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感染者の個人情報保護、どう図る コロナ禍のプライバシーについて折田明子氏に聞く

感染者の個人情報保護、どう図る コロナ禍のプライバシーについて折田明子氏に聞く

【本記事は2020年8月17日に公開したものです】新型コロナウイルスの感染拡大が続く中、いつ、どこで感染が発生したかなど、感染者をめぐる情報への関心は高い。一方で、感染者が少ない地域では、職業などの情報から個人を特定され誹謗中傷に発展するなどの問題が生じている。感染者の情報の周知の必要性と、感染者の個人情報の保護のバランスは、どのようにはかればよいのか。コロナ禍におけるプライバシーのあり方について、情報社会学を専門とする折田明子准教授(関東学院大学)の寄稿を紹介する。

感染したら責められる

「大学で新型コロナ感染者が出てしまったら、就職に支障が出るでしょうか・・」

つい先日、学生からこんな質問があった。返す言葉がすぐには見つからなかった。悲しい質問だった。

今年3月、クラスターが発生した大学の学生が飲食店への入店を断られたり、アルバイトを解雇されたりしたという記事が新聞社のサイトに掲載され、SNSで共有されていった。そのことが前提にあったようだ。

学生からの質問は続いた。

「もし自分が新型コロナウイルスに感染したことに気づかず、クラスターの原因になってしまったら、賠償金を支払わなければならないのでしょうか?」

感染症にかかれば、責められるのか。「○○でコロナが出たらしい」「地域を公表して欲しい、避けられるから」といったコメントも、各種のSNSで日々目にする。病気になった者に必要なのは治療やケアであるにも関わらず、感染が本人の責任として、そして周囲に感染させる加害者になり得るとして、感染者を非難する傾向がないとは言えない。実際、大阪大学の三浦麻子教授らが3〜4月に実施した5カ国調査によれば、日本では「感染は自業自得だと思う」と答えた人の割合は11.5%であり、次点の中国の4.83%とは大きく差がついていた(注1)。

実際、クラスターの発生に関する報道では、その施設やイベントにおける感染防止対策の不備や原因と考えられることに加え、そのクラスターで感染した人たちの年代・性別や行動履歴といった情報が公表される。Twitterでは、ハッシュタグにその施設名と #コロナ を組み合わせれば、多くの「不確かな」情報や関係者への非難を見ることができる。

大学に関するクラスターでは、大学名のみならず部活動の名称や、個々の学生の行動が報道されることがある。さらには、個々の学生の性別と、誰と誰が濃厚接触なのか、ともに外出したのかといった関係性を図示した記事を出した新聞社すらあった。氏名は伏せられているものの、「こんな時期に飲み会をやるからだ」「遊びにいくからだ」といった非難は、大学名のハッシュタグとともにSNSに表出する。学生が感染したことについて「お詫び」を発表する大学もある。その学生が入構しておらず、実家でオンライン講義を受けているような状況であってもだ。冒頭の、就職への支障や賠償金を不安に感じる学生の質問は、現状に対する不安そのものだったのだ。

公表される情報は統一されていない

厚生労働省が2月27日に発出した「一類感染症が国内で発生した場合における情報の公表に係る基本方針」の事務連絡では、新型コロナウイルス感染症を含めた一類以外の感染症に関わる情報公表についても、厚生労働省では基本方針を踏まえた上でプレスリリースを出していると書かれている。この公表基準によれば、個人の特定を避ける配慮とともに、感染源を明らかにして国民にリスクを認知してもらう必要があるとし、職業に関しては、感染源との接触機会が多い等の場合に公表を検討、居住市区町村は、市区町村が公表する場合には国も併せて公表する可能性があると書かれている。

現実にはどうか。「警察官」「看護師」「小学校教員」といった職業と年代、居住自治体に加えて、該当者の勤務先、さらには「クラスターとなった舞台を数回鑑賞」「風俗店女性との濃厚接触」といった感染経路となり得る行動に関する情報が併せて公表された。こうした職業は公益性が高いため、公表するという判断に至ったと考えられる。たしかに、感染経路やリスクに関する知見を得たり、濃厚接触者を探したりする上で情報の公開の必要性はあったのであろうが、それは個人と結びつけて公開されるべきだったのだろうか。正直に申告すれば公表されて非難を浴びるのであれば、検査自体を避けたり申告をしなくなったりすることにつながる。実際、「都合が悪く言い出せなかったと」という事例が起きている(注2)。

陽性者数に関しては、各都道府県ならびに政令指定都市が独自に報道発表を行っており、そのデータをWebサイトで公開しているが、自治体によってその情報および形態は異なっている。たとえば、筆者が居住する神奈川県では、保健福祉事務所管内や市によって、陽性者に関して発表される情報は異なる。Webサイトに掲載される患者の発生状況(注3)は表1の通りである。政令指定都市(川崎市・横浜市・相模原市)での居住区の公表の扱いも異なっており、横浜市と相模原市はそれぞれの個人の居住区を「個人が特定されるおそれがあるため」(相模原市Webサイト)として記載せず、週報で集計を掲示している。

表 1 神奈川県の患者の概要の発表内容 (2020.8月10日時点:神奈川県Webサイトをもとに筆者作成)

上記の表の発表とは別に、市立学校教員に感染が認められた際は、記者発表資料が公表されているが、これも市によって公開される情報が異なる。たとえば、川崎市および横浜市を比較すると、当該教員の年代・性別、症状や出勤に関する経過や行動の詳細、学校の対応はいずれも公表しているが、川崎市では、当該教員の居住区および学校の所在区を公表する一方、横浜市では当該教員の居住区や学校の所在区を公表していない。ただし、横浜市内の県立養護学校に関しては学校名が公表された。なお、川崎市教育委員会は7月20日、保護者向けの文書を発出し、学校名を非公表としたことで不正確な情報がSNSを通じて流布されたことがあるとし、「学校名を含めた必要な情報を公表することで、憶測や不確かな情報による混乱や風評被害などが生じないように取り組む」とした(注4)。

このように、個人情報の保護と公衆衛生上の必要性の判断は自治体ごとに異なっており、居住する地域によってどの情報がどのように公表されるかが異なる状況については、いわゆる「2000個問題」が解消されていないことが背景にあると考えられる。新潟大学の鈴木正朝教授は、4月の時点において「広域災害やパンデミックといった問題に対しては、国が統一的なデータ収集と公表の基準を機動的に定めるべき」と指摘した(注5)。

どの情報を誰に開示するか

学校関係者の感染が判明した際には、「どこの学校?」「どの区?」と言った不安がSNSに多く共有され、「○○の学校らしい」という不確かな情報も流布する。実は、筆者にも小学生の子どもがいるため、市内の小学校が休校になったと聞くと不安を感じ、「どこの区だろう?」と思ってしまう。自分のところに連絡がないということは、該当の小学校ではないということだが、それでも不安が消えるわけではない。実際、お子さんの学校が休校となった方によれば、現場の対応は迅速に行われたという。学校名は公表されなかったが、関係者が限定されているため、公表することで得られるメリットよりも非難や風評のリスクの方が大きいだろうということであった。当事者らは強い緊張感にさらされながら現場の対応で追われていたという。一方で、生徒自身がうっかりSNSで書いてしまったというケースもあったという。

不安や恐怖自体を否定できないものの、それがさらなる被害を招いてはならない。不安を解きほぐし、どの情報が必要であり、それを誰に公開、開示あるいは通知するのかを整理する必要がある。

不特定多数が訪問する場所であったり、あるいは関係者を絞りきれない施設であれば、場所や施設名を公表することで、訪問した可能性がある人たちに対して感染の可能性を知らしめ、症状がある場合には相談につなげられるなど、公表するメリットは大きい。いくつかの自治体で導入されている「LINEコロナお知らせシステム」のように、QRコードを読み込んだ訪問者に対して、濃厚接触の可能性があればメッセージが送られると言ったシステムと組み合わせることで、その効果は高くなるだろう。

クラスターが発生したイベントや施設、グループの種類、どのような行動が感染リスクを高めていたのかといった情報も、感染回避行動を取る上で必要な情報である。

早急に整理すべきなのは、感染者個人に関する情報の扱いだ。自治体が濃厚接触の状態を公表した結果、感染者間の関係図が作成され、SNSのみならず地方紙で発信される事例もある。さらに、行動の詳細や勤務先を併せて公表することにより、感染者が特定されたり、感染者やその家族に対する非難につながったりする事例が散見される。こうした事態を避けるためにも、その情報は特定の感染者個人に紐付ける必要があるか否かを検討し、情報の種類と開示先(一般に公開・濃厚接触者に通知・保健所が把握)を構造的に整理する必要がある。

たとえば、感染リスクの高い行動に関する情報は、感染防止のためにも広く、かつ具体的にどのような行動かが周知されることが役立つ可能性があるが、これを特定の個人と紐付けてしまえば、個人の糾弾という問題に矮小化されてしまう。感染者の情報とリスクの高い行動とその結果(何名の感染拡大など)に関する情報を一般に公開する上では切り離すことも考えられる。実際、8月14日には、国立感染症研究所が各地で確認されたクラスター約100例を分析した結果を典型的なケースとしてとりまとめた事例集を公表した(注6)。このような事例や対策が周知されることは、感染防止のために必要なことであり、そのための情報を集めるためにこそ、情報の提供が個人の不利益にならない設計が必要なのである。

感染者に関する情報は、保健所や、状況によっては濃厚接触者に知らせる必要があるが、詳細を日本全国に公開する必要は必ずしもないだろう。入構者が限定されている施設であり、濃厚接触者が特定できているのであれば、その施設名を広く公開する必要はない。一方で、不特定多数が出入りする施設かつ濃厚接触の可能性があるのであれば、周知することにメリットがある。より感染の可能性がある接触について心当たりのある人に注意喚起ができる。

感染症に対する恐怖や不安という感情自体は簡単におさめられるものではないことも頭に置いた上で、感染拡大防止のための情報共有と、感染者のプライバシーの保護を両立させていくためには、情報を構造的に整理すると同時に、一般向けに公開されていなからといって隠蔽ということではないこと、当該情報はどのレベルで公開あるいは開示、通知されているのかを説明し続ける必要があると考える。

図 1 情報を整理する(筆者作成)

(注1)「コロナ感染は自業自得」日本は11%、米英の10倍…阪大教授など調査」(読売新聞 2020.6.29) https://www.yomiuri.co.jp/national/20200629-OYT1T50107/

(注2)男性警察官「都合(体裁)悪く言い出せなかった」(Web東奥 2020.7.16) https://www.toonippo.co.jp/articles/-/381358

(注3)神奈川県 新型コロナウイルスに感染した患者の発生状況 https://www.pref.kanagawa.jp/docs/ga4/covid19/occurrence.html

(注4)川崎市教育委員会[市立学校]新型コロナウイルス感染症への対応について http://www.city.kawasaki.jp/880/page/0000115490.html

(注5)感染者の情報どこまで公開? 自治体ごとに対応バラバラ、 鈴木正朝教授「国が判断基準示すべき」(弁護士ドットコムニュース 2020.4.15) https://www.bengo4.com/c_23/n_11070/

(注6)国立感染症研究所感染症疫学センター 「クラスター事例集」
https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000654503.pdf

画像・折田明子氏(本人提供)

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