弁護士が被災者支援に取り組む意義は 「支援カード」で情報発信する弁護士に聞いた

【本記事は2020年8月31日に公開したものです】地震などの災害で被災したとき、生活が困窮したとき、どうやって支援を受けてよいのかわからないーー。こうした悩みに応えるため、永野海弁護士は、災害で被災したり、新型コロナウイルス感染症で生活が困窮したりした人などが利用できる支援制度を一覧にしたカードを作成、発信している。支援制度を一覧できる「新型コロナ対策支援カード」は、SNS上で「わかりやすい」と大きな反響を呼んだ。永野弁護士はどのような思いで被災者支援に取り組んでいるのか、弁護士が災害対策や被災者支援に関わる意義はどこにあるのか、話を聞いた(2020年8月21日インタビュー実施)。
防災に関する知識も楽しくなければ身につかない
ーー永野弁護士は「被災者生活再建カード」や「被災者支援チェックリスト」、「津波避難すごろく」などのツールを作り、ホームページで公開されています。これらのツールを作るようになったきっかけを教えてください。
これまで、「被災者支援チェックリスト」や「津波避難すごろく」などを作ってきましたが、最初に作ったのは被災者支援チェックリストです。災害で被害を受けた人が利用できる支援制度を1枚のシートにまとめたもので、折りたたむと電車のポケット時刻表のように持ち歩くことができます。2017年に作成し、制度変更などにあわせて随時内容を更新しており、日弁連や各地の弁護士会でも活用していただいています。
「申請主義」と呼ばれるように、日本では自分で申請しなければ制度の対象とならないことが一般的です。つまり、支援制度が用意されていても、制度のことを知っていて、申請しなければ、被災者は救われません。そこで、被災者が利用できる制度を一覧できるツールを作ろうと考えました。
ーーあくまで、一般の方に向けて作ったのですか。
一般の方だけでなく、弁護士にも活用してほしいと考えています。私は、弁護士にはもっと被災者支援に取り組んでほしいと思っています。しかし、「知識がないのでどのように支援すればいいのか分からない」と考えている弁護士は少なくありせん。弁護士であればチェックリストに書かれている制度をすぐに理解できるはずですし、分からなくてもすぐにネットで調べることができます。
チェックリストは、大半の支援制度が網羅されているので、弁護士が被災者を支援するためのツールとしても有効だと考えています。
また、主に子どもに向けて「津波避難すごろく」を作りました。津波から子どもの命を守りたいと考え、これまでも多くの講演をしてきましたが、その場で話を聞いてくれていても、知識として身についているという実感がありませんでした。そこで、津波から避難するときのルールをゲーム感覚で学べるツールが必要だと考えたのです。
防災に関する知識でも、楽しくなければ身につかないし、広めようとも思わないでしょう。一人でも多くの人の命を守れるような実践的なツールでなければ、作っても単なる自己満足になってしまうので、少しでも知識として残るツールをこれからも追求したいと考えたいです。
永野弁護士のホームページに公開されている「新型コロナ対策支援カード」
全ての弁護士が被災者から頼られ、悩みを解決する道標を提供できる存在に
ーー災害対策や被災者支援に取り組むようになったきっかけを教えてください。
東日本大震災が発生したとき、私はすでに静岡県弁護士会の災害対策委員会に所属していました。しかし、当時は熱心に災害対策に取り組んでいたわけではありません。
そんなとき、支援要請があったため、福島の避難所を訪れました。
当時は支援制度の知識がなく、丸腰の状態でした。被災者と雑談するくらいしかできませんでした。それでも、雑談の中から様々な悩み事が見つかり、法律家としてアドバイスできる場面も多くありました。
被災者の力になれたのかわかりませんが、多くの人から感謝され、「やってよかった、また被災地に行こう」と思ったのが、災害対策や被災者支援に取り組むようになったきっかけです。
もっと勉強すれば、さらに被災者の力になれると思い、自分なりに支援制度などについて学びました。そして、制度をすぐに確認できるチェックリストなどもあった方がよいと考え、ツールの作成も行うようになりました。
ーー弁護士が災害対策や被災者支援に取り組む意義を聞かせてください。
災害で大きな被害を受けた場合、自分の悩みを聞いてくれる人がいるだけでも嬉しいでしょう。その人が、様々な情報の中から自分にあった情報を選び取んでくれるとしたら、さらに心強いのではないでしょうか。自分が利用できる制度を教えてくれて、どうすれば給付金を受け取れるかを教えてくれたら、安心できると思います。
弁護士は被災者にとって、そうした情報を交通整理する存在です。被災者の力になるのは、弁護士にとってとてもやりがいを感じることだと思います。全ての弁護士が、被災者から頼られ、悩みを解決する道標を提供できる存在になってほしいと思います。
被災者を「最後まで見届ける、関心を持ち続ける」という意識が大切
ーー弁護士はどのような意識で災害対策や被災者支援に取り組めばよいのでしょうか。
全ての弁護士が、災害対策や被災者支援に必要な知識や情報に詳しいわけではありません。地震などの災害が発生しても、「特別な知識をもっていないので、被災者から何か聞かれても答えられない。弁護士として被災者のためにできることは少ない」と考えている弁護士もいると思います。
「あらかじめ必要な知識を学んでおき、その知識を被災者に与える」という意識ではなく、まずは、「被災者と一緒に考える」という意識で取り組む方がよいと思います。「知識を与える」という意識だと、「知識がなければ支援するために被災地ヘ行くのが怖い」という気持ちになってしまうし、支援するとしても知識を提供するだけの、形式的な支援になってしまうかもしれません。
被災者の悩みを聞き、一緒になって考えていれば、それだけでも被災者から感謝されます。もっと勉強して、被災者の役に立ちたいという気持ちになると思います。勉強したいと思えば、弁護士会が開催する研修やワークショップなどで、被災者向けの支援制度や、現地で相談対応するためのノウハウを学ぶことができます。また、自治体や被災地でボランティアを行う団体などから、支援の実例を学んでもよいでしょう。
「現地で被災者の相談を受ける→もっと役に立ちたいと思う→研修などを通じて支援の方法を学ぶ→再び被災地を訪れ、学んだ知識を被災者に伝える」。こうした循環が理想だと思います。
被災者の生活再建は何年もかかります。支援した地域や被災者を「最後まで見届ける、関心を持ち続ける」という意識が大切です。
ーーそもそも、災害で被害を受けた人は弁護士に相談するのでしょうか。
7月の集中豪雨では、熊本を中心に大きな被害が発生しましたが、水害の場合、弁護士に対する被災者からの相談件数は、地震や風害の際などと比べると伸び悩みます。
「洪水で家が浸水したけど、修理するお金がない」という悩みを抱えていても、「法律に関する相談ではない」と判断して、そもそも弁護士に相談しようという考えに至らない実態があると思います。
直接法律に関わるような問題だけでなく、いろいろな悩みを弁護士に相談できることを発信していく必要があると考えています。
たとえば、法律相談会を案内する場合などでも、表現に工夫が必要です。「無料法律相談」という言葉がよく使われますが、「法律相談」という言葉自体のハードルが高いです。漠然としたカウンセリングのような質問でも相談できると伝わることが重要です。
案内の表現を工夫したとしても、弁護士会のホームページやSNSなどで周知するだけでは、被災者に認知されない可能性があります。メディアとのつながりの深い弁護士や自治体、被災地でボランティアを行う団体など連携し、広報してもらう方がよいでしょう。
また、被災者からの相談を待っているのではなく、被災者のところに行くことも大切です。弁護士に相談するのはハードルが高いと考える人は多いので、「弁護士自ら被災地に行かないと相談は受けられない」と認識した方がよいです。現地に行くことで「これほど多くの人が弁護士に相談したいのか」と思うほど、相談を受けると思います。
永野海弁護士ホームページ