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法的知識をまちづくりに、弁護士から地方政治への挑戦 丹波篠山市・市長 酒井隆明氏インタビュー

法的知識をまちづくりに、弁護士から地方政治への挑戦 丹波篠山市・市長 酒井隆明氏インタビュー

弁護士白書によると2020年10月時点で、5人の弁護士が市長を務めており、2021年4月には、兵庫県宝塚市の市長選で山﨑晴恵弁護士が当選した。1981年に弁護士登録し、1995年から兵庫県議会議員、2007年から丹波篠山市で市長を務める酒井隆明氏に、地方の政治・行政の世界で弁護士が生かせる強みや、全国の弁護士市長が結成した「全国弁護士市長会」の活動などを聞いた(インタビュー実施2021年5月18日)。

ーー市長になった経緯を聞かせてください。

司法修習期は33期で、弁護士登録してから40年ほどが経過しました。弁護士としては、出身地である現在の兵庫県丹波篠山市や、隣接する丹波市、三田市などを中心に1995年まで活動していました。現在は弁護士数が増えたことで、地域の弁護士も一定数確保されていますが、当時は非常に弁護士が少ない状況でした。

地方の政治や行政に興味を持つようになったのは、青年会議所での活動がきっかけです。青年会議所は20歳から40歳までの人が、地域貢献や社会奉仕などを目的として様々な活動を行う全国的な組織です。

丹波篠山市は山間部の田舎の自治体というイメージを持たれがちですが、1980年代から90年代にかけてJRの複線化、電化が進み、大阪市や神戸市などの大都市へのアクセスが向上したことに伴い、「地域の都市化を進めるべき」という考えの人がいました。一方で、私は、丹波篠山市の豊かな自然と(国の史跡である篠山城の)城下町としての文化、農業などを大切にした丹波らしいまちづくりを進めるべきだと考えていました。

青年会議所を卒業する1995年に、兵庫県の県議会議員選挙があり、自らの思いに基づいてまちづくりに参画ができるのではないかと考え、現在の丹波篠山市の選挙区から立候補しました。選挙のノウハウがない状態からの立候補でしたが、当選できたのは幸運でした。

県議会議員を約12年務めるなかで、より地元のまちづくりに貢献したいと考えるようになり、前市長が退任した2007年に市長選に立候補して、初当選を果たしました。現在4期目になります。

ーー地方での政治・行政に関わる上で、弁護士が強みを発揮する部分はあるのでしょうか。

地方行政を進める上では、様々な条例や規則が関わります。条例を制定したり運用したりする上で、法的な知識が役立ちます。

たとえば丹波篠山市では、城下町としての歴史的な街並みや、田園の景観を活かした美しいまちづくりを進めるため、2010年に、建物の建築や屋外広告の設置などに様々な規制を設ける景観条例を制定しました。

また、所有している土地をどのように使うか、どのような建物を建てるかは、原則として個人の自由です。それでも、誰もが好き勝手に土地を利用すれば、美しい街並みや田園風景を守ることは難しいでしょう。そのため、条例で土地利用に関するルールを定めました。どの程度の規制であれば、憲法や法律に抵触しない条例となるかを検討する上で、法的な知識が役に立ったと思います。

ーー酒井市長は2012年に結成した「全国弁護士市長会」の呼びかけ人に参加されています。全国弁護士市長会とはどのような組織ですか。

明石市の泉房穂市長など、2012年の結成当時、弁護士から市長になった人が近畿地方に数人いたので、まず「近畿弁護士市長会」を結成しました。同年に他の地域の弁護士市長にも呼びかける形で、全国弁護士市長会に発展させました。

強い問題意識を持って結成したというより、弁護士から市長になった人同士が集まり、意見交換できる場があってもいいのではないかという考えから集まりました。新型コロナの影響で最近は開催できていませんが、それぞれの市で定期的に会合を開き、現在進めている施策や困っている課題などについて説明し、意見交換をしています。

2009年から川合善明氏が市長を務める埼玉県川越市でも、会合を開いたことがあります。川越市は「小江戸」とも呼ばれるように、歴史的な街並みが今も残されており、文化庁から「重要伝統的建造物群保存地区」に指定されています。丹波篠山市も、市内の2地区が重要伝統的建造物群保存地区の指定されているまちとであり、歴史的な街並みを観光に活かしています。年間、数百万人の観光客が訪れる観光地であり、電柱の地中化などを進める川越市の街並みは参考になりました。

また、明石市の泉市長は、弁護士を職員として積極的に採用しています。明石市の取組みが、自治体弁護士という弁護士としての新たな活躍の道が開かれたきっかけのひとつになったのではないでしょうか。

明石市の取り組みを参考に、丹波篠山市でも、2018年から、64期の川嶋将太弁護士を任期付の法務職員として採用しています。職員として弁護士を採用することで、市役所内での法的な問題に、気軽に相談したり、解決をお願いしたりできる環境ができ、弁護士が活躍してくれています。

たとえば、市民から、「畜産事業者の悪臭などにより平穏な生活ができない。改善してほしい」との要望がありました。改善を求める勧告、命令、そして法的措置と、弁護士である法務職員が先頭に立って取り組んでいます。

また部落差別を助長するような動画がインターネット上に投稿されたため、市が主体となって削除請求をしたケースもあります。削除請求の手続きにあたっても、法務職員が力を発揮してくれました(2021年2月9日付で、神戸地方裁判所柏原支部が削除を命じる仮処分決定)。

ーー他にも、全国弁護士市長会での活動で印象的なものはありますか。

丹波篠山市は、2019年に住民投票を行い、「篠山市」から「丹波篠山市」に市名を変更したのですが、住民投票の実施については、全国弁護士市長会での議論に勇気づけられました。

市名変更は、2004年、隣の氷上郡の6つの町が合併して、「丹波市」と名づけたことが背景にあります。丹波市が誕生したことで、「丹波の黒豆」や「丹波焼」は、隣の丹波市のものだという誤解が広まりました。

しかし、黒豆や丹波焼は、丹波篠山市が本場なのです。「丹波篠山」のブランドを守るためにも、丹波篠山市に市名変更を求める声が上がるようになり、私も変更に賛成でした。

市名の変更にあたり、当初は市議会の議決で承認されれば十分だと考えていました。数年かけて市議会で議論するだけでなく、市民向けの説明会も100回以上開き、市民の理解も得られたと思っていたからです。

また、住民投票の実施には多額のコストがかかることや、市名変更に対する賛成派と反対派が明確になることによる分断が起こるのではないかという心配もありました。

ところが、2019年の全国弁護士市長会の意見交換の場で市名変更の話題が出た際、当時、大津市で市長を務めていた越直美弁護士や、生駒市の前市長で、準会員として参加していた山下真弁護士などから「市長と議会だけで決めると、反対派の市民はいつまでも納得できない。民主主義なのだから住民投票をやるべきだ」という意見が相継ぎました。市民的な感覚に優れた弁護士の市長に背中を押される形で、住民投票の実施を覚悟しました。

丹波篠山市は2014年に常設型の住民投票条例を施行しており、住民発議による実施となりました。住民投票の投票率は約70%と高く、結果は賛成55%、反対45%となりました。市名変更を進めてきた私自身も市長を辞職し、住民投票に合わせて市長選挙を実施しました。

ーー弁護士が地方の政治や行政に関わる意義を聞かせてください。

弁護士の使命は相談者の悩みを聞き、解決につなげることですが、この使命は市長や地方議会の議員、行政機関の職員なども同じだと思います。地域住民の問題に耳を傾け、施策の実施や条例の制定などを通じて、まちづくりを展開したり課題を解決しなければなりません。

弁護士としての法的な知識や経験を、法律相談や裁判など紛争解決の場面だけでなく、ぜひ政治や行政の場でも役立ててもらいたいと思います。

市長など、1人しか選ばれない首長よりも、一定の定員数がある県議会議員や市議会議員など、地方議会の議員の方が挑戦しやすいと思うので、地方政治に関心があれば、県議会議員や市議会議員からスタートしてもよいと思います。

特に地方議会の議員のなり手不足が深刻化し、有為な人材が求められています。地域住民の悩みを聞く中で、より地域に貢献したいという思いを持つ弁護士がいれば、全国いたるところでぜひ県議会議員や市議会議員に立候補していただきたいです。

※画像は丹波篠山市の提供

酒井隆明氏プロフィール

1954年兵庫県丹波篠山市生まれ。1978年司法試験合格、1981年弁護士登録。1995年から兵庫県議会議員。2007年から丹波篠山市長を務め、現在4期目。日本遺産選定(デカンショ節や丹波焼)、日本農業遺産認定(黒大豆栽培と農村環境)、景観や土地利用計画、ふるさとの森、川づくりと生物多様性など、美しい農村社会が未来につながるよう取り組んでいる。

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