リーガルテック最前線 文書管理を激変させた「弁護革命」の開発秘話
デジタル化した事件記録類を効果的に整理・活用できるツール「弁護革命」が2024年5月、弁護士ドットコムグループに参画した。代表の山本了宣弁護士が、34歳からプログラミングを習得して開発。きっかけは、300冊にも上る膨大な紙の証拠をどうしたらうまく管理できるのかという悩みからだったという。 (弁護士ドットコムタイムズVol.71<2024年6月発行>より)
高野隆弁護士から得たヒント
―「弁護革命」が誕生したきっかけを教えてください。
2018年に審理された、神戸地裁姫路支部の裁判員裁判事件がありました。証人が100人以上、審理207日間と当時史上最長となった事件です。開示証拠はペーパーで15万枚ほどで、ファイルに500枚ずつ綴じたとしても300冊という分量でした。記録をPDFにすると、今度は1万5000ファイルという分量に。何か1つ証拠を読もうとするだけで、5分10分探す、しばしば見つからないのが当たり前になっていました。この大量のPDFを快適に扱うために作ったツールが、弁護革命のプロトタイプです。
―プログラミングは勉強したことがあったんですか?
いいえ、これがきっかけでした。
この弁護団には、後藤貞人先生、高野隆先生が参加しておられました。高野先生は、これまで担当された巨大事件での経験から、市販のデータベース(以下、DB)ソフトを利用した証拠管理を独自に実践しておられました。
当時の私にすれば、「目から鱗」「革新的」な仕組みです。私は証拠開示の研修の講師をよくやっていたのですが、「証拠開示請求はできるが、いざたくさん開示されたら活用はできない」って情けないですよね。高野先生のやり方を仕組みからきちんと理解して、自分で同等のものを作れるようにしたいと思いました。
Microsoft Accessというソフトだったのですが、まずその入門書を買ってきて勉強→Accessの仕組みを理解→自分でAccessをいじって「高野式」に近いものを作る、というところまで数ヶ月で来ました。
ただ、素のAccessは結構ごちゃごちゃしているんです。「もっと検索ボックスとかボタンとかで使いやすくならないものか?」と思ったときに、「もしかしてプログラムを書けば追加できるんじゃないかな」と。それで2016年4月にほんとの入門書を買ってきて、一人で手を動かし始めました。
―それが「弁護革命」につながっていくのですね。
一冊目の入門書をやっていたときのことです。ある課題の「解答」のサンプルコードを見て、「あっ、こんな風にきれいに書けるんだ」「美しいな」と感じました。とても印象に残っています。それからプログラミング自体に興味がわきました。色々と勉強するようになり、自分のAccessにプログラムを組み込んで、本格的な証拠DBにしていきました。また、理論や他の言語も学び、実用品を作ってみることを続けました。この頃に応用情報技術者の資格も取りました。
例の裁判員裁判の公判は2018年4月開始だったのですが、その1ヶ月ほど前のことです。自分の手元だけで動いていた証拠DBツールを、全員で自然に使えるようにできれば、弁護活動が飛躍的に良くなるんじゃないかなと。それでプログラミング言語のPythonを使って、共有ができる証拠DBをゼロから作りました。これを弁護団のメンバーにインストールしてもらい、公判に臨みました。
口コミで利用者じわじわ広がる
―弁護活動はどうなりましたか?
これまでは、尋問準備にせよ弁護団会議にせよ、資料探しに膨大な時間がかかっていましたが、それがほぼゼロになりました。PCさえあれば、各自が一人で瞬時に資料を取り出せます。弁護団会議は3時間、4時間が当たり前だったのですが、それが1時間足らずで終わるようになりました。晩ご飯も悠々食べにいけるし、仕事どころか、生活が別物になりましたね。
高野先生には「これだけすごいものは世の中に出すべきだ」と真剣に薦めていただきました。「弁護士にとっての夢というべきツール。製品名はLawyers’ Dreamにしたらいい」とも言っていただきました(笑)。私も眠らせておくのはあまりにもったいないと思い、製品化を真剣に考え始めました。汎用性があると思っていたので、民事・刑事関係無く使えることを、最初からコンセプトに据えていました。
―製品としての弁護革命の開発もご自身で進められたのですか?
リリース段階まで、本体は一人で全て作りました。このツールが全体としてどんな姿であり、どんな機能を備えているべきか。全ての構想は自分の中にあります。自分でコーディングすれば、直接それを実現できました。エンジニアに頼むことも考えはしましたが、うまくいくイメージが持てなかった。良いものを作る上で、自分で書くのが一番確実な道だったと、今振り返ってもそう感じます。
自分の作りつつあるものが本当に人の役に立つか、常に疑い続け、確かめ続けました。まず3人の人が使ってくれるか、5人が使ってくれるか。企業法務の事務所ではどうだろう。年配の先生はどうか。一歩一歩進めていきました。
―弁護革命は、SNSで良い口コミがたくさんある一方、あまり営業活動をされていない印象があります。
2021年の一般リリース以後、DM、電話、広告などは使わずに来ました。今のユーザーさんは、SNSやリアルの口コミ経由です。私にすればそれが一番安心できる形でした。「良いものだから使ってもらえる」というのが望みですので。
口コミをたくさんいただけるのは、本当に良かったと思っています。「起案が倍速になる」などは、定番でいただける嬉しいご感想です。「ワークライフバランスの改善。育児が助かる」といったお声も嬉しいですね。先生方が一人の人間として、自分の仕事や生活がよくなると思っていただけるのが嬉しいポイントです。
―裁判IT化がこれから進んでいきます。弁護革命の活用場面も広がるのでしょうか。
mints(民事裁判書類電子提出システム)が早期に試行されていた山梨県の先生に、ユーザーインタビューをさせていただきました。弁護革命があることで、データでも紙以上によく頭に入ってくる、mintsと弁護革命との相性は最高だとおっしゃっていただきました。
他の先生からも、「フォルダやクラウドにPDFを入れても、結局は仕事がしづらく、紙に負けてしまう。それが弁護革命で克服でき、初めてデジタルに移行できた」という話を何度もお聞きしました。
これから民事IT化で電子提出が義務化されます。「データでは仕事がしづらい」という悩みに直面される先生も多いのではないでしょうか。弁護革命は解決策になれると思います。
記録のPDFはフォルダに入れて管理するのが当たり前だと思われています。でも本当は、フォルダは事件記録の管理に適してなんていません。私は姫路の事件を通じて、そのことを痛感しました。100メートル走者を下駄で走らせていいタイムが出せるでしょうか?同じことだと思います。私たちは高度な専門職なのですから、相応の仕事道具が必要だったのです。
―「弁護革命」はこれからどうなっていくでしょうか?
弁護士の基本ツールのようになれたらいいなと思っています。弁護革命は、弁護士の仕事の起点になる事件記録を扱います。だから弁護革命にリサーチやAIを統合すれば、最強の仕事道具になるんじゃないかと、以前から考えていました。弁護士ドットコムでそれを現実のものにできそうです。本当に役に立つツールを一貫して追い求めていきたいです。
弁護革命とは
デジタル事件記録ツール『弁護革命』は、事件記録のPDFファイルなどを効果的に整理・管理できるツールです。弁護士業務に最適化されているため、起案時間が半分になる(体験談)など、業務の生産性が大きく向上します。大規模事務所から個人事務所まで、また、民事・刑事・労働・倒産・相続、不正調査案件から文献管理まで、幅広く使われています。弁護革命は基本無料でほとんどの機能が使えます。ユーザー登録ですぐに利用開始できます。
ご利用はこちらから→https://www.bengo-kakumei.jp/
山本了宣弁護士
新62期。2009年、大阪弁護士会で弁護士登録。後藤貞人法律事務所(現「弁護士法人 後藤・しんゆう法律事務所」)に入所。刑事弁護の世界で法廷弁護や証拠開示に注力してきた。証拠の管理に苦労したことがきっかけで自ら『弁護革命』を開発・リリース。日弁連刑事手続IT化PT、弁護士業務における情報セキュリティに関するWG等に所属し、IT・セキュリティ関連の研修講師など多数。2024年5月より、弁護士ドットコムリーガルブレイン開発室所属。各種プロダクトに関与️。