「小さいながらも楽しい我が事務所 」に 〜北弁護士と考える小規模経営検討会レポート〜
7 月の夜、東京都港区の法律事務所アルシエンに集まったのは、60 期から 72 期の弁護士 9 人。大半が小規模事務所の経営者だが、中堅が独立していくなか、ボスとの関係で思い悩む若手の姿も。東京以外からの参加もあった。約 4 時間続いた議論の中心は、今後どう働いて売上をあげていくかー。オフラインで顔を突き合わせるからこそ話せることがあると、ここに集ったのだという。 (弁護士ドットコムタイムズVol.73<2024年12月発行>より)
● 少額債権回収の次の段階
A さん(67 期): 北先生のノーキャンドットコムのようなビジネスは汎用性が高そうだよね。儲かる債権回収は他にもありそう。養育費とか…
北弁護士(60 期):家賃不払いとかアイデアは多数ある。でも少額だからか、参入してくる弁護士が意外と少なくて。今は、ノーキャン以外にも薬剤師や医師の人材紹介会社の紹介手数料・違約金の回収も請け負ってる。各業界が採用難なので、訴訟も増えてるけど定型化されているからコストはかからない。年収の高い人材なら、違約金も高くなるからね。
B さん(69 期):需要はあるから、数こなせば相当な額の売上になるのでは?
北弁護士:事務所では頼めるスタッフの数が限られているから、あまり多すぎたら回らないんだよー。ノーキャンは今は月 1500 件くらい督促している状態かな。
A さん:生成 AI は不定型の文章から指定された部分を読み取るのが得意なので、督促状を作るのは現実的だと思います。まあ大量にやって裁判になっちゃったら、回らなくなるでしょうけど。
北弁護士:そうなんですよ。私の工数が大量に増えちゃうんでね。一緒にやってくれる人がいればいいんですけど…
● 商機を見つける術とは
A さん:北先生みたいに、マーケットイン(どの市場にニーズがあるかを見極めてビジネスを考えること)ができる人ってそんなにいないと思うんですよ。未開の地を見つけるのがうまいっていうか。
一同:うんうん。
北弁護士:弁護士って、どうしてもフルセットのサービスを提供しようと頑張っちゃうじゃないですか。キャンセル料は数千円ですよ。でも気軽に頼めるサービスこそ需要があると思っていて。「権利の実現を容易に」をコンセプトにしています。権利ってあっても実現できなきゃ意味ないですから。
私も法テラスに始まり、いろんな仕事をやってきました。弁護団事件では有能すぎる弁護士に衝撃を受けたりとか。証拠・尋問すべてが的確。職人的な仕事では勝てないなと思いました。自分には何ができるかを考えて、やってきたという形。
B さん:僕も絞ってやりたい気持ちはあって、切りたい仕事は多いんだけど、なかなか難しい。国選も大変だけど、やったら楽しいみたいなところもあるんですよね。
● 地方での経営を成功させるには
C さん(62 期):いまは地方の小規模事務所で、消費者相手の仕事が多いです。これからの人口動向や弁護士との需給バランスでいうと、やっぱり都会のほうがいいのかなと外部環境の影響を考えちゃいます。
北弁護士:うーん、ミニマム経営ならあまり関係ないんじゃないかな。外部環境は変えようがないし、自分がどう対応するか。小さければ業態変更も簡単だしね。
D さん(60 期): うちも東京以外で、交通事故と相続に絞ってます。広告といっても、SEO 対策くらいです。ただ、取りたい案件のキーワードを精査して、記事をつくってますね。アクセスだけ重視すると、いろんなお客さんが来てしまうので戦略としてはいまひとつです。
北弁護士:私は地方の状況に詳しくないけど、うまくいっている方は 1 人で顧問100 超をこなしています。また、クレプトマニア(窃盗症)の刑事弁護だけを専門にする弁護士など、分野を絞っている人は強いですよね。法律はたくさんあって、どれかに深く詳しければアドバンテージになる。それに当たるのは、偶然もあるだろうし、戦略的に探す人もいるでしょうね。
● 愚痴りたい時どうする ?
B さん:ミニマムでやってて、寂しくなる時ないですか。たまにあるんです。無性に愚痴りたいなっていう時。
E さん(60 期):僕がいた共同事務所はそれぞれ独立採算だけど、集まる場所は学校の職員室みたいな雰囲気があって、何かつぶやけば返してくれるみたいな。刑事やってるとありますよねー。X じゃ、とてもつぶやける内容じゃないし。
A さん:同期とか近い領域の人と飲むことはあるけど、いろんな地域や世代の人とリアルで交流する場って意外とないんですよね。やっぱりリアルだと本音が出ていい。オンラインってどこかで聞いたことある話とか、調べればわかることばかり。今日は得るものがありました。
記者:忙しい中でも午後 7 時からの開催で集まれるものなんですね。
F さん(67 期):まあ帰ってから仕事しますけど(現在、午後 11 時)
A さん:僕もです。
記者:え ...
A さん:まあ平日午前の空いている時間にジムに行けるとか時間の使い方が自由なのが小規模事務所の良いところです。
北弁護士:みなさん、お疲れ様でした。私としては「ミニマム経営、悪くないよ」と考えてるんですね。でも、なかなか集まる機会がないので、今回は X で募ってみました。それぞれのお話が聞けて、私の悩みも聞いてもらえた(笑)。今日はありがとうございました。