インプットとアウトプットの高速サイクルで未来見通す BUSINESS LAWYERS AWARD 2025 松尾剛行弁護士
「BUSINESS LAWYERS AWARD 2025」全受賞者インタビュー。情報発信部門の松尾剛行弁護士(桃尾・松尾・難波法律事務所)に聞く。 【受賞理由】 ChatGPTが登場すると即座に解説書を出版するなど、圧倒的な速さで情報を発信し続ける。判例のない新たな法領域において、いち早く論点を整理・提示するその手腕は、オピニオンリーダーに相応しい。生成AIから中国法、キャリア論に至るまでその発信は時代の先端を行き、AIリーガルテック協会の代表理事として新分野の企業を後押しするなど、実務家を導く功績は計り知れない。 【プロフィール】 まつお・たかゆき 東京大学法学部卒、ハーバード・ロースクール等卒業。弁護士・NY州弁護士・法学博士。情報法関係の発信を積極的に行っており、『生成AIの法律実務』(弘文堂、2025)や『法律実務家のためのインプット・アウトプット術』(弘文堂、2026)などを執筆。AI時代に生き残るためのキャリア論の発信も。
移動中にスマホで書籍を執筆
テクノロジーの法律問題を中心に、最新テーマの書籍を出版し続ける松尾剛行氏。これを可能としているのは、情報のインプットとアウトプットの高速サイクルだ。気になる情報はメモや資料を一元管理できるワークスペース「Notion」に入れておき、本の原稿やセミナーの資料などは、往復30分ずつの通勤時間にスマートフォンで執筆することもある。「自分の頭の中にあるエッセンスを文章にする時間が大切です。白いキャンバスを埋めるイメージです」と述べる。
積極的に情報発信に取り組むようになったのは、米国と中国留学から帰国した2016年。自身の修士論文を『最新判例にみるインターネット上の名誉毀損の理論と実務』(勁草書房)と『クラウド情報管理の法律実務』(弘文堂)という書籍にしたことで、書くことに前向きになった。たくさんの実務をこなし、関連テーマの書籍を書くことで、同じ類型の悩みを抱える顧客からの相談がくるようになり、経験を積めた。「ノウハウを抱え込むのではなく、積極的に公開することで、多くの人の困りごとの解決につなげたい」というポリシーがある。
SFと言われても、AIの可能性を信じた
数多くの著作の中でも、自信作とも言えるのが、2025年に上梓した『生成AIの法律実務』(弘文堂)だ。生成AIをめぐる法律問題について、著作権法や個人情報保護法といった主要論点から、民事手続や刑事法といった周辺分野の法律まで幅広くまとめた。生成AIの法律問題をめぐる書籍は既に多く刊行されているが、本書は網羅性の高さや現場感の強さが評価され、発売から1年経たずに4刷を重ねた。
AIのような先進的な分野は、今でこそ注目の的になっているが、松尾氏がAIやロボットを含む先端技術の法律問題に取り組み始めた2000年代初頭は、周囲から「SFの世界」と言われることが多かった。「それでもAIのように、花が開く分野があります。だからこそ、SFだと言われる時期から、種を蒔いておくことが大事なんです」と振り返る。ポートフォリオ的な発想で、一つの分野だけでなく、複数の分野に取り組むことによって、10年後、20年後にどこかで花が開くことを狙っている。
いま注目しているのが、脳神経科学とITが融合した「ブレインテック」と呼ばれる分野だ。関心のある学者や弁護士たちとともに、共著『インターネット・オブ・ブレインズの法』(日本評論社)や学会での研究発表にも精力的に取り組むほか、今年は単著を出版予定だ。
もともと父親が大学教授だったこともあり、アカデミズムへの強い関心を抱いてきた。「小さい頃から大学が遊び場になっていたので、大学やアカデミズムは大好きです。もっと論文を出していきたい」と屈託のない笑顔を見せる。
AIが変えるキャリアのあり方に関心
弁護士によるAI分野への取り組みというと、法律問題が中心になりがちだが、松尾氏は、キャリアの問題にも注目してきた。2015年にAI・ロボットと労働法をテーマに講演してから、既存の仕事をテクノロジーに奪われることはあるのか、キャリアのあり方がどう変わるのかを考え、AI時代のキャリア論をライフワークにするようになった。『キャリアデザインのための企業法務入門』『キャリアプランニングのための企業法務弁護士入門』(いずれも有斐閣)など、キャリア関連の著作も複数あり、特別客員教授としてキャリア教育も担当している。
「発展が目覚ましいリーガルテックも、キャリア的な観点からはテクノロジーと人間との競争と捉える向きもあります。例えば、昔は弁護士が調べていたものを、リーガルテックではAIが簡単に出してくる時代に弁護士や法務パーソンがどう付加価値を出していけばいいのか、キャリア論の観点から考えることが大事です」と強調する。
必ずしも将来には悲観的ではなく、「法務パーソンはこれまで、外部の弁護士から借りてきた知識で自社の意思決定してきましたが、アウトソース先がAIに変わるだけで、必要な能力は変わりません。弁護士についても、暗黙知が多い領域等、AIが苦手な部分で付加価値を高めていけば、簡単には代替されないでしょう」と見通す。
今後も、先端技術やキャリア論、企業法務など、様々なジャンルでの情報発信に意欲を示す。「既に年齢よりも多い数の書籍の出版を実現したので、可能なら4桁に乗せたいですね」と夢は壮大だ。そのためにも、「読者に求められることが何よりも大事。求められることに応えていきたい」と意気込む。
未来を見据えて、自分の頭で考え抜き、ためらわずに動く。そのスタンスが、今後も多くの人たちの思考を刺激して、社会を進化させるものになっていく。