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北周士弁護士に聞く ミニマム経営のススメ〜自由に働き売上もあげる

北周士弁護士に聞く ミニマム経営のススメ〜自由に働き売上もあげる

弁護士の経営や開業の支援に取り組む北周士弁護士。分かりやすい言葉で、的確なアドバイスがもらえると小規模経営者からの信頼も厚い。修習後、法テラスや一般民事を担当する伝統的な「街弁」を経て、ベンチャー企業法務に従事した経験などから、小規模事務所の行く末について語ってもらった。7 月某日には北弁護士が主催するオフ会にも潜入。小規模事務所を経営する弁護士が見据える「令和時代のシン・街弁」とはーー。 (弁護士ドットコムタイムズVol.73<2024年12月発行>より)

若手の選択肢が広がった今、小規模事務所の採用難は必然

ーー早速ですが、北先生は「街弁」なのでしょうか?

私はそうだと思ってるんですけど、あまり街弁と思ってもらえないですね。現在の経営の柱は、顧問業務とノーキャンドットコム(北弁護士が考案したキャンセル料の債権回収サービス)を含む債権回収関連、経営者層の離婚協議などです。ノーキャンドットコムも顧客は企業ですが、美容院や飲食店など個人経営の企業が多いため、くくりでいえば中小企業法務になるのかもしれません。

ーー「街弁」はどのように定義できるの
でしょうか?

シン・街弁論という企画はキャッチーですけど、街弁っていう言葉は抽象的で、共通理解はないと思うんですよ。

一般的な定義として考えられるのは、①業務内容が個人法務中心②弁護士が 1 〜2 人で事務員も 0 〜数人という小規模−という基準でしょう。私の場合は中小企業法務が柱なので、イメージされる「街弁」とは違うのかもしれません。ただ、これからの「街弁」を考える上では、定義そのものにはあまり意味がないと考えます。それよりも年間200 〜300 も生まれている 1 人事務所が今後も必要なのかという視点だと思います。

ーー「街」という言葉が持つ意味もありそうですね。

街中にあるからなんでしょうけど、人によってイメージする「街」も全然違う。東京は街弁じゃないという人もいるかもしれない。自分が街弁だと思えば街弁なんだということを前提に話していきましょう。

ーー最近、若手弁護士の間では街弁が不人気とも言われていますが、実感はありますか?

小規模事務所の採用難ということでしょう。5 大事務所にあれだけ(ここ 5 年は年 200 人以上で推移、全体の約 2 割)入っていれば、そうでしょう。中規模の弊所も、採用についてはここ 2、3 年で苦戦しています。

ただ、個人法務が避けられているわけではないと思います。各地に支店を展開するベリーベストなどが主力とするのは個人法務ですからね。だから業務内容のせいではないと思います。最初の待遇がよく、安定しているほうがいいという志向の変化でしょうね。今はインハウスという選択肢もある。

ーー若手が来ないのは地方もそうですね。

確かに。地方には街弁が実際多いから、それも影響して「街弁不人気」という印象もあるんでしょうね。これは「地方不人気論」なので、街弁が敬遠されているのとは別の問題です。

ーー若手に街弁の実態や魅力が知られていないという面もあるのでしょうか。

そうでしょうね。小規模事務所の良さは「自由度が高い」「仕事をやればやっただけ返ってくるのがわかりやすい」。魅力の一つですが、いまの若手に刺さらないのかもしれません。私が弁護士になったころの約 20 年前よりは、仕事をやっただけ報酬が返ってくるような歩合で欲しいという層の比率は下がってるという体感です。

ただ、それが問題なのかというと別です。即独しなきゃならなかった時代と比べて、選択肢が多いんだから。大きい事務所で経営や広告集客を見て勉強し、自分でミニマムな経営に役立てるほうが効率的です。

分野を絞ったミニマム経営こそ自由度高く働ける


ーー北先生の 1 日のスケジュールを教えてください。

私は固定されたルーティンが好きで、午前は対面のアポを入れず、9 時に事務所に出勤。書面の作成や法律書を読む時間に充てます。午後は、期日やミーティングです。

飲食店が好きなので、平日のうち、週 2日は午後 6 時まで仕事して友人知人や仕事関係の人と夕食を共にします。1 日は家でご飯を食べていて、あとの 2 日は午後 7時半ごろまで仕事をしてジムに寄ってから帰ります。土曜は仕事をしないと決めていて、日曜は経理の確認や、ビジネスの思案、夕方にジムに行くなどをしていますね。

ーーミニマム経営を勧めていますよね。

小規模事務所の経済合理性については、やり方次第で「労力の割に懐に入る金額を最大化しやすいモデル」だと思います。ミニマムならコストの比重は低いので、労働時間当たりの単価を上げたり、客層の設定などを工夫したりすれば、むしろ小規模事務所の優位性はあります。大手と違ったスタイルで、自由に働き方を選びやすい。売上はある程度でいいから、週 2、3 回しか働かないとかね。

スタッフを雇用していると、自分の労働を最低限化しにくいですが、1 人なら、維持コストが低いので仕事を減らしやすい。自分にとって負担感の強いものを全部切り捨てても何とかなるっていうのが、ミニマムの強みであります。

ーーこれからの「街弁」は、なんでも屋ではなく分野特化型のほうが求められるのでしょうか。

どうでしょうね。私は小規模であればあるほど、分野を絞るべきだと思ってるんです。経営資源がないので、やることが少しでも増えるとパンクしてしまう。

今はあらゆる分野がどんどん深く複雑になっているので、1 人の弁護士が身につけられる分野は限定されていると思います。それなりに売上をあげて、それなりに人生を送ろうとしたら、やることを絞って効率を上げるっていうのはむしろ必須でしょう。

伝統的な街弁だと、いろんな案件が来てしまうんですが、その中で「自分がやった方がいいもの」と「他の事務所に行ってもらった方がいいもの」はあります。

もちろん、いろいろ手を出しちゃいけないと言っているわけじゃありません。ものによってはやればいい。ただ、今やってるものが常に未来永劫あるとは限らないんです。小さい事務所は乏しい経営資源をどこに投入するかという観点が重要で、今後どう伸ばすかも考えなければなりません。

AIは有用、でも仕事を取っては来られない


ーーAI の進化などで、街弁の存在意義はどうなるでしょうか。

労働時間が減れば、時間単価が上がる。AI は積極的に入れていくべきでしょう。ツールを使わない人の負荷が高くなるけど、ツールを使ったことで他を圧倒することもないと思います。しょせんは来た仕事の効率化です。仕事を取る、依頼をいただくことではないので、AI が仕事を取ってきてくれるんだったら多分違いますけどね。

DX によって小規模事務所の経営が大幅に変わるかというと、まだ疑問ですね。極論 AI が毎日 100 通の訴状が書けるとしても、毎日 100 件の依頼が来るというのは現実的ではないですし。

ーー変化の激しい中で、生き残れる弁護士とは。

戦略性は要らないけど、待ってるだけじゃダメです。自分がこうだと思ったら何か踏み出してみる。もしくは目の前に来たものでこれだと思ったら飛びついてみる。 日々の改善ではなかなかドラスティックには変わりません。もうちょっと伸ばしてみよう、深めてみようって選択的に選べるって人が強いと思います。

ノーキャンドットコムもそうです。決して私のオリジナルではなく、基本的には他の先生の話を聞いて、マイナーチェンジしたものです。大手と同じようにはできない。このお客さんだけなら…などと絞っていく。その人なりの負担が少なくて、高い価値を提供できる分野を見つけられるかがカギになるでしょう。

北 周士(きた・かねひと)

中央大学卒業後、2007 年弁護士登録 ( 旧 60 期 )。小規模事務所などでアソシエイトとして一般民事などを経験した後、2011 年「きた法律事務所」を設立。ベンチャー企業や中小企業の顧問業務を中心に担当するほか、仮想通貨の返金を求めるコインチェック被害対策弁護団団長などを歴任。2018 年からは法律事務所アルシエンに参画し「弁護士 独立・経営の不安解消 Q&A」など経営に関する著書執筆やセミナーを行っている。

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