少額未払い「泣き寝入り」に終止符…利用増えるオンライン調停、日本でもODRじわり
弁護士が開発した、少額の未払い解決に特化したオンライン調停サービス「OneNegotiation(ワンネゴ)」の累計申立て件数が、このほど1万8000件を突破した。年内には2万件を超えそうな勢いだ。 ワンネゴのようなオンライン調停サービスは「ODR(Online Dispute Resolution )」と呼ばれる。トラブル解決でイメージされやすいのは裁判だが、時間や費用がかかるため、費用対効果で泣き寝入りになることも珍しくない。一方、ODRは、公正な手続きでありながら、費用負担が少なく、比較的軽微なトラブルの解決方法として注目されている。 すでに海外では、ネットオークションの「eBay」が年間6000万件ある出品者・落札者間のトラブル解決で活用するなどの事例がある。規模はまだまだ小さいものの、日本でもODR普及の兆しがでてきた。
●「督促業務」は現場にとって大きな負担
「ワンネゴで調停を申し立てたら、これまで自社での督促では回収が難しかった案件でも、半数以上が解決に至りました」
そう語るのは、関西を中心に30店舗以上のフィットネスジムを経営する男性。これまでは社員が直接対応に当たっていたが、現場の負担が大きかったという。
「『お金を払ってください』って一番ストレスがかかるし、できればやりたくない仕事。ワンネゴの利用で現場が精神的な負担から解放され、本来業務に集中できるようになりました」
自社では対応しきれず、一度は諦めていただけに「予想以上の解決率で、経営改善に繋がった」「従業員の負担も軽減し、本来のフィットネスサービスに注力できるようになった」とも語る。
メリットはそれだけでなく、運営側によると回収できなかった部分についても、損金扱い(貸倒処理)で法人税負担が減る可能性があるという。
口コミでユーザーが増えており、現在の利用件数は月1〜2千件ほどで推移しているという。
●共同創業者「ここまで解決率が高くなるとは思わなかった」
ワンネゴを運営するのは、大阪府の株式会社AtoJ(代表取締役CEO:森理俊弁護士、代表取締役COO:冨田信雄弁護士)。2023〜24年にかけて法務省や日弁連が実施した「ODR実証事業“ONE”」のプロダクト開発を担うなど、日本におけるODRのリーディングカンパニーだ。
ワンネゴ自体は2022年、ADR法に基づいた法務大臣による「裁判外紛争解決手続(ADR:Alternative Dispute Resolution)」機関の認証を受けてスタートした。オンラインのADRだから「ODR」と呼ばれる。
使い方はシンプルで、利用者はワンネゴの専用プラットフォームから相手の名前・金額・連絡先等を入力すると、オンライン調停を申し立てることができる。
申立てを受けた人は、スマホからアクセスし、自分に関連する案件であるか否かを確認した上で「身に覚えがない」、「今すぐ支払う」、「分割で支払う」、「オンライン弁護士調停を希望する」などの選択肢をタップする。
共同創業者である森弁護士は次のように話す。
「できるだけ簡単に使えるよう、UI/UXの改善を重ねてきました。申立人がワンネゴ利用前に何度か連絡しても反応のなかったケースで、ワンネゴへ申し立ててから5分で合意が成立した解決事例もあります。ただ、サービスを始めたとき、ここまで解決率が高くなるとは思いませんでした」
自社督促では回収できなかったケースに限っても50%超が解決しているという。その理由として、森弁護士は「中立性」と「公正性」をあげる。
「催告や督促には支払いに対して有無を言わせない強いニュアンスが含まれます。ワンネゴは一方当事者の代理人ではありません。法務大臣の認証を取得した中立公正な解決機関です。お互いの言い分をくみ取ったうえで、お互いが納得できる合意地点を目指しましょう、という『交通整理』を意識しています」
世の中には、債権者を代理してハガキやSMS等で催告の通知をする事例やサービスもあるが、通常は「(一括で)支払え」一辺倒であることが多い。だが、債務者にも様々な事情がある。中立公正な紛争解決機関として、債務者側も意思を伝えられる仕組みを用意したことが解決につながっていると分析している。
「白黒をはっきりさせる訴訟と違って、早い段階から『お互いが納得する地点を見つけ出す』ことで、双方にとって良い解決を目指せるところがODRの一番いいところだと思います」と森弁護士は言う。
社名の「AtoJ」は"Access to Justice"の略。特に少額の債権回収は、費用対効果から司法へのアクセスが悪いとされてきた。法とテクノロジーを掛け合わせ、解決をデザインしていくことで、社のビジョンでもある「法の安心を世界中の手のひらに」届けていく。