室を増やすために一度改装しました。


これから 「“やらされ仕事” はNO!自主的に動く」


01 谷口弁護士
経験積むのは自分次第、移りたいなら早いうちに


 地方なら、どんな事件でもやりたければ体験できます。私の場合は、鳥取に戻ってすぐに管財も配転されました。管財以外の裁判所からの案件(相続財産管理人、後見人、特別代理人など)も潤沢にあります。一般民事でも、東京では専門化した事務所しか受けないような医療過誤や建築紛争なども来ます。できませんと言って放り投げるわけにもいかず、経験が積めます。取捨選択しながら「自分のやりたいことが何なのか」を特化していけるはずです。


 イソ弁さんも、事務所の事件だけをやって給料だけをもらうという形式はまずないので、一定水準のお給料を保障されながら個人事件もバリバリやる。個人の一部を事務所に入れる割合を増やし、パートナーに移行していくというのが一般的だと思います。


 地方で弁護士をするのは、特殊なことではありません。目の前の依頼者や仕事に誠実に向き合って、がむしゃらにやっていけば、後から経営はついてくる。当たり前のことがまだまだ弁護士業界でも通用するんだろうなと思いました。地方での開業を考えている方に言いたいのは、早く行けば早く行くほどいいということです。


02 前田弁護士
大手の進出、ネガティブな面だけじゃない


 不動産以外にも、交通事故、離婚、相続、刑事など一通りやりましたが、独立してからは、中小企業案件がほとんどになりました。5年前に不動産賃貸業で株式会社を設立。現在、テナントビル、社屋、戸建てなどを所有して賃貸し、自主管理しています。また、債権回収会社の取締役弁護士をするようになって以降は、会社や個人の債権回収案件が増えてきて、今はその二本立てです。債権回収会社の業務はコンプライアンス中心ですが、いい勉強になります。


 イソ弁のときに扱った分野の中から比較的好きな案件のほうに意識的に集中していった結果です。不動産関連のお付き合いはSNSでも広がっていて、地域問わずに繋がりができています。東京の不動産会社を紹介していただき、東京の会社の顧問も数件やっています。


 大手チェーンが地方拠点を増やしていて不安だという声があります。私は京都のときに、よく残業代請求で新興大手事務所の相手方になりました。会社側の代理人としての交渉や労働審判でした。事件数が増えれば、相手方のニーズも生まれる。ネガティブに捉えすぎないことも大事だと思います。


03 古賀弁護士
事件に飛び込み、全力で依頼者の味方になる


 当初は国選なども担当していたので、朝4時ぐらいから起きて、夜は7時ぐらいまでは義母に子供を見てもらうという生活もしていました。運動会でも子供の出番まではパソコン打っているみたいな。法テラスや女性相談所の相談員とか、採算を考えずに受けていた時もありました。ただ、子供が2人目、3人目となった時に難しいなと思いました。イソ弁を採用したり、4人の事務員さんがベビーベッドを近くに置いて面倒見てくれたり。事務所みんなで子育てを生き抜くような形でした。


 これから地方で働く弁護士の方には、やっぱり事件に飛び込んで行って、積極的に依頼者のために動いてほしい。誰かにやらされてるという感覚だとめちゃめちゃきついので、この人の味方をしたいという人から依頼を受けて動く。なんでも来た案件を楽しいと思って、ガツガツいくような姿勢が必要だと思います。


 イベントの打ち合わせでも、谷口先生も、前田先生もメールのレスポンスが早い早い。それだけの出力がある人にお客さんがついてくるんだろうなと思いました。


プチアドバイス
ワークライフバランス 時間は自由自在


01 谷口弁護士

ゴルフを始め、夫や長男と月に2、3回はラウンドしています。近所のゴルフ場は、ドアtoドアで5分で着きます。


02 前田弁護士

マニラ郊外のタガイタイへ。プライベート時間を自分で設計でき、副業も自由にでき気に入ってます。


03 古賀弁護士

平日でも天気が良いと海へ。事務所から5分ほどの三重城港から渡嘉敷まで船が出ています。


お悩み解決!
細かすぎる質問にも答えてもらいました



Q. 一般民事の経験が乏しい弁護士でも中途採用してもらえるんですか?

A. 弁護士として何年かしていればお客さん対応はできるでしょうし、一般民事が特に特殊かといえばそんなことはないと思うので気にはならないと思います。ただ、「離婚できないからやりません」とか「相続できないからやりません」とか言ったらそれは困ります。あとは丁寧な仕事をやっていただけることが大事だと思います(谷口)


Q. 事務所の内装では、執務室と面談室でお金の掛け方に差はありますか?

A. 会議室は結構いいテーブルを使っています。福岡はまだ私しかいないですが、面談室の机は少しいいものを買いました。人それぞれですが、自分も汚いところで仕事はしたくないし、いいホテルやお店に普段行っているような社長さんは目が肥えているので、会議室やエントランスはお金をかけて少し立派な感じにしています(前田)


Q. 事務所が目立ちすぎると、依頼者にとってマイナスに働くこともあるのでは?

A. 確かに沖縄もネットワークが密なので、友達や親戚の繋がりが強い。やはり人目は気になると思うので、事務所の駐車場は広い形になっています。みんなが通るところは、私も嫌だなと思っていたので、静かなところにあります(古賀)


参加者の声

  • 得意分野を作って大都市の弁護士に張り合うようにしないといけないと思います。
  • 地方で真面目に開拓していけばうまくいくのかなと希望が持てました。
  • 東京で業務をスタートさせた弁護士の中には、出身地方で働きたいという思いを持つ弁護士も少なくないので、このような機会は非常に有益。
  • 紹介案件の獲得など地域への定着は時間がかかるため、地方への移籍や開業を目指すなら、早いほうが良いことが分かりました。
  • 私も地方の弁護士ですが、同じようなことをやっているのだな、そこまで外れたことをしていなかったと感じて、なんだか安心しました。




プロフィール


・谷口麻有子 弁護士

鳥取県生まれ。東京大学卒業。鳥取県弁護士会所属。旧61期。2008年に弁護士登録(第二東京弁護士会)。夫が開設した東京西法律事務所に参加。第1子を出産。2010年に鳥取県弁護士会に登録換。東京西法律事務所を法人化(弁護士法人TNLAWを設立)し、鳥取支所を開業、所長弁護士。2012年に第2子を出産。2014年に第3子を出産。2018年鳥取県弁護士会副会長。2023年鳥取県弁護士会副会長、中弁連理事。

・前田貴史 弁護士

大阪市生まれ。立命館大学卒業。同志社大学ロースクール修了。福岡県弁護士会所属。62期。1997年に滋賀県警に5年勤め退職。2009年に弁護士登録(京都弁護士会)。2013年に独立・大阪弁護士会に登録換。2015年に大阪で弁護士法人を設立。2018年に不動産管理会社を設立。2019年に京都弁護士会に登録換。富士パートナーズ法律事務所設立・弁護士法人富士パートナー設立。2023年12月に福岡県弁護士会に登録換。

・古賀尚子 弁護士

神奈川県生まれ。中央大学卒業。同大ロースクール修了。沖縄弁護士会所属。60期。2007年に弁護士登録(第一東京弁護士会)。2008年に第1子出産。2009年に夫と沖縄で事務所開設。沖縄弁護士会に登録換。2013年に1人目のイソ弁を採用。2016年に法人化・弁護士法人ニライ総合法律事務所へ。2人目のイソ弁を採用。2017年に第2子出産。2018年に沖縄市支店開設。2019年に第3子出産。2022年に3人目のイソ弁を採用。2014年に4人目のイソ弁入所予定。


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