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「弁護士の肩書きだけでは不十分」 ロビイングを法制定につなげた藤木和子弁護士

「弁護士の肩書きだけでは不十分」 ロビイングを法制定につなげた藤木和子弁護士

旧優生保護法により強制的に不妊手術を受けた障害者などに、国が320万円の一時金を支給する法律が、2019年に国会で成立、施行した。障害者の兄弟姉妹(きょうだい)に対する支援活動に取り組む藤木和子弁護士(神奈川県弁護士会、38)は、2018年から国会議員などへのロビイング活動に関わり、制定への流れを作り出したメンバーの一人となった。 弁護士の肩書きについて「(提言を聞いてもらう)相手の信頼を得やすい」という一方、「肩書きだけでは通用しないことを痛感した」と話す。藤木弁護士に、ロビイング活動を始めたきっかけや、弁護士がロビイング活動をするコツを聞いた。 (編集部注)支援団体では、障害者の兄弟姉妹について、「きょうだい児(者)」、「きょうだい」と表記します。この記事では両者を合わせて「きょうだい」と表記しています。

きょうだいも自分らしく生きてほしい


──障害者のきょうだい支援の活動に参加したきっかけを教えてください。

私が5歳の時、当時3歳だった弟に聴覚障害があることがわかりました。2010年に司法試験に合格し、最初に就職する際、障害者のきょうだいとしては非常に多い悩みなのですが、「(実家から離れた)都内で就職した場合、実家の親や弟は大丈夫だろうか、地元で就職した方がよいのではないか」という、他の同期とは質の違う悩みを抱えていました。それが、弁護士としての進路に悩む原因だったのです。

同じような悩みをもつ仲間に相談したいとの思いから、2011年に任意団体「全国障害者とともに歩む兄弟姉妹の会(全国きょうだいの会)」に参加しました。

──きょうだい会に参加したことは、弁護士のキャリアにどのように影響しましたか。

きょうだい会に参加して、障害者のきょうだいの中にも、法律問題に悩む人がいることがわかりました。

知的障害のある弟をもつ高校生の女の子が「経済的な部分も含めて、将来、障害のある弟の面倒をどのくらい自分がみなければならないの?」と私に悩みを打ち明けてくれたことがありました。

民法877条(扶養義務者)には、「直系血族及び兄弟姉妹は、互いに扶養をする義務がある」と規定していますが、兄弟姉妹に関しては、「余裕がある範囲で構わない、普通の生活をしている範囲であれば『余裕がない』と扶養を断って構わない」とされていることを教えました。実際に、障害の有無に関わらず、兄弟姉妹が扶養によってではなく、障害年金・生活保護などで暮らしている人はたくさんいます。

法律がわかれば、心情や道義的な部分は別として、自分にどこまで法的な責任があるのかの基準を知ることができます。障害者の人権の問題は、社会で取り組まなければならない課題であり、本人や家族だけが背負うものではありません。きょうだいも自分らしく生きてほしい。その思いから、障害者のきょうだいの分野を1つの専門とする弁護士として歩んでいきたいと思うようになりました。結果的に、業務内容やきょうだいの活動がしやすい環境だったことから、地元での就職を選択しました。

関心を持ってもらえず、続いた苦しい時期


──ロビイングとは、実際にどんな活動ですか。

「アドボカシー」という社会的弱者に対する権利擁護活動があります。アドボカシーは、当事者の存在や問題を社会に知ってもらう「課題広報活動」と、法律や条例などの制定・改正のために、議員や行政などに働きかける「政策提言活動」に分かれます。「政策提言活動」を「ロビイング」といいます。具体的な活動としては、議員との面会、議員や行政によるヒアリングでの意見陳述、院内集会の開催などです。議員やメディアに当事者や家族の声と政策の必要性を訴える活動をしてきました。

──ロビイング活動を始めたきっかけを教えてください。

きょうだい会での相談を聞く中で、「このままでは会が発足した50年前からある問題が繰り返されるだけだ」と考え、社会に対して問題を訴える必要性を感じたからです。

その中で、2018年5月、旧優生保護法をめぐる国家賠償請求訴訟が東京地裁で提訴されます。私は「障害者のきょうだいも被害者」という思いがあり、訴訟の弁護団に参加しました。また、同時期に、国に強制不妊手術を受けた障害者などへの謝罪や補償に関する法制定を求める、ロビイング活動にも参加しています。

旧優生保護法によって差別を受けたのは、優生手術の対象とされた障害者、実際に手術を受けた当事者だけではなく、きょうだいや家族も同じです。家族も含めて、「あの家は障害者や優生手術を受けた人がいる家だ」として、家全体を差別したといいます。また、「家族の障害や優生手術のことを他人に話せない」と悩んだり、子どもへの「遺伝」を理由に結婚を断られたきょうだいもいました。

──訴訟だけでなく、ロビイングという手段をとった理由はなんでしょうか。

弁護団長がロビイングの経験が豊富だったことがあります。社会を変えるためには、訴訟だけでなく、ロビングが必要です。政策形成に影響を与えるという意味では、集団訴訟もロビイングの一つではありますが、訴訟は個人の問題解決、金銭での解決が原則です。国会議員や行政とも連携しながら、ロビイングによって社会全体を変えていく必要性があると考えました。

──旧優生保護法の補償に関する法律の制定に向けて、どのような見通しがありましたか。また、どのような活動をしましたか。

1996年の旧優生保護法の廃止以降、厚生労働省は「(旧優生保護法は)適法だった」として、当事者による謝罪や補償の求めに「門前払い」を続けてきました。ロビイング活動を始めた当初、2001年のハンセン病の時のように国家賠償請求訴訟の判決が先に出ると思っていて、補償の法制化は先のことだと感じていました。(ハンセン病家族による国家賠償請求については2019年に勝訴判決と補償金支給法の成立。)

裁判と並行して、2018年6月から約1年かけて3回の院内集会と議員会館前での路上集会を開きました。院内集会や議員連盟のヒアリングでは、国会議員に対して、優生手術を受けた当事者が手術やその後の苦しみについて訴え、私も弁護団の一員として、また家族の立場から、当事者や家族が感じてきた苦しみについて説明しました。

「知らなかった」「国として対応が必要だ」と話す議員が出てくる中で、2019年4月に、超党派の議員連盟プロジェクトチーム、与党ワーキングチームの尽力によって、一時金支給法が策定されました。国会議員の主導による立法となったことには敬意を感じ、大きな動きを感じました。優生手術を受けた当事者と家族の声、1997年からの長年の活動の積み重ね、そして、多くのメディアが取り上げてくださったことも、国会議員を動かした大きな要因だと思います。しかし、拙速な部分もあり、支給金額の引上げや優生手術を受けた人への個別通知などを求め、ロビイング活動を継続していきます。

──一時金支給法については、どのように感じていますか。

一律320万円という支給金額は、非常に少額で軽んじられていると思います。交通事故により男性が両方の睾丸を喪失、つまり完全に生殖機能を失った場合、後遺障害慰謝料の支払額基準は約1000万円となっています。

また、一時金支給の申請窓口となっている都道府県の中で、支給対象者へ一時金について個別に通知している県は、山形、岐阜、兵庫、鳥取などごく一部に限られており、自身が対象者であることを知らない当事者が多くいます。こうした課題は、今後のロビイング活動の中で引き続き訴えていきたいと思います。

──ロビイング活動のとき、政策を提言する相手側の反応はどうでしたか。

弁護士としてロビイング活動を始めた2012年頃から、「障害者のきょうだい支援の活動をしている弁護士」と自己紹介しています。しかし、以前は「障害者のきょうだい支援」活動の認知度が高くなかったため、障害者関係の分野においても、あまり興味を持ってもらえず、苦しい時期が続きました。「弁護士」という肩書きは、最初の信頼を得る上では有効だと思いますが、ロビイングの活動において十分ではないことを痛感しました。

私は、そもそもロビイングや障害者運動について初心者だったので、障害者関係の裁判や日本弁護連合会での障害者差別禁止法に関わる委員会活動を通して、経験を重ね、関係者の方々との人間関係を構築していきました。弟が聴覚障害であることから、特に聴覚障害関係の方々との活動が多く、「手話」も学びました。

現在は、きょうだい支援が新聞やテレビで取り上げられる機会も増え、最初から「障害者のきょうだい支援の活動をしている弁護士」として会っていただける機会が増えました。2021年4月には、厚生労働省・文部科学省共同の「ヤングケアラーの支援に向けた福祉・介護・医療・教育の連携プロジェクトチーム」のヒアリングにも呼んでいただくなど、確実な変化を感じています。障害当事者、きょうだい、家族、支援者、関係している方々全員のためになる活動を目指していきたいと思います。

──ロビイング活動をする上での心掛けはありますか。

ロビイング活動において、議員や行政は社会をともに良くするという意味でパートナーだと考えています。相容れない価値観を持つ相手であっても、少しでも一緒にできることがないか考えることにしています。この考えは、所属している市民アドボカシー連盟で学びました。

弁護士もロビイングを


──アメリカでは、ロビイング専門の弁護士が活動しています。

アメリカに視察に行った時、現地の障害者団体の中に、弁護士としてロビイング活動をしている人がいました。アメリカでは、団体がロビイストとして、弁護士を雇う形が普及しているのです。

日本では、まだまだロビイング活動をしている弁護士が少ないのが現状です。旧優生保護法をめぐるロビイング活動も、熱意と手弁当により賄われています。

──日本のロビイング活動が手弁当である状況は、変える必要があると思いますか。

財務状況などを考えるとなかなか難しいとは思いますが、熱意や手弁当だけで継続していくことは困難です。障害当事者やきょうだい・家族の立場にある弁護士、具体的な課題意識をもっていてロビイング活動に関心のある弁護士は少なくありませんが、日々の業務で手一杯で、なかなかロビイング活動まですることができません。社会や制度を変えていく活動もできるように状況が変わっていく必要があると思います。

個別の具体的な課題がある場合は、政治家になるよりも、ロビイング活動の方がその政策を実現しやすい部分もあります。議員の場合は、さまざまなテーマの政策課題に向き合い、各要望を実現する必要があるからです。

日本では、まだまだロビイング活動を行う弁護士が限られている現状がありますが、弁護士も積極的にロビイング活動ができる文化になればいいと思います。


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