法学未修者が選ぶ「良かった」教授4人の授業とは?1年次には「枝葉は落として教える」
「法学未修者教育に関するシンポジウム」(主催:日本弁護士連合会、共催:法科大学院協会)が6月19日、オンラインで開催された。 シンポでは、法科大学院協会と日弁連が2020年秋に立ち上げた「未修者教育プロジェクト」が、若手弁護士を中心とした未修者コース修了者17人と、実際に法科大学院で未修者教育にあたる4人の教員に対して3〜4月にヒアリングした調査結果の報告などがおこなわれた。 2回目は、実際に未修者教育にあたる4人の教員がおこなった授業の実践例などについて紹介する。 ※写真はイメージです(IYO / PIXTA)
「枝葉は落とす」内容を絞った授業が好評価
シンポで実践例などを紹介したのは、未修者コース修了者のヒアリングで「よかった先生」として名前があがった刑法・民法・憲法の教授4人。「内容を絞った授業」をおこなっていることが共通していた。
東北大学大学院法学研究科教授(刑法)の成瀬幸典氏は「1年次では、実務法曹として必要な幹の部分に絞り、枝葉は落として教える」ことにしているという。
「たとえば、誤想過剰防衛は重要な論点のひとつですが、応用的な部分なので、1年次は(枝葉にあたるので)扱いません。基本的な論点を応用すれば、この論点の重要性は徐々に分かると思うので、まずは『正当防衛をしっかり理解しましょう』と教える。正当防衛の原理や錯誤論が分かってくれば、誤想防衛や誤想過剰防衛も解けるようになるでしょう」(成瀬氏)
具体的に「幹」となるのは、どの部分なのか。神戸大学大学院法学研究科教授(民法)の田中洋氏は「司法試験でいうと『幹』になる知識は、論文で使われる知識。短答だけで論文には出てこないと思われる知識は『枝葉』の知識だと考えて選別をしている」という。一橋大学大学院法学研究科教授の只野雅人氏(憲法)も「論文試験で使われる論点を中心に講義をおこなっている」とした。
北海道大学大学院法学研究科教授の池田清治氏(民法)も、1年次で教える内容は基礎基本に限定。その上で、いつの時点で何を勉強すればよいのかを具体的に伝えているという。
「たとえば、『無権代理と相続』の部分では、共同相続の話はしません。相続をまだ学んでいない人に共同相続の話をしても、おそらく分からないと思う。まずは、単独相続を前提に、学説や背景、具体的な違い、判例をしっかり抑えてほしい。共同相続の問題は、単独相続の勉強が終わった後に自修するように伝えています」(池田氏)
判例を詳しく扱うのは「2年次以降」、「ソクラテスメソッド」を取り入れることも
シンポの参加者からは、4人の教員に「(1年次に限らず)判例をどのように授業で扱っているのか」という質問が出た。
池田氏は「授業の中で、各判例について詳しく扱うのは難しい。1年次の前期で『一審から読んで』と言われても分からないと思う。ただ、『法科大学院生なんだから、卒業するまでに1回か2回は一審から丁寧に読んだほうが良い』と伝えている」とした。
田中氏も「厳密な判例の読み方について学習することは難しい。一審から詳しく緻密に判例を読んでいくことは2年次以降にすることだと思う」とした。その上で、1年次の判例の学び方について「判例100選に掲載されている事案については、予習の段階で、原告と被告は誰か、請求は何か、第一審、原審はどのような結論を示したのか、などについて整理してもらい、(授業で)報告してもらうということはある。(1年の時点では)判例を読むときのポイントを分かってもらう狙いで実施している」とした。
シンポの参加者からは、学生と対話しながら授業を進めるソクラテスメソッドにおける工夫を聞く質問も出た。4人の教員のうち、3人は1年次からソクラテスメソッドを取り入れているという。
只野氏はソクラテスメソッドの採用理由として「自分の言葉で論理的に説明するということが大事なため」と説明。学生側から予想した答えが返ってこなかった場合は「できるだけ答えを誘導するような質問をしたり、思い切って視点を変えて変化球を投げたりしている」とした。
成瀬氏も、自学自修の定着を狙って、ソクラテスメソッドを導入。何かの「意義」について述べる問いについては「どういう風に調べてきたか」を聞いたり、回答に対して別の視点からの意見の有無を確認したりするなどの工夫をおこなっているという。
成瀬氏は「授業で学生とやりとりしていると、講義が終わった後の質問も出やすくなるところにソクラテスメソットのメリットを感じる。受け身になってしまう学生が少なくないので、とにかく自分の頭で考えて、その場で答える練習は早めにさせた方がいいと思う」とした。