著名弁護士の本棚〜実務で使うおすすめ書籍5選〜 【治療的司法・情状弁護】菅原直美弁護士
各分野の著名弁護士にインタビューし、若手や初学者向けの「おすすめ書籍=推し本5冊」を選んでもらいました。(弁護士ドットコムタイムズVol.69<2023年12月発行>より)
治療的司法・情状弁護
刑事司法制度の中で必要な支援やケアを提供し、被疑者・被告人が抱える問題を解決することで結果的に再犯防止にもつなげる「治療的司法」の手法が注目されている。菅原直美弁護士はこの分野のトップランナーの一人だ。
新人時代は、「更生に資する弁護」を実践した故・高野嘉雄弁護士の薫陶を受けた。情状弁護に注力し、当事者の反省や更生可能性をより客観的に裏付ける必要性を感じていたときに出会ったのが治療的司法だったという。『治療的司法の実践』はその全体像を示した数少ない本になる。
「治療的司法と言うと特別なものに聞こえますが、やるべきことを果たす中で自然に実践されている刑事弁護人も多いと思います。この10年ほどで刑事弁護の立証方法もかなり変わりました」
こうした成果も踏まえ制作に携わったのが『情状弁護アドバンス』。情状事件だとやることがない、何をやればいいか分からないという弁護士がまだ多いといい、刑事の大多数を占める公訴事実に争いのない事件について、若手が学べる本が少ないという問題意識が出発点になった。
現在は大学院で臨床心理士の資格取得も目指す。治療的司法では各種専門家との連携が必要だが、国選弁護では費用的に依頼困難な現状を変えたいという。「軸足がどちらになっても法廷の中で真摯に人と向き合う専門家でありたい」。
このほか推薦した、『悲しみとともにどう生きるか』、『断片的なものの社会学』は事件を通して弁護士が出会う多様なエピソードや感情との付き合い方について、多くのヒントが得られるという。漫画『イチケイのカラス』は、裁判官の見方が変わるといい、「ドラマしか見ていない人はぜひ」。
【菅原弁護士の5冊&ひとこと】
- 『治療的司法の実践』指宿信・監修/治療的司法研究会・編著第一法規/発行 2018年10月 4,400円(税込)日本初の「治療的司法」の本 研究者と実務家視点から要点を解説
- 『情状弁護アドバンス』季刊刑事弁護増刊・編 現代人文社/発行・2019年10月 3,300円(税込)若手弁護士を強力サポート 否認の『刑事弁護ビギナーズ』 情状の『アドバンス』
- 『イチケイのカラス 全4巻』浅見理都・著 講談社/発行・2018年8月 各巻715円(税込)ドラマ化で話題の漫画 丹念な取材で人としての裁判官を描く
- 『悲しみとともにどう生きるか』入江杏・編著 集英社/発行・2020年11月 990円(税込)編著者は世田谷事件の被害者遺族 悲しみを生きる力に変えるメッセージ集
- 『断片的なものの社会学』岸政彦・著 朝日出版社/発行・2015年5月/1,716円(税込)社会学者にも整理できない、でも忘れられない断片的なエピソード集
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菅原直美弁護士
吉祥寺リネン法律事務所。東京弁護士会。63期。