ローカル弁護士に仕事はあるか? 採用から考える東京一極集中
毎年1000人を超える新人弁護士が誕生するが、大半は東京三会に所属し、東京一極集中が進んでいる。一方、都道府県によっては所属弁護士数が減少傾向にある単位会もある。 果たして都市部以外では弁護士の需要はないのだろうか。あるいは需要自体はあるものの、志望する若手弁護士がいないだけなのだろうか。弁護士の採用市場から考えたい。 企画・文:川島美穂、魚住あずさ、園田昌也 (弁護士ドットコムタイムズVol.70<2024年3月発行>より)
弁護士白書によると、2022年の弁護士人口は2017年から5000人強増えて4万4101人だった。単位会別で増加率がもっとも高かったのは、3276人増えた東京三会の18.0%増。ここからも東京一極集中が見て取れる。一方でそれは競争が激しいことも意味する。大きな金額が動くエリアとはいえ、単純な弁護士一人当たりの人口や法人数では、東京は他地域から大きく離された最下位だ。
これに対し、徳島の10.3%減や青森県の7.5%減を筆頭に5年間で会員が減ったという単位会も計8つあった。ただし、日弁連のひまわり求人求職ナビには、本稿執筆時点でこれらの地域の法律事務所からも一定数の求人が確認でき、必ずしも弁護士を欲していないということではないようだ。
若手弁護士の意識に変化
弁護士の採用・転職サービスを提供する弁護士ドットコムキャリアのコンサルタントによると、現在大都市部からの転出を希望する弁護士は極めて珍しいそうだ。大きな理由の1つとして、若手弁護士の考え方の変化があるという。
「新司法試験が始まった頃は他業種からの転向組もいて、独立して自分の腕一本でやっていこうという弁護士も多くいました。しかし、近年は独立したり、パートナーになったりするのを避け、ワークライフバランスを重視する弁護士が増えています。企業に就職するインハウスが急増しているのもこうした理由からと考えられます」(キャリアコンサルタント)
東京では現在、一般民事志望が減り、企業法務を目指す司法修習生・若手弁護士が増えている。激しい競争に生き残るためには、専門的な仕事を数多くこなさなくてはならない。営業に時間を割く余裕がなかったり、クライアントとの関係構築にストレスを感じたりする傾向があり、仕事をとってくるよりも、仕事を処理することのほうを好むのだという。言い換えれば、弁護士資格がビジネスパーソンに必要な条件の1つという風に変貌しつつある。
一方、地域に根付いて活動する上では、クライアントと関係を築き、仕事の幅を広げていく必要がある。また、単位会の規模も大きくなく、弁護士同士の付き合いも密になる。ロースクールの数がピーク時の半分以下になり、法曹を育てる拠点が大都市部に集中していることともあいまって、そのまま大都市で就職する弁護士が増えているようだ。
地方に進出する新興事務所
若手からの就職人気は低いかもしれないが、イベントに登壇した3人の弁護士が語るように、大都市圏以外の地域に仕事がないわけではない。
実際に近年は、大都市から離れた場所に支店を出す法律事務所が増えている。たとえば、日本で一番数が多いベリーベスト法律事務所は75拠点、アディーレ法律事務所は65拠点(いずれも2024年2月時点)。支店の中には徳島など、この5年間で弁護士が減った地域に新設したものもある。
前述のキャリアコンサルタントも「弁護士一人当たりの人口や法人数からすれば、大都市圏以外でも仕事はある」と語る。ただし、そうした案件は単価が決して高くないし、エリア内での人間関係が密な分、弁護士への依頼をためらう傾向があるともいわれる。
「小規模事務所でこうしたニーズを拾い上げるのは難しく、事件処理に時間がかかる割に利益も少ない。一方、大都市に本店がある事務所は広告の使い方がうまく、パラリーガルが多数いたり、アイドリング状態の弁護士に案件を振ったりできる。単価は安くても、労働効率を上げることで多くの案件を処理し、売り上げを増やせます」(同上)
見方によっては既存の弁護士にとっての脅威だが、事件があるということは、反対当事者にも弁護士需要が生まれるということでもある。イベントで前田弁護士が語ったように、大手事務所の進出には事件の掘り起しという側面もあるだろう。
独立を考えるなら東京以外が
かつては大都市で修行を積み、地元で独立というケースが珍しくなかった。近年のトレンドからすれば逆に、将来的に独立したいなら大都市以外で働くのも1つの手だという。
「あらゆる分野で経験を積めるし、事務所の規模的にボス弁の経営の仕方を間近に見られるのも利点です」(同上)
一極集中が進む中、東京で生き残るにはより工夫が必要になる。東京以外でも今後、人口減少や裁判IT化による地域を超えた競争激化が予想されているが、コミュニケーションをとることに抵抗がないのであれば、東京から出てみるのも戦略の1つかもしれない。