東北の復興に向けた道のりを被災者と共に歩み続けた2人の弁護士が語る10年

東北の復興に向けた道のりを被災者と共に歩み続けた2人の弁護士が語る10年

死者1万5千人以上という未曾有の被害をもたらした東日本大震災は、2021年3月11日で発生から10年となった。瀧上明弁護士と東忠宏弁護士は、震災前に岩手県釜石市と宮城県気仙沼市でひまわり基金法律事務所の初代所長に就任し、震災後は被災地で法律問題の解決に取り組んできた。2人に、携わった防災をめぐる訴訟や今後の課題などについて聞いた(弁護士ドットコムタイムズvol.58(2021年3月発刊)より一部抜粋)。取材・文/矢野大輔、取材/池田宏之、写真/兼子美紀弘

震災前の活気は戻らず 復興には長い道のり


瀧上明弁護士(以下、瀧上)「復興にとても時間がかかっているという印象があります。阪神淡路大震災でも被災したのですが、震災から5年ほどで仮設住宅が撤去されました。なのに、岩手県の陸前高田市などでは現在も仮設住宅が残っています」

未曾有の大震災から10年経過した今、岩手県大槌町に事務所を構える瀧上明弁護士は振り返る。2011年7月に岩手県に法律事務所を開設してから、東北の人々を支えてきた。

瀧上「当初、『仮設住宅の解消には少なくとも5年はかかるだろう』と考えていました。ただ、なかなか復興が進まず、『5年では無理。もっと息の長い支援が必要』と考えるようになり、結局10年も東北にいることになりました」

2007年から宮城県気仙沼市で活動する東忠宏弁護士も、「復興は道半ば」と指摘する。

東忠宏弁護士(以下、東)「気仙沼市も復興関係の道路工事などが、今でも行われています。最近まで区画整理や土地のかさ上げ工事があり、まだ更地のままという場所が多く残されていて、土地の引き渡しがようやく終わったという状況です」

まだまだ残る課題をあげる2人だが、東北の課題と向き合いながら、実績を積み上げてきた。

避難場所ではなかった防災センター 2階に逃げた69人が犠牲に


被災者の支援に取り組む中で、瀧上弁護士と東弁護士がそれぞれ携わった「行政」と「防災」に関連した事件がある。

瀧上弁護士は、釜石市内にあった「鵜住居(うのすまい)地区防災センター」に避難した多くの住民が犠牲となった事件をめぐり、調査委員会に参加した。

防災センターは鉄筋2階建てで、2010年2月に開所。震災発生時に多数の周辺住民が避難したが、津波が2階まで達したことで大きな被害を受け、建物内部から69人の犠牲者が確認された。他にも避難したが流された人を含め、200人以上が犠牲になったと推計されている。

防災センターは、「防災」という名前がつき避難訓練の会場となっていたことから、一部の住民から「避難場所」と認識されていたが、実際は正式な避難場所ではなかった。

防災センターが「避難すべき場所ではない」という周知を怠ったなどとして、釜石市の責任を指摘する声が上がり、2013年4月、釜石市の対応などについて調査する委員会が発足した。瀧上弁護士は委員会のメンバーとして、調査報告書の取りまとめに加わった。

瀧上「実際の避難場所に指定されていたのは周辺の山や寺、神社などで、『防災センター』は避難してはいけない場所でした。訓練の避難場所を山などにすると参加率が下がると考えてのことだったとみられています」

2014年4月に取りまとめられた報告書では、「『防災』センターとの呼称は津波の際の一次避難場所でもあるとの認識を生み、避難訓練時の使用など誤った運用によって多くの犠牲者を出す要因となった」とされ、市の周知不足を指摘。「(釜石)市は危機管理の認識を欠いていたと言わざるを得ず、多くの犠牲者を出す要因となった」とした。

報告書が出た後、防災センターに避難して亡くなった犠牲者の遺族2組が、周知不足などを理由に釜石市に対して損害賠償を求める訴訟を提起した。

一審の盛岡地方裁判所は請求を棄却したが、仙台高等裁判所での控訴審において、2018年7月、釜石市が責任を認める形で和解が成立した。

瀧上弁護士は、「防災センター」という名称でも、避難場所ではない施設が全国にあると警鐘を鳴らす。

瀧上「避難場所ではないのに『防災センター』という名前の建物が全国に点在しているのは、限られた予算で施設を建てるには、『防災施設』名目であれば、起債が容易になるとの背景があったようです。

鵜住居地区防災センターは、消防署の出張所や、公民館など様々な機能を複合させた施設で、防災教育などが行われていたため『防災施設』ではありますが、避難場所ではないという曖昧な位置付けでした。

同じような施設は全国にあると思います。防災に関する施設でも、どのような目的で建てられたのか、災害時に避難場所として逃げてよいのかなどを確認しておいた方がよいと思います」

特殊公務災害の不認定 世論が逆転を後押し


東弁護士は、宮城県南三陸町にあった防災対策庁舎などで犠牲となった33人の職員の「特殊公務災害」認定をめぐる事案に携わった。

防災対策庁舎では震災発生当初、職員が情報収集を行いながら、防災無線で町民に避難を呼び掛けていた。津波が押し寄せたため3階の屋上に避難したが、職員33人が犠牲となった。

公務中の災害で公務員が亡くなると、遺族に年金などの補償金が支給されるが、「高度の危険が予想される状況」で死亡した場合、「特殊公務災害」と認定され、補償金の額が最大1.5倍まで引き上げられる。

職員の遺族らは2012年、公務災害の審査を行う「地方公務員災害補償基金」に特殊公務災害の認定を申請したが、「災対策庁舎は災害対策本部が置かれており、大きな被害は想定されていなかった」などとして、全員が不認定となった。

遺族は2013年に審査請求を申し立て、弁護士や医師らでつくる第三者審査会が再審査することになった。東弁護士は遺族の審査請求を支援する弁護団に参加した。

東「依頼者である遺族は顔見知り同士の場合も多く、集会などは和やかな雰囲気でした。ただ、遺族が作成した意見書の原案には、家族を失った悲しみがありました。『取ることがができなかった最後の着信で伝えたかったことは何か』と想いを馳せる遺族もいました。

日頃から『何かあったら住民を優先する』という覚悟を伝えていたベテラン職員の姿も目に浮かびました。住民を守るための命がけの公務が、通常の公務災害のように捉えられては、残された遺族の気持ちはいかばかりだろうと、奮い立ったことを覚えています」

第三者審査会は2014年、大津波警報の発令などから「高度な危険が一般に予想される状況下での職務だった」と判断し、基金の不認定を覆えして、特殊公務災害認定を認定した。

南三陸町の事例などを受けて基金は同年5月、東日本大震災で犠牲になった公務員の特殊公務災害の認定について、事実上要件を緩和。いったん棄却になった事例でも再申請を認めることになり、被災地全体における「特殊公務災害」の認定につながった。

東「津波が目前に迫っている状況で、犠牲になった職員は、情報収集を続け、避難を呼びかけていました。基金の不認定が覆えった背景には、『認定めるべき』という世論の後押しが強かったのだと思います」

ただ、10年経過して犠牲となった職員の問題がきれいに解決したとも言い切れない状況がある。大槌町役場では町長をはじめ40人が亡くなったが、訴訟にはならなかった。その背景には東北の事情があるという。

瀧上「地方では役場に勤めることが一種の生活扶助になっている面があるため、基本的に一族に一人しか役場に勤められないような(明文化されていない)ルールが存在するところがあります。職員同士が結婚すれば女性が辞める慣例があり、疑問視するような新聞報道もありました。

結局、役場が市民の生活に密接につながっているため、行政に対して訴訟を起こすのはとても特殊なことなんです。相談を受けたものの、『裁判をしたくない』となって終わったケースもありました」

東北復興へ地域の意思統一が必要 弁護士が支援に役立てる場面は多い


未曾有の大災害となった東日本大震災だが、瀧上弁護士は、被災地の復興に向け、今後の課題の方が大きいと指摘する。

瀧上「これまでの復興は住宅の再建やインフラの整備などに、予算を注ぎ込んできました。工事が徐々に完了し、被災地の街並みは元どおりになってきましたが、今後は地域をどのように盛り上げていくかが課題になるのでしょう。地域に関わる人々が、知恵を出し合って、意思を統一して、みんなで決めた方向に進んでいかなければいけません。

ただ、かつての賑わいを取り戻したいと考えても、これから東北の人口がどんどん増えて、経済基盤も大きくなっていくことは考えにくいと思います。東北はこのまま地域が衰退してしまうのかどうかの瀬戸際にあると思います」

地域の衰退は東北だけの問題でないというのが、東弁護士の見解だ。

東「地域が衰退するかどうかは、全国の過疎地に共通する課題で、これから社会問題としてクローズアップされていくと思います。

ただ、特に東北は震災により地域の体力が急激に落ちています。人口減少も著しく、全国に相続人が散らばっているため土地の相続が手続きが難しいといった問題など、今後の日本が直面するであろう問題が、東北で先に顕在化してきていると思います。

高齢の独居世帯や、貧困世帯が増加傾向にあり、生活支援に取り組みながら、地域の人々が協力し合う形で街を盛り上げていくことができるかが、震災復興に向けた鍵になるでしょう」

一方で、瀧上弁護士も東弁護士も、東北で活動するやりがいが尽きない点を強調する。

瀧上「行政にレクチャーしたり、NPOを法的に支援したりすることもあります。あとは、マスコミへの露出を含めた情報発信など、あらゆることをしないといけないし、地域と密接になってくると、どんどん話がきます」

東「災害からの復興というと、かさ上げ工事や区画整備などの工事をイメージするかもしれません。実際は、土地の権利関係の処理や、震災遺児の未成年後見人の就任、災害援護資金の償還への対応など、弁護士が被災地の支援に役立てる場面は想像以上に多いです。

震災関連の事件は、特殊な事案に感じるかもしれませんが、通常の法律の考え方を当てはめることで、解決できることが少なくありません。地域の復興や、被災者の生活再建などに立ち会い、協力できるのは、弁護士としても大きな財産になると思います」

未曾有の被害をもたらした東日本大震災から10年。復興まで長い道のりの途中にある東北で、弁護士の力が今も求められている。

Profile|瀧上 明弁護士
大阪府豊中市出身。京都大学農学部を卒業後、大阪大学法学部に編入し、2003年に司法試験に合格。2005年弁護士登録。2006年に釜石ひまわり基金法律事務所の初代所長に就任。所長退任後は都内で勤務するが、東日本大震災の発生を受け、2011年7月岩手県釜石市で事務所を開設。2019年には同県の大槌町で震災復興をめざす岩手アザレア法律事務所を開設した。2021年4月から東京パブリック法律事務所で勤務予定。

Profile|東 忠宏弁護士
兵庫県明石市出身。大阪市立大学法学部卒業後、2001年司法試験合格。2003年に弁護士登録し、中山法律事務所(大阪弁護士会)で勤務する。仙台弁護士会に登録変更し、2007年に気仙沼ひまわり基金法律事務所の初代所長に就任。2012年に宮城県気仙沼市で弁護士法人東法律事務所を開設した。民事調停委員や家事調停委員などを務める。

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