公判前整理手続後に証拠調べ請求「法の趣旨反する」 大津地裁の運用、何が問題だったのか

公判前整理手続後に証拠調べ請求「法の趣旨反する」 大津地裁の運用、何が問題だったのか

【本記事は2020年10月19日に公開したものです】刑事裁判の公判前整理手続を経たのに、公判開始後も「(証拠調べ請求を)柔軟に行えるようにする」とした大津地裁の運用に対し、大阪高裁は、9月4日に出した弁護側の即時抗告を棄却する決定の中で、「(刑事訴訟法の)趣旨に反するものであって賛同できない」と言及した。公判前整理手続に詳しい弁護士は、「裁判所は(公判前整理手続きで)時間がかかることを懸念している」と背景を分析した上で、訴訟指揮の改善を求めている。

「証拠開示が十分に受けられないまま公判が始まった」

大阪高裁の決定は、2019年5月、飲酒後に車を運転して大津市で事故を起こし、当時9歳の男児を死亡させたとして、会社員の男が、自動車運転死傷行為処罰法違反(危険運転致死)の罪で在宅起訴された事件に関するもの。弁護人の辻孝司弁護士によると、過失運転致死罪の適用を求める弁護側は「争点と証拠を整理する必要性がある」として、同年12月、大津地裁に公判前整理手続を求めたが却下された。大津地裁は、今年5月の初公判当日、公判がはじまる直前に公判前整理手続を1回だけ実施した。

辻弁護士によると、大津地裁の大西直樹裁判長は、公判前整理手続で「公判中の証拠調べ請求は、(原則的に)法律上できないけれど、(今回の事件は)やむを得ない事由に該当する。裁判員裁判ではないから、柔軟に使えば良いのではないか」と発言。また、「(他の裁判所に勤務していた10年前にも)同様の運用をした」と説明し、休憩をはさんだ直後に公判を始めた。

辻弁護士は、「証拠開示が十分に受けられておらず、おかしいと(大西裁判長に)反論したが、最終的には、裁判所の柔軟な対応を信じて受け入れた」としている。

弁護側は、公判中の6月、検察側の起訴前の捜査報告書の証拠開示命令を地裁に求めたが、地裁は「証明力を判断するための重要性が認められない」として棄却。弁護側が大阪高裁に即時抗告した。

大阪高裁は9月の決定の中で、公判前整理手続を経た公判中の証拠開示請求や証拠開示命令請求について「許容すれば、公判審理に移行しても際限なく証拠開示の手続が続き、ひいては証拠制限がないがしろにされる結果をもたらしかねず、制度が成り立たない」と、即時抗告を棄却した。

一方で、今回の大津地裁の証拠調べ請求の運用については、「(刑事訴訟法の)趣旨に反するものであって賛同できない」と言及した。

大津地裁は、弁護士ドットコムタイムズの取材に対し「個別の事件については、回答できない」とコメントしている。

日弁連が公判前整理手続の運用について調査

公判前整理手続は、以前は裁判官が職権で手続きに付すかどうか決めていたが、2016年の法改正で、被告人や弁護人からも手続きに付すよう請求できるようになった。日本弁護士連合会(日弁連)は、2019年11月から、弁護側の公判前整理手続請求を裁判所が認めなかった事例を集めている。調査を担当する虫本良和弁護士(千葉県弁護士会)は、今回の事例について、「公判前整理手続を開いたのに、運用が消極的だった事例は珍しく、興味深い」としている。

虫本弁護士によると、今回の事例と請求が認められなかった事例に共通する背景として、裁判進行の迅速化が背景にあるとみる。「現状、証拠一覧表の請求など、公判前整理手続でなければ認められていない手続きもある。公判中に、『証拠はこれしかない』と言われても、真偽を確認する術がなく、任意開示に応じてくれない場合に困るのは弁護側だ」と指摘する。

虫本弁護士は、「現状の問題点は、公判前整理手続でなければ、検察側の証拠開示が義務化されない点にある」として、公判前整理手続以外の場でも証拠開示を義務づける制度改善の必要性を訴えている。

(画像/PIXTA)

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