父の急逝で事業承継に直面 中小M&Aキーマンに BUSINESS LAWYERS AWARD 2025 皿谷将弁護士
「BUSINESS LAWYERS AWARD 2025」全受賞者インタビュー。次世代選抜部門の皿谷将弁護士(株式会社バトンズ)に聞く。 【受賞理由】 税理士である父の急逝により事業承継問題の当事者に。この体験をきっかけに中小企業支援に尽力する。出向先の中小企業庁では「中小M&Aガイドライン」の策定などを牽引し、取り引きの促進・安全性の確保に努めた。現在はバトンズ執行役員として、実務・政策・事業の3つの立場から中小M&Aの変革を担っており、インハウスロイヤーとしての活動に大きな期待が寄せられる。 【プロフィール】 さらや・しょう 山形県出身。東京大学法学部卒、同法科大学院修了。2013年に弁護士登録後、センチュリー法律事務所で事業再生・M&Aを中心に扱う。2019年から中小企業庁で事業承継・M&A支援策の立案等を担当。2023年、M&Aプラットフォーマーの株式会社バトンズに入社。執行役員、CLO兼CCO。
中途半端では故郷に帰れない
生まれ育った山形県寒河江市は人口約4万人の小都市で、さくらんぼの産地で知られる。一族には士師業・自営業者が多く、祖父母は大正時代から続く老舗そば屋。自然と士業を志した。中でも弁護士を選んだのは税理士だった父の存在があったからだ。
「税理士になっても父に勝てる気がしなかったし、“2代目”とは思われたくなかった。弁護士なら父と連携して仕事ができそうだなと」
就職活動では地元の山形、司法修習地の仙台のほか、事業再生や倒産に強い事務所などを見て回った。小さなころから父と地元経営者とのやりとりを見てきて、中小企業を支える仕事に魅力を感じていた。
そんな父が、弁護士2年目の2015年に急逝。10人弱の事務員や付き合いの長い多くの関与先をどうするか、何より父と母が二人三脚で営んできた事務所がなくなってしまう。一時は実家に戻ることも考えたという。そんなとき、父の部屋であるものを見つけた。
「日めくりカレンダーの2012年9月11日分が残っていました。私の司法試験の合格発表日です。それを見て、自分が弁護士として何がしたいかを改めて考えました」
いまは父のように中小企業を支えるスキルがない。中途半端な状態では山形に帰れない—。父の事務所を残しつつ、自身もキャリアを積める道はないか。考えた末、税理士法人化して事務所を存続させることにした。苦心の末、信頼できる第三者の税理士が引き継いでくれることになった。
自身も東京で弁護士をしながら、出向する直前の2019年夏まで月2〜3回山形に帰り、父の事務所に関与した。「イレギュラーな働き方を受け入れてくれた、法律事務所の所長弁護士には今も心から感謝しています」
中小M&A、中心で整備
その日の衝撃はいまも覚えている。2019年1月のことだ。経験を積み、事業承継分野では名が知られるようになっていた。依頼された事業承継セミナーの資料を作ろうと、2045年時点の山形県や寒河江市の予測人口を調べたところ、想像を超える少なさに驚いた。
父の死と事業承継の苦労、高齢経営者の名が並ぶ地元紙のお悔やみ欄、後継者不足や相続についての法律相談—。知識と経験が強烈につながり、故郷への漠然とした不安が具体的な危機感に変わった。
そんな折、中小企業庁が任期付公務員として弁護士を募集していることを知る。「法律事務所のある大手町から地元の寒河江に帰るたび、まったく違う世界だという感覚があり、この空気感を霞が関に伝えたいと思いました」
2019年9月の入庁当初に聞いていた業務は、主に親族内承継の支援や税制整備の担当。しかし、政府が成長戦略などとして中小企業のM&Aを打ち出すと、その促進と安全性確保の基盤作りに追われた。翌年、新型コロナウイルスが流行すると、廃業増加への懸念もあって勢いは加速する。
在任中は「中小M&Aガイドライン」(2020年)、「中小PMIガイドライン」(2022年)、「事業承継ガイドライン(第3版)」(2022年)と3つのガイドラインの策定・改訂に従事。このほか、M&A支援機関登録制度の創設や関連税制、補助金の整備などにも取り組んだ。
中小企業庁の資料によると、2014年度に400件ほどだった中小M&Aは、2021年度に約4900件、2022年度には約5700件と激増。2022年3月までの在任期間は2年7カ月に過ぎないが、中小M&Aにとっては激動の時期だった。
「民」側から制度を牽引
バトンズと本格的なかかわりができたのは法律事務所に戻ってから。最初はユーザーとして、続いて顧問として、最後に入社を誘われた。
「ビジョンである『誰でも、何処でも、簡単に、自由に、M&Aが出来る社会を実現する』、『M&Aの成約ではなく、その先にある成功を追求する』という姿勢に惹かれました。地方の中小企業でもM&Aが現実的な選択肢になれば、後継者不足に悩む地方経済にもプラスになります」
現在は、自社M&Aプラットフォームにおけるユーザーの審査や規約の整備のほか、新サービスの開発、サイバーセキュリティ、各種コンプライアンス対応など、リーディングカンパニー側からM&Aの推進と業界の安全性を牽引する。
取材時のネクタイは、アワード表彰式のときにも着けていた“勝負ネクタイ”。「父の遺品なんです。父を知らないところに連れていってあげたくて」。父の背中から学んだのは「士業はその人自身が商品」、「生きる姿勢にビジネス上の価値が生まれる」ということ。受け継いだバトンを胸に、今後も全国の中小企業の支援に力を尽くす。