ITパスポート試験を侮れない理由 資格ソムリエ・林雄次氏が語る「士業とIT資格」
DX(デジタル・トランスフォーメーション)が必要だとあちこちで言われているものの、そのための知識はどう学べばいいのだろうか。資格試験を突破した経験のある士業にとって、新たにIT系資格にチャレンジするというのは有効な手段かもしれない。資格ソムリエとして、様々な資格についての情報発信に取り組む林雄次氏(社会保険労務士)にどこから手をつけたらいいのかを聞いた。(取材・文/新志有裕) (弁護士ドットコムタイムズVol.76<2025年9月発行>より)
最高峰を目指さず、まずはやってみることが大事
ーーあまり知識のないレベルからスタートする場合、どの資格試験がおすすめですか
ITパスポート試験がいいんじゃないかと思います。この資格を知っている人は、「簡単すぎて意味がない」と言うかもしれませんが、実際、そんなことはありません。私はLEC東京リーガルマインドでこの試験の講師をやっている関係で、内容をよく知っているのですが、問題の中で、テクノロジ関連が占める割合は半分を切っていて、マネジメントやストラテジ関連の問題がたくさんあります。出題内容の更新頻度も高く、生成AIも入っています。今時のビジネス全般について学べるので、士業の方におすすめです。
私自身が受け直してみても、「なんだろうこれは?」という超最新のワードが出てきて、とても勉強になります。学習時間も30時間くらいで、受かる人もいますし、だいたい1か月間くらい勉強すれば合格できるのではないでしょうか。士業の人たちは真面目なので、最高峰の資格を目指したくなるのかもしれないのですが、まずはやってみる、という点で、ITパスポート試験はよい学びにつながります。
ーーその次の段階はどうでしょうか
国家試験としては、情報セキュリティに特化した情報セキュリティマネジメント試験がおすすめです。年間を通じてCBT(コンピュータを利用して実施する試験)で受けられますし、合格率も半分を超えています。セキュリティに特化していますので、勉強の範囲は狭く、実務に結びつきやすいものになっています。人によっては、この試験から始めるというのもいいかもしれません。
つまみ食い的に勉強してもいい
ーー国家試験の中では、名前だけをみると、ITパスポート試験の次のステップとしての基本情報技術者試験がスタンダードなのではないでしょうか
基本情報技術者試験は名前に反して、全然基本ではないですね。メモリなど、ハードウェアについてのマニアックな問題も出てきます。
士業の方はエンジニアになるわけではありませんので、つまみ食い的に勉強してもいいと思います。その場合、士業がメモリの細かい話を知っても仕方ないでしょう。むしろ、分野を選べる応用情報技術者試験にチャレンジしてもいいでしょうし、ITストラテジスト試験もおすすめです。
ITストラテジスト試験は、最新のITをどう現場に生かすかを重視しています。例えば、キャッシュレスでシェアサイクルの仕組みをどう構築するのか、といった話ですね。他にプロジェクトマネージャ試験もいいですね。士業の仕事は、顧客の業務改善につながる話も多いので、士業の専門分野に付随して、業務改善や攻めのIT活用などを提案できるようになると、とても魅力的なものになります。
ーーそこまでやれる士業の方はそう多くはないのではないでしょうか
確かにそうですね。でも、クライアントがIT企業ですと、IT知識はなるべくあった方が響くでしょう。また、ITに詳しい士業の方がそこまで多くはないので、逆に、その点を前に出すと、強いアピールポイントになります。私も「ITに詳しい」ということで結構問い合わせがきます。士業の方でも、ITについて学びたい方は一定数いますので、いきなり難しいものに行かずに、ITパスポートからスタートすることをおすすめします。
ーー林さんは社労士資格を持っていますが、社労士の世界でもITスキルを学ぼうとしている人は増えているのでしょうか
ITスキルの高い人はそこまで多くはありませんが、学びたい人は一定数いて、生成AIの研修をお願いされることもあります。新しいツールを使いたいという人も多いのですが、最低限知っておくべきことはあるので、まずはITパスポート試験からやった方がいいですね。
オフィスソフトも使いこなせず、DXと言っていていいのか
ーー流行りのものということで、生成AIを使えるようになりたい、という士業の方におすすめの資格はありますか
G検定(一般社団法人日本ディープラーニング協会が実施するAIに関する検定試験および民間資格)がデファクトスタンダードになっていますが、結構難しいので、そこまでやる必要はないかもしれないです。人に教える、というのではなく、自分で使う、くらいであれば、生成AIパスポート試験(AIに関する基礎知識、生成AIの簡易的な活用スキルを一般社団法人生成AI活用普及協会が認定する資格)がちょうどいいでしょう。プロンプトが理解できるようになりますので、チャレンジしてみてはどうでしょうか。
ーー他に民間の資格でおすすめなものはありますか
地味ですが、マイクロソフトのオフィススペシャリストですね。オフィスソフトというと、あまりにもありふれたものなので、バカにする人もいるかもしれませんが、ワードの機能を本当に使いこなせる人はどれくらいいるのでしょうか。ほとんどの人が我流で最低限の機能だけ使っていて、知らない機能もたくさんあると思います。オフィスも使いこなせずに、DXと言っていいのでしょうか。
ーー勉強時間はどう捻出すればいいのでしょうか
隙間時間を使うことです。移動中に15分間やるだけでもいいです。積み重ねることで、勉強の効果が出てきます。士業の方は真面目に完璧を目指しがちなのですが、わからないものはわからなくて当然です。ジグソーパズルと同じで、なんとなく全体感を掴んで、だんだんと埋めていくものです。気楽にやりましょう。
【プロフィール】
林 雄次(はやし ゆうじ)
IT関連企業で1000社以上の中小企業の業務改善に従事。エンジニア教育の講師として、多くの資格取得を経て、社労士・行政書士として「はやし総合支援事務所」を開業。企業の支援に取り組む。保有資格・検定は600を超え、『資格ソムリエ®』としても活動中。