• HOME
  • AI契約書レビューで企業のリスク低減 リセ・藤田社長(弁護士)の挑戦

AI契約書レビューで企業のリスク低減 リセ・藤田社長(弁護士)の挑戦

AI契約書レビューで企業のリスク低減 リセ・藤田社長(弁護士)の挑戦

法律や会計分野におけるDXサービスは、生成AIの登場もあって、激しいスピードで進化を遂げている。この進化を担うのは、エンジニアだけではない。士業の当事者が自ら開発者として、先進的なサービスの開発に取り組んでいる。弁護士ドットコムの「士業DX白書2025」では、そんな士業当事者たちがどのような思いでサービス開発に取り組んでいるのかを聞いた。初回は、AI契約書レビューのサービスを手がける株式会社リセの藤田美樹・代表取締役社長(弁護士)のインタビューを紹介したい。(ライティング:国分瑠衣子)

プロダクト・顧客・社員に向き合い、法務リスクを減らす


――起業のきっかけを教えてください。

もともと起業に興味があったわけではないんです。ただ、契約書への問題意識はありました。西村あさひ法律事務所では主に大企業の案件を担当していました。事務所のホームページに投げ込みで中小企業から相談が来るんですが、契約書のトラブルが起こってからの相談が非常に多かったんです。しかし事後では解決するのは難しいという事例がほとんどでした。契約書の中に「この一文さえなければ」「この文言が入っていれば」。中小企業と法務の体制が整っている大企業との格差を目の当たりにしました。

私の専門分野は企業間の紛争で、海外企業との取引でトラブルになった国内企業の相談も受けてきました。事前に適切な契約書を備えれば避けられたトラブルが大半で、相談を受けた段階ではどうしようもないというものも多かったのです。

今でも忘れられないのは、アジア企業との紛争で不利益を被った中堅企業のことです。取引額が3000万円ほどの案件でした。厳しかったですが、諦めきれないとの意をくんで訴訟に持ち込みましたが敗訴しました。「力及ばず」とメールした時の苦い記憶が残っています。

訴訟は、2000万円や3000万円だったら費用倒れになってしまう。「諦めたほうがいい、事が起こってからではしょうがないんです」というのが弁護士としてベストなアドバイスというのは悔しかった。契約書のリスクを事前に減らし、紛争を防ぎたいという思いがありました。

ただ、中小企業の場合、契約書をレビューする弁護士費用がネックだったり、社内に専門的な知識を有する人がいなかったりします。どうにもならないのかなと思っていたときにリーガルテックに出会ったんです。

ーーどんなタイミングだったのでしょうか。

生成AIが登場する前は、法律に関連する分野の領域はAIの代替性が低いと言われていました。アメリカへ留学していた際にリーガルテックの進展には注目していましたが、まだまだ導入されるのは先だと考えていました。

でも、法律事務所でアメリカのリーガルテック2社からたまたま営業を受けたんです。書類や契約書を解析する商品で、「ここまでできるのか」と衝撃を受けました。これから法律に関連する分野もテックで変わる時代がくると確信し、だったら私自身は変わるのを待つのではなく、「変える側」になりたいと思ったんです。

――起業することに対し、周囲はどんな反応でしたか。

友人の弁護士たちからは、ほぼ反対されました。弁護士は失敗例も多く見ているからでしょうね。でも不思議と、私には反対の声が響かなくて「やってみたい」という気持ちが強かった。相談したスタートアップの経営者から「やろうと思ったときにやらなかったら一生やらないから、今やったほうがいい」と言われたことも大きいです。「問題意識を持っているんだったら、自分が主導して会社を立ち上げるべきだし、そうでなければうまくいかない」とも助言してもらいました。

ーーテクノロジーには詳しかったのですか。

当時は全くでした。何から手を付ければいいのか分からず、とりあえずプログラミングの通信講座で1日1時間ほど勉強するというレベルです。AIとはなんぞや、から始めた感じ。あとはいろいろな業界の人に会って、事業展望を説明しました。最初から契約書におけるリスクを減らせる契約書レビューのプロダクトを作るということは固まっていたので。一緒にやろうと言ってくれたエンジニアがいて、始めたのが経緯です。

最初の2年は、AIの精度が上がらず苦しかったです。同業他社が出てきたタイミングで会社が潰れるかもしれないと思いましたが、ゼロイチに興味を持ってくれる人はいて、少しずつ事業を拡大していきました。力を貸してくれる弁護士も多く、士業関連のサービスでは専門性の高い弁護士の協力を得られることが非常に大きいと思います。

弁護士時代は依頼者の代理人として訴訟で負けたくないという気持ちが強かったですが、会社経営は誰かとの戦いではありません。ひたすら自社のプロダクトと、自社の社員と向き合う、この2つです。お客さまの声を聞き、冷静にプロダクトを見て分析し、製品を磨くことです。週1回、お客さまのフィードバックを聞く時間は重要だと感じています。

人手不足の将来、AIを使いこなせれば素敵


ーー国内企業の契約書への問題意識は変わってきていますか。

弁護士になったばかりの20年前は、数百億円の案件でも契約書2枚だけなんてことがありました。今は国内企業の意識は高まってきていると感じます。ただ、日本企業間の取引もトラブルリスクが上がっている印象です。日本でも権利意識が芽生えて、権利について主張するようになったのでしょう。

国内と海外ではもめるリスクが桁違いです。英語には細心の注意を払って、日本と同じ感覚でビジネスをしないでほしいと伝えたい。国別で言えば、アジアは欧米よりもリスクが高い印象です。国外の企業と取引する中小企業も増えていますが、日本のように期日通りに支払うとは限りません。訴状が出るまで払わないと言ってもいいというような会社が相当ある国も。良い悪いではなく、そういうCFO(最高財務責任者)が評価される商習慣で、文化なのです。

まじめな企業はたくさんありますが、ぞんざいな扱いを受ける確率が国内よりは非常に高いことを理解してほしいです。そのためにも契約書レビューを、もっと広げたいと思っています。

創業6年目を迎え、いろいろな会社と協業し、今後もより日本の企業の取引におけるリスクを減らすためにサービスを深化させていきます。契約書レビュー支援AIクラウド「LeCHECK(リチェック)」では化学・不動産など業種別に特化したプロダクト開発も行い、提供しています。弊社は監修する弁護士の質を売りとしています。また、首都圏以外のお客さまが半分ほどを占めています。地方のほうが弁護士へのアクセスが難しく、まだニーズが高いと感じています。

ーーAIの進化で、弁護士の仕事はどう変化すると考えますか。

AIの進化で仕事がなくなると言われますが、人手不足の日本企業や弁護士事務所にとってチャンスだと思います。労働人口が減っていくことによる悪影響は法務分野も受け得るわけですが、これを業務効率化で補うことができるのではないかと思います。

1年目と30年目の弁護士の違いは、受けた案件の数や経験値、思考してきた時間の差ですよね。紙の時代は、調べものをするために図書館に行って膨大な資料の中から該当するものを探してと労力がかかりました。でも今は座ったままでリサーチや分析ができ、生産性が大幅に上がっています。昔の人がやっていた「作業」をしなくていいことで、案件も増やせて、短い時間でより多くの経験値を上げられる可能性もあります。

ワークライフバランスを整え、好きな仕事ができる。ネガティブに考えず、AIを使いこなし、利益を享受する。こんな素敵なことはないと思います。

ーー起業を考える若い世代にメッセージをお願いします。

起業はマーケティングから経理まで全て自分でやるため、さまざまな経験を積めます。失敗しても財産になる。やることにデメリットは何もありません。国や地方自治体などでスタートアップ支援をしているので、起業のハードルは下がっていると感じます。ぜひチャレンジしてほしいです。

【サービス】
LeCHECK(リチェック)
専門弁護士監修のAIが瞬時に不利な条項や抜けている部分を指摘し、修正条文案を提示する。また、最新の法改正に対応した解説も提供。自社ひな型を登録すれば、社内ルールや過去のトラブル履歴を蓄積することも可能で、過去の類似する条文をAIが自動検索し、代替案として使うこともできる。加えて、海外取引特有のリスクにも対応。英文での修正文案とその和訳を提示するほか、英文契約書の機械翻訳も同時に行う。さらに、キャビネットでの契約書保管管理、Wordへの対応もしている。

【プロフィール】
藤田美樹(ふじた・みき)
株式会社リセ代表取締役社長。1998年東京大学法学部卒業後に司法試験合格(54期)。2001年西村総合法律事務所(現西村あさひ法律事務所)に入所。米国Duke大学ロースクール卒業(LLM)、NY州法律事務所勤務を経て、2008年NY州弁護士登録。帰国後、2013年にパートナー就任。2018年に株式会社リセ設立。複数企業の社外取締役も務める。

【お知らせ】
「士業DX白書2025」では今回のような開発者インタビュー以外にも、弁護士、税理士など7士業を横断した、DX期待度スコアの算出、士業ごとの概要・課題分析、士業やそのユーザーのアンケート、DXサービスリストの作成など、多岐にわたるコンテンツを掲載しています。PDF版を無料で配布していますので、ぜひご一読ください。
詳細はこちら

  • 記事URLをコピーしました

弁護士向け

限定コンテンツのご案内

弁護士ドットコムでは、会員弁護士のみがアクセス可能なマイページサービスページをご用意しています。

本サイト内で公開されている記事以外にも、マイページ限定のコンテンツや、法曹関係者向けにセレクションした共同通信社の記事など、無料で登録・閲覧できる記事を日々更新しております。また、実務や法曹関係の話題、弁護士同士が匿名で情報交換できる無料の掲示板サービス「コミュニティ」も好評です。情報のキャッチアップや、息抜きなどにご活用ください。ご興味がございましたら、下記から是非ご登録ください。