「児童相談所は法的な防御力が必要」 常勤弁護士配置の意義とは 船崎まみ弁護士インタビュー

「児童相談所は法的な防御力が必要」 常勤弁護士配置の意義とは 船崎まみ弁護士インタビュー

【本記事は2021年1月5日に公開したものです】児童相談所が児童虐待相談として対応した件数は、2019年度は19万3780件と過去最多になった。児童虐待事案が相次ぐ中、2016年の児童福祉法改正により、児童相談所は原則として弁護士の配置が義務付けられたが、非常勤弁護士や案件ごとに依頼する協力弁護士が中心で、常勤弁護士の配置は少数にとどまる。 東京都江戸川区の児童相談所で常勤弁護士となった船崎まみ弁護士(東京弁護士会)は、常勤弁護士を配置する意義について、「事案のスタート段階から対応できるので法的な問題を見落とすことがない。緊急の案件にも機動的に対応できる」とする。船崎弁護士に常勤弁護士を配置する意義や配置を進めるための課題などを聞いた(インタビュー実施日:2020年12月9日)。

DV被害者の支援も重要な業務


ーー江戸川区の児童相談所で常勤弁護士になった経緯をお聞かせください。


江戸川区は2020年4月に児童相談所を開設しましたが、私は開設前から江戸川区役所の総務部で法務担当の管理職として勤務していました。

総務部では、江戸川区のあらゆる施策に関する法的な問題に対応していて、子どもや家庭の支援を担当する部署からも多くの相談を受けていました。虐待が疑われたり、生活が困窮していたりする家庭の支援について相談を受け、私が関わったことで解決に繋がったケースも数件ありました。

江戸川区は当初、児童相談所に常勤弁護士ではなく、非常勤弁護士や案件ごとに依頼する協力弁護士を配置することを想定していたようでした。しかし、区の常勤弁護士として、様々な問題を抱える家庭の支援に関わり、解決に繋いだことで、「児童相談所では多くの困難な虐待案件などを取り扱うことになる。機動的に対応できる常勤弁護士を配置するべき」という声が区役所内であがるようになり、公募による選考を経て、私が常勤弁護士として勤務することが決まりました。

ーー児童相談所での常勤弁護士の業務内容を教えてください。


児童相談所の所長が申立人となる家事審判の遂行や、所長が主体となる行政処分に対する不服審査請求への対応、児童福祉司ら職員からの法的な問題への相談対応などを行うことが多いです。その他に、区の管理職としての業務もあります。

虐待や育児放棄を受けている子どもなどを保護するため、児童福祉施設に入所させたり、里親に委託したりすることがあります。親権者が反対している場合、家庭裁判所に申し立てて承認を得たり、一時保護の延長を行う場合の家庭裁判所の承認審判が必要となります。それらの家事審判手続きを主に常勤弁護士が行っています。未成年後見人選任審判、親権喪失・停止の審判などの検討や対応に関わることもあります。

相談対応は、具体的に、児童相談所が行う行政処分の適法性や妥当性のチェック、情報公開請求などへの対応、保護者への説明対応のほか、離婚、DV(ドメスティック・バイオレンス)、親権・監護権、刑事事件、犯罪被害者支援、外国籍児童の在留資格の問題など、ケースワークに関わる様々な内容があります。

虐待の背景にある保護者の抱える法的問題を解決につなぐことも大切で、たとえば、DVに関する事案において、DV被害を受けている側のパートナーへの支援対応も重要な業務のひとつだと捉えています。

たとえば、2019年に発生した野田市の虐待死事件のように、パートナーが子どもを虐待していて、自分もパートナーからDVを受けているケースでは、子どもを虐待から救えないだけでなく、自分も虐待の加害者になってしまうケースが少なくありません。この場合、虐待から子どもを救うためには、DV被害を見落とさず、すぐに対応できる体制が重要です。

子どもの面前でのDVは児童虐待に該当しますし、DVの問題が解決しているかは子どもの家庭復帰の判断に重要な影響を与えるものだと思います。

現実に、全国の児童相談所において面前でのDVに係る警察からの虐待通告も少なくなく、児童虐待対応におけるDV問題への理解・対応は必要不可欠であると思います。江戸川区の児童相談所では、DVの問題に対応する専門の相談員を配置し、虐待に対応する児童福祉司と連携し、家庭におけるDVの問題への解決に向けた対応をする場合もあります。

弁護士も、必要があれば、児童福祉司や相談員などとも連携し、保護者に対する離婚や保護命令などの法的手続きについての説明に立会って、区や弁護士会の法律相談事業、法テラスなどを利用した法的手続を支援する制度につなぐこともあります。

他にも、生活困窮に陥っている家庭では、親も子どもも衣食住の面で不安定な環境が続いてネグレクトが生じたり、子どもと無理心中するという最悪なケースにつながる可能性もあります。

家庭に多額の借金がある場合でも、弁護士に依頼すれば債務整理は決して解決できない問題ではありませんし、法テラスを利用すれば、本人が費用を負担せず支援を受けられることもあります。生活保護などの公的扶助制度を含め、必要な社会資源に適切につなぐことは大切です。

弁護士会の専門相談や法テラス、日弁連委託援助事業など法的支援に係る様々な社会資源について、児童相談所では必ずしも正確に理解されていない場合があります。

子どもの権利保障の観点においても、警察から身柄送致された少年を弁護士会の当番付添人弁護士につなぐ、家事紛争に巻き込まれている子どもを子どもの手続きを理解している代理人につなぐ、虐待を受けた子どもを犯罪被害者支援弁護士につなぐなど、児童相談所が子どもが行使できる権利の説明や利用できる法的支援制を理解し、積極的な配慮を行うことも大切だと思います。

子どもも保護者も、適切な支援を受けられるよう、支援の内容を説明したり、外部弁護士や関係機関に連絡したりするなど、常勤弁護士のサポートするも重要な役割だと思います。

緊急の案件に機動的な対応が可能


ーー児童相談所の常勤弁護士として、印象に残っている事例はありますか。


子どもの置かれた状況や背景事情はさまざまですが、どの案件も、子どもや保護者の人生に重大な影響を及ぼす難しい判断と調整を行わなければならない、職責の重さを常に抱えています。

法的な側面で児童相談所の業務をバックアップをする立場で見ると、子どもを保護した後、保護者側の離婚、親権・監護権者の変更、養子縁組により監護環境が大幅に変わった場合などは、慎重なアセスメントや環境調整が必要で、法的に複雑な対応を求められる場面が少なくないと感じています。

保護者側が代理人弁護士を選任する場合や子どもの代理人弁護士が選任される場合もあり、児童相談所側も法的知識や対応力が求められると思います。

児童相談所への対応方法などに関する情報がインターネット上に掲載されるなど、さまざまな情報が溢れており、その影響を受けたと思われる対応に出会うこともあります。

児童相談所は、深刻な児童虐待案件など困難な案件を、常時多数抱えながら、複雑な対応が求められる場面が増えていて、適切なケースワークを行うためにも、法的な防御力を身に付ける必要があると思います。弁護士の役割はとても重要だと感じています。

ーー児童相談所に弁護士が常勤する意義をお聞かせください。


常勤弁護士と、非常勤弁護士や協力弁護士では、問題への関与の仕方が全く異なると思います。非常勤弁護士や協力弁護士の場合、児童福祉司などの職員が、「弁護士に相談した方がよい」と判断した案件に関わることが一般的です。

これに対し、常勤弁護士は、常時在席し、緊急に受けた案件に対応する会議やケース会議などにも関わるため、保護者の抱える法的な課題の発見、子どもに必要な法的支援制度など、児童福祉司が認識していない法的課題に気付き、課題解決に関われることが大きいと思います。また、法的手続の見通しなどを踏まえた対応方針の決定などに関わることもできます。

また、常勤の場合、緊急の案件を含めて機動的に対応できる点も大きなメリットです。児童相談所には虐待の疑いがあるケースの通告がどんどん寄せられ、通告にはすぐに対応しなければなりません。緊急の判断を要する会議が開かれたり、保護者との急な面談に立会いを求められたりするなど、スピード感のある対応が必要な場面も多いです。

児童相談所の職員にとって、安心感につながるというメリットもあるでしょう。ちょっとした心配事や不安でも、弁護士にいつでも相談できるし、緊急の会議や面談にも対応してもらえるので、常勤弁護士のいる児童相談所では、職員はその存在を心強く感じていると思います。

常勤弁護士は、常勤職員として組織の政策的な意思決定や組織内部の関係機関との意思調整などに直接関与できる点も重要な存在意義で、外部弁護士と根本的に立場が異なる点です。

私も、江戸川区の管理職として、児童相談所の準備段階から、児童相談所の法務体制の策定や、児童虐待とDV被害者支援の連携策の提案、東京都の児童相談所や法務部署からの児童相談所の法務に関わる事務の引継ぎなど、児童相談所の政策面での提案にも一定の関りを持つことができました。

組織の状況や弁護士としての実務経験を踏まえて、政策決定に関わることは、常勤だからできることだと思っています。

また、児童相談所は、学校、保育所、配偶者暴力相談支援センター、福祉部署、保健所など、区の関係機関と連携した対応が必要な場合も多くあります。

私はこれまで職員として関係部署の職員と仕事をしてきた経験もあり、区の管理職として関係部署との連絡調整をしやすい立場にあるため、連携体制を構築しやすいと感じています。このようないわゆる横の連携は、基礎自治体である区の児童相談所であるからこそ、より前進させることができるとも感じています。

常勤弁護士の周知と育成を


ーー常勤弁護士の配置は進んでいるのでしょうか。


厚生労働省によると、2020年4月時点で児童相談所の常勤弁護士数は16人です。157人の非常勤弁護士と比較すると、配置が進んでいない状況です。

配置が進んでいない背景として、常勤弁護士のメリットが知られていない点があると思います。江戸川区でも常勤弁護士を配置することが決まったときも、外部から「常勤するほど弁護士に仕事があるのか」という指摘があったようですし、私も他の区の方から同様の質問を受けたことがあります。

児童相談所が抱える案件について、法的な問題を見落とさないためには、弁護士が大量の案件をチェックしなければなりません。大量の案件を実際に抱える児童福祉司からの相談、家事審判手続、児童相談所の行政処分に対する不服審査対応などを含めれば、かなりの業務量になり、実際は毎日夜遅くまで仕事をせざるをえず、非常に忙しいのが現状です。

常勤弁護士を配置した自治体は、「問題を迅速に解決できた」「裁判の手続きがスムーズになった」「法的な対応力が強化された」などのメリットを実感できていると聞いてます。私は12月に離任しましたが、江戸川区では、今後も児童相談所に常勤弁護士を配置し続ける方針で、現在も常勤弁護士が配置されています。

江戸川区よりも先に常勤弁護士を配置していた自治体では、任期付きで採用していたのを、常勤弁護士の実績を評価し、期限のない採用に変更したケースもあるようです。

ーー常勤弁護の配置を進めるためには何が必要でしょうか。


政府は常勤弁護士を配置した児童相談所に対する国庫補助をはじめとして、財政支援の拡充に取り組むなど、常勤弁護士の配置を進めようとしています。さらに配置を進めるためには、常勤弁護士のメリットや実績を各自治体に知ってもらうことなどが必要だと思います。弁護士会にも積極的に周知に関わってほしいと思っています。

人材育成も大切です。児童相談所に勤務する弁護士はまだ少なく、児童福祉法など関係法令の文献も少なく、十分な情報がありません。私自身も児童相談所常勤弁護士らのメーリングリストや児童相談所実務に詳しい区の協力弁護士に相談するなどして、手探りで進めています。

徐々に蓄積されている常勤弁護士のノウハウや今まで非常勤などで長く児童相談所の法的支援の分野を開拓してきた弁護士の実績の双方を弁護士会が活用し、児童相談所実務を担える弁護士を育成するシステムを構築してもよいと思います。

採用を検討する自治体において、常勤弁護士を選択しやすい待遇や採用のあり方を検討することも重要だと思います。

児童相談所の常勤弁護士だけでなく、自治体で働く弁護士に共通することですが、自治体の弁護士は任期付きで採用されることが多いです。しかし、常勤の公務員で、原則、数年間は法律事務所における通常業務ができないにもかかわらず、任期付きの採用となると、満了後のキャリアプランを考えて、応募をためらう人がいるかもしれません。

自治体にとって期限を設けずに弁護士を採用することにリスクはあるかもしれませんが、期限を設けずに採用した方が、良い人材を得られるのではないかと思います。

江戸川区では、児童相談所だけではなく、総務部や教育委員会など弁護士を必要とする部署で活用することを見越して常勤弁護士を採用しています。自治体側が、何を弁護士に求めるのかという政策的な見通しをもって採用することも、意欲のある弁護士が働きやすい環境になると思います。

ーー弁護士が児童相談所の常勤弁護士として働くことの魅力を教えてください。


常勤弁護士になると、児童相談所だけで働くことになるので、業務の幅が狭まると考えている人もいるかもしれません。

実際には、家事事件や刑事事件だけでなく、在留資格に関する問題など、多岐にわたるケースに対応するので、弁護士としての様々な法律知識が必要です。

また、家事審判などの裁判手続きや、保護者など関係者と交渉、裁判所・検察官、外部弁護士と児童相談所の間での連絡調整を行うなど、実務経験が求められる場面も少なくありません。

ほかにも、行政機関での仕事という特徴ゆえ、自治体法務、行政法実務を学ぶことができるし、職員として組織内部の意思調整や政策決定に関与するなど、通常の弁護士業務では経験できない知見を深める機会もあります。

児童相談所の常勤弁護士は、一般的に自治体内弁護士としては忙しいと思いますが、公務員としてワークライフバランスを図りながら、新しい法分野の勉強や経験を深められることも魅力だと思います。

子どもの権利擁護など、公益的な仕事に興味がある弁護士であればやりがいを感じられると思います。

船崎まみ弁護士プロフィール

中央大学法学部卒業。早稲田大学大学院法学研究科修士課程修了。2007年弁護士登録。東京パブリック法律事務所や法テラス三河法律事務所、都内法律事務所を経て、2014年から多摩市役所で任期付き職員として勤務。2018年に江戸川区役所に移り、2020年4月開設の児童相談所で都内初の常勤弁護士となる。現在は江戸川区の総務部で法務担当の副参事を務める。

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