日本型雇用を変えるオピニオンリーダー BUSINESS LAWYERS AWARD 2025 倉重公太朗弁護士
「BUSINESS LAWYERS AWARD 2025」全受賞者インタビュー。情報発信部門の倉重公太朗弁護士(KKM法律事務所)に聞く。 【受賞理由】 経営者側労働法弁護士の立場から、法律論にとどまらないオピニオンを発信し続ける稀有な存在である。Yahoo!ニュースでは370本超の記事を執筆し、解雇規制など国の政策にまで踏み込んだ提言も行う。また、日本人材マネジメント協会副理事長として数多くの研究会を主導し、人事担当者や研究者との対話を通じて知見を社会に還元。企業法務の枠を越えて影響を及ぼしている。 【プロフィール】 くらしげ・こうたろう 慶應義塾大学経済学部卒。経営者側の労働法務を専門とし、第一東京弁護士会労働法制委員会副委員長、日本人材マネジメント協会副理事長、日本労務学会など、法曹・アカデミック・人事労務界で活動。発信は『企業労働法実務入門』など30を超える著作、Yahoo!ニュース個人、YouTubeなど。
飲み会は年300件、対話を重視
参加・主宰する飲み会は年間300件。企業法務の弁護士というと、ともすると法務部の外からは距離のある存在に見えがちだが、倉重公太朗氏は「気軽に会いに行ける弁護士」として、いつも人事労務関係者のコミュニティの中心で豪快な笑顔を見せている。
倉重氏が人事労務担当者に注目しているのは、使用者側の労働弁護士として、労使紛争が起きる前の課題解決を重要視しているからだ。もともとは、労働問題を専門に扱う事務所で、紛争解決に取り組んできたが、人脈を広げる中で、その手前にある紛争予防の重要性を理解するようになった。「紛争が複雑化していて、人事評価や賃金制度も理解しないと解決は難しくなっています」と語る。
今では、NPO法人日本人材マネジメント協会の副理事長として、人事のコミュニティ作りに注力し、人事制度、採用、キャリア、人材開発、企業変革など、法律以外のテーマについても、学びの場を提供し続けている。飲み会もセットになっているのが前提で、自身の事務所で開催する小規模なものから、大規模なイベントまで、運営力の高さを発揮している。
倉重氏は、AIが普及して人間の業務を代替するようになる時代には、代替可能な外形的スペックを売りにするよりも、人と人の情緒的なつながりを重視する「スナックコミュニティ戦略」が有効だと提唱しており、自らこれを実践している形にもなっている。
「今は情報の分断が起きている時代です。これを乗り越えるためには、リアルなコミュニティでの対話が重要です。SNSで喧嘩をするのではなく、直接会って、関係性を築くことで建設的な対話になります」と狙いを語る。
単なるノウハウよりも共感が大事
コミュニティ作りが「内向きの対話」だとすると、メディア出演や書籍の執筆、YouTubeチャンネル運営などが「外向きの発信」となる。わかりやすさを大切にして、YouTubeの動画を見た企業からの問い合わせも増えている。
特に注力しているのが、労働法だけでなく、年功序列や終身雇用などに代表される日本の雇用システム全体の改革だ。10年ほど前に、東洋経済オンラインの取材や連載企画に対応したことをきっかけに、発信を強めていった。
「メディアには、悪質企業に苦しめられている人たちの極端な事例が出てきがちなのですが、世の中のほとんどの人は普通の環境で働く人たちです。彼らの悩みはモチベーションだったり、キャリアだったり、メディアに出てくる極端なものと異なります」と背景を語る。弁護士の中でも、労働者側の弁護士によるメディア発信は盛んだが、使用者側ではそのような動きが乏しい。自身が先頭に立って、雇用システムの課題を解きほぐし、明示していく。「だからといって、企業による首切りのノウハウを発信したいわけではありません。社会を変えたいという思いに共感してもらうことが大事です」と強調する。
発信する内容については、この10年間で大きな変化があったと感じている。「電通事件(2015年に起きた過労自殺)を契機に、働き方改革に代表される労働者保護強化の流れが生まれましたが、最近は見直しの方向へと変わってきています。日本企業や労働者自身が今のままでは成長できなくなるんじゃないかという危機感が背景にあります」と語る。今後は、40年ぶりとも言われる労働基準法の改正論議もあり、大きな変化のタイミングだと捉えている。
「雇用の終わらせ方」の提言へ
特に今後、発信していきたいテーマが、解雇の金銭解決制度だ。日本型雇用システムの大きな課題である「雇用の終わらせ方」を変えるきっかけとなりうる。長年、厚生労働省で、解雇が無効となった場合に、金銭で解決するための制度設計の議論が重ねられているが、労使の意見の対立があり、なかなか進む気配がない。
「このテーマについては、経営者だけでなく、学者でも必要だと思っている人はいるのですが、解雇が絡んでいるだけに、それを言うと、『けしからん』と批判されてしまうことを恐れて、なかなか表立って主張したがりません。厚労省の動きも鈍い。だから自分が言うしかないと思ってます」
まずは、退職合意形成の調査研究を通じて、学会などで研究者などの専門家を巻き込むところから始め、人事責任者、現場の人事担当者、そして、一般の人たちへと段階的に問題提起することを考えている。
「体力と経験のバランスが取れた、40代後半の5年間を使って、しっかり取り組みたいですね。日本型雇用の硬直的な仕組みから脱却して、もっと働く人たちが主体的にキャリアを築けるような社会にしていきたい」。まだまだ勢いは止まりそうにない。