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主戦場は法廷とリング 日本で唯一の弁護士レスラーが語る「戦い方の美学」

主戦場は法廷とリング 日本で唯一の弁護士レスラーが語る「戦い方の美学」

がっちりとした身体、よく通る声、そして強烈な目力ーー。依頼者から「川邉さんが代理人だと相手が怯むので心強い」と言われることもあるという。 自身が生まれ育った街・横浜に事務所を構え、依頼者の利益を守るために戦う川邉賢一郎弁護士にはもうひとつの顔がある。プロレスラー・竜剛馬としての顔だ。スーツ姿でリングに上がり、模範六法で対戦相手を殴打。日本でただひとりの弁護士レスラーとして、法廷とリングで全力の戦いを繰り広げている。 弁護士レスラーという異色の存在が誕生するまでの経緯や、プロレスラーの活動と弁護士業の関係性、「模範六法で殴られたら痛いのか?」という素朴な疑問まで、幅広く答えていただいた。

スーツをまとい、模範六法を手に、リングへ


ーー高校時代からプロレスにのめりこみ、東京大学在学中は学生プロレスサークルに所属。2005年、大学卒業後にプロレスラーとしてデビューされています。

司法浪人をしていた時期に、学生プロレス時代の先輩でプロデビューをしていた方から「新しい団体を立ち上げるから、試合に出てみないか」と誘われたんです。単発の興行だと思って受けたらがっつり入門することになり、そのままデビューしました。

司法浪人を経て東大のロースクールに入ったんですが、勉強の一方で、月1くらいのペースで試合にも出ていました。赤羽に道場があり、授業が終わってから練習に行っていましたね。

ーー修習生時代もプロレスの活動は続けていたのですか。

修習専念義務違反だということで続けられませんでした。司法研修所宛に上申書を書いて許可をもらおうとしたんですが、副業にあたると判断されてしまって。多分、「プロレスやりたい」という理由で上申書を提出した修習生は後にも先にも僕だけだと思います(笑)。

ちなみにプロレスラーとして活動することは、今も弁護士会に届け出をしています。

ーースーツ姿でリングに上がり、ときには模範六法を武器にする。このスタイルはどのように生まれたのでしょう。

もともとは黒いショートタイツで、いかにもプロレスラーというスタイルで戦っていました。

弁護士として活動し始めてからもしばらくはそのスタイルだったのですが、試合に勝てない時期が続いて行き詰まっていたんです。「何かしらのキャラづけをしたら突破口があるかもしれない」と思い、試しにスーツを着てリングに立ってみたら結構ウケまして。それまでスーツで試合に出るレスラーはいなかったので斬新だったのだと思います。

その格好で相手のレスラーに「お前は傷害罪だ!」とか言うとさらに盛り上がり、「あ、こっちの方向か」と悟りました。それから徐々に「六法で殴ったら面白いんじゃないか」というふうに思いついたことを実践する中で、少しずつ今のスタイルを作っていきました。

ーープロレスでよく使われる凶器というとパイプ椅子が思い浮かびますが、模範六法とどちらが痛いのでしょう。
 
パイプ椅子はレスラーも慣れているので、ダメージが少ない受け方を心得ているんです。振り下ろされたときに頭の一番硬い部分で受ければ、椅子の座面がパーンと飛んで、ある程度ダメージを逃がせます。

かたや六法は、衝撃をダイレクトに受けることになります。六法での攻撃を受け慣れている人はあまりいないので、とっさにうまく受け身の姿勢を取れず、衝撃を逃せない。特にカバーがついている状態だと曲がらないので相当痛いはずです。パイプ椅子にも引けを取らない威力があると思います。

ーー六法全書ではなく模範六法を使う理由はありますか。

六法全書や判例六法は2冊に分かれていますが、模範六法は1冊にまとめられているので使いやすいのが1つ。

もう1つの理由は、使っていたら三省堂さんが模範六法を寄贈してくれるようになったからです。怒られるかもしれないと思って心配していたんですが、意外と好意的に受け止めてくださって、毎年寄贈していただきました。

模範六法は試合ごとに新調するわけではなく、基本的に1年間使い続けます。三省堂さんからは「壊れたら、連絡いただければ新しい本を送ります」と言われていましたが、試合ペースは月に1回なので1年と言っても10試合程度。それほどボロボロにはなりません。

「二刀流」と言われるけれど…「両立という感覚はあまりない」


ーー弁護士業、事務所経営、プロレスラーという複数の活動を、どのように両立しているのですか。

自分としては、あまり、両立という考え方はしたことがないです。スケジュール管理も他の人と同じようにGoogleカレンダーに予定を詰めているだけで、特別な工夫をしているわけではありません。

弁護士の中にも、通常の業務と並行して社会的な活動や趣味に打ち込んでいる人はいくらでもいますよ。僕の場合、プロレスと弁護士という全く毛色が違う活動をしているので「二刀流」「二足のわらじ」とキャッチーな表現をされやすいだけです。程度の差こそあれ、本業と自分がやりたいことのバランスをとりながら生活している人は多いと思います。


プロレスラーとして、弁護士としての戦い方の「美学」


ーー依頼者は、先生がプロレスラーであることをすでに知っている方が多いのですか。

そうでもないです。事務所の入口に試合のポスターを貼ってあるんですが、「何ですかこれ」という反応をする方が多いです。もちろん知っている方も来ますよ。

2014年に独立して、当初はインターネット経由で問い合わせをいただくことが多かったのですが、徐々にご紹介の案件も増えてきました。一般民事を中心に幅広く対応しています。

ーー弁護士の活動をする上で、プロレスラーであることが活きていると感じることはありますか。

やりたいことをやっているのでストレス発散になっているのと、度胸がつくことでしょうか。弁護士は精神的な負荷が大きい仕事ですが、どんなに緊張する局面でも、強面の人に詰め寄られても、物怖じせずに対峙できるのはプロレスのおかげです。「リング上の対戦相手に比べれば何でもない」と思えますから。

刑事事件の裁判で、傍聴に来た被告人の家族や親戚の方から「いい弁論でしたね」とよく言われるんです。裁判官から見てよくできているかはわかりませんが、一般の方にそう言っていただけるのは、声がよく出てハキハキ話しているからだろうなと。それはまさに、リング上で声を出し、自分をアピールしてきたことが活きているのだと思います。

ストーカーやDVの被害者の事件を受けると、依頼者から「川邉さんみたいな人だと相手が怯むと思うので心強いです」と言われることも多いです。プロレスラーとしては負けてばかりだし本当は気も弱いんですが、弁護士としては気持ちを奮い立たせて戦っています。

とはいえ、もちろん裁判では負けることもあります。選り好みしなければ、勝つ事件と負ける事件はだいたい半々になると思うんですよ。半分負けるのであれば、いかに納得いく負け方をするか、ダメージコントロールをするかという観点は、弁護士の仕事の中でも非常に重要だと考えています。

ーー「ダメージコントロール」とは、具体的にはどういうことでしょう。

たとえば、依頼者が不法行為をして、裁判所から、相手方に1000万円の賠償を命じられる見込みになったとします。お金を支払うことは避けられないけれど、分割で支払えないか和解交渉することで、生活や仕事は現状を維持しつつ相手への賠償を完了するという状況を作れます。

あるいは企業が金融機関から融資を受けて返済が苦しい場合に、支払い期限の延長や月々の返済額の減額を申し入れて倒産を回避することもダメージコントロールの1つです。

実際に、結果としては負けたけれどダメージコントロールが思い通りにできた案件では、後になって依頼者が別の仕事を紹介してくれたこともあります。

我々のところに相談に来た時点で「これはどうしようもないな」と思う事件でも、弁護士が匙を投げてはいけません。負けが濃厚なら、いかに依頼者の損害を最小限に抑えられるかを考えて全力で戦うことが弁護士の使命だと思います。

ーーそうした姿勢は、プロレスで培われたマインドなのでしょうか。

もともとの性質によるところと、1年目に入った事務所の影響が大きいです。難しい案件も嫌がらずに受ける事務所で、当時の経験は弁護士としての礎になっています。

特に影響を受けたのは、今も一緒に仕事をしている倉持麟太郎弁護士の存在です。同じ年に入所したのですが、彼は入所たった2か月で大規模な会社の経営再建を任せられたんです。

その会社は法令違反を理由に行政処分が下ることがほぼ確実で、業務停止待ったなしの状態でした。倉持は処分の時期を伸ばすための行政側との交渉、分社化や銀行に対する融資の申し入れなど、倒産を回避するためにあらゆる手を尽くし、最終的に倒産を回避することに成功しました。

どんなに苦しい状況でも依頼者の利益を守るために全身全霊を傾ける、そんな同期の姿を弁護士になりたての頃に間近で見られたことは僕にとっての財産になっています。

派手な活躍よりも、長く続けたい


ーー最後に、弁護士、そしてプロレスラーとしての展望をお聞かせください。

長く続けることです。来年も僕が弁護士とプロレスラーを続けられているかは誰にもわかりません。次の試合で大ケガをして選手生命が終わってしまうかもしれないし、弁護士としてもいつ大失敗するかわからない。そういう緊張感は常にあります。

だから、華々しく活躍できなくてもいいから少しでも長く続けられるように努力し続けたい。ただそれだけです。

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