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家族のあるべき姿は一つではない 多様性を認め合える社会に 榊原弁護士インタビュー

家族のあるべき姿は一つではない 多様性を認め合える社会に 榊原弁護士インタビュー

さかきばら法律事務所(東京都千代田区)の弁護士・榊原富士子氏は、離婚、親子、相続、家庭内暴力など家族の問題に長年携わり続けてきた。19名の弁護団で挑み、昨年12月に判決が出た夫婦別姓訴訟は記憶に新しい。「いろいろな家族があって、そこに優劣はありません」さまざまな家族を苦しみから救い出し、解決へと導いてきた榊原氏にこれまでの半生を伺った。(弁護士ドットコムタイムズ<旧・月刊弁護士ドットコム>Vol.13<2016年10月発行>社会正義に生きる 弁護士列伝No.11より)

家事事件に解はない 人と人とをつなぐ思い


「家事事件というのは人を別れさせる事件が多いんですけど、人と人とをつなぐ事件も多いんです」

弁護士になって35年、家族の問題と向き合い続けてきた弁護士・榊原富士子氏は語る。

「今から15年以上前のことです。今とは違って、子どもと別居親との面会交流について、裁判所が非常に消極的な時代でした。ある離婚事件で、私は父親側の代理人となったんです。母親は子どもたちと父親を合わせたくない、子どもたちも30分ほどの短い家庭裁判所での調査では父親とは会いたくないと答えました。そこで、父親は無理をせずに『弁護士が代わりに会うのはどうだろう?』と母親にご提案されたんですね。それから私が4ヵ月に一度、父親の代わりに子どもたち2人と面会するようになりました。父親からの贈り物を渡したり、写真を撮らせてもらったり。そうしてかろうじて関係をつなげていったんです」

面会交流の代理人を務めて10年ほどが経ったころ、転換期は突然訪れた。

「子どもたちは『今はお母さんの世話になっているから社会人になるまで会わない』と言っていたのですが、ちょっとしたきっかけがあって、20歳になる前に父親が直接子どもたちと会えるようになったんです。子どもたちと父親が直接お会いになる最初の日、私も同席を依頼されて4人で食事をしたんです。これからは直接やりとりしましょうって。この時は本当にこの仕事をやっていてよかったと思いました。もちろん、今の家庭裁判所なら、もっと強力に面会の合意に導いたと思いますが」

事件は、うまくいく時もあればうまくいかない時もある。家事事件の場合は、どちらか片方だけが悪いとはいえないことも少なくない。だからこそ気長にコミュニケーションを重ねて、いい解決へ落ち着けたい、と榊原氏は語る。

潜在ニーズへの気づき 夫婦別姓訴訟の闘いへ


榊原氏のこれまでの歩みは、自身の思いだけで決めてきたわけではない。偶然の出会いや、向こうからやってくるチャンスをつかみとって切り拓いた道もある。

「弁護士になった理由はいろいろあるのですが、その中の一つが、ある新聞の連載記事でした。鍛冶千鶴子さんという戦後の女性弁護士の草分けともいえる方が、ご夫婦で"家庭の法律"という記事を書かれていたんです。それにすごく感銘を受けたんですよね」

その後、母や高校教師のすすめもあって法学部に進学した榊原氏は、司法修習期にある女性の先輩弁護士と出会った。

「その先輩から、旧姓で働いているという話を聞いたんです。それで寮に帰ってから、女性の仲間たちと『どうする?』って話になったんですね。それぞれ結婚の直前だったこともあって、就職する前に婚姻届を出すとか、通称を使うという人もいました。そういうこともあって、夫婦別姓の問題になんとなく関心を持ったんですね」

弁護士登録後、榊原氏は女性の権利に関する委員会に所属し、そこで選択的夫婦別姓の問題を提起した。

「1986年に東京弁護士会で初めて『夫婦別氏を考える』というシンポジウムを開いたんです。当時は"別氏"なんてまったく理解されなかったんですが、一方で『ずっとそう思っていた』という人もいて、すごく人が集まったんですね」

人がつながり、事件がつながり、榊原氏のもとに姓に関する法律相談が増えていった。
「その中で、1988年に初めて裁判をしたいという方がいらっしゃったんです。ある大学教授の方で、大学で通称使用が禁止されていて、文科省への科学研究費助成金(科研費)の申請にも通称が使用できなくて困っていたんです」

特に海外からは論文でしか研究者のことがわからないため、それまでの論文の著者と別人だと思われたり、さらには盗作を疑われてしまうこともあるという。

「当時は私も若かったので、裁判長が準備書面の書き方などを丁寧に指導してくださって、相手方に対しても強く和解をすすめてくれたんです。それは、私たちの主張が間違っていないと共感してくださったからだと思います。おかげで両者が納得できる和解になりました。すると、その後すぐに科研費の申請にも通称使用ができるようになったんです。彼女一人が裁判をしたことで、多くの研究者が救われたと思いますよ」

鉄壁の守りに風穴を 十人十色の家族の形


2015年12月16日、夫婦別姓を認めない民法の規定を合憲とする判決が最高裁で初めて示された。

「この裁判長の意見の中には、家族は法律婚夫婦と嫡出子がそろっていて、皆氏が同じという家族を模範、標準とするという考え方が濃厚に出ていました。家族の模範や標準は、それをつくったとたんに、該当しない人たちがものすごく苦しくなるんですよ。その人たちに向けられる差別の目は当たり前にそこにあるのに、差別がまるでないかのように、配慮なく標準を立てるというのは捨て去るべき考え方だと思いますね。家族は定義できません。変化してきたのは事実で、これからも変化していくものですから。"家族はこうあるべき"と考えないのが、あるべき姿だと思いますね」

これまで榊原氏は、日々起きる家事事件と家族法全体にかかわる憲法訴訟を両輪として活動を続けてきた。

「若い人たちには、ぜひ一度憲法訴訟をやってほしいですね。弁護士は法改正を実現できるという強い面と、微力だなと感じる弱い面の両面があると思います。それでも、私たちは裁判を通じてなんとか風穴をあけることができます。私も若い人たちと一緒に弁護団をやっていますが、そうして気持ちを共有する人たちの中でノウハウをつなげて、裾野を広げていきたいと思っています。まだまだ憲法の観点で問うべき問題はいっぱいあります。それを弁護士が掘り起こして、問題提起していってもよいのではないでしょうか」

榊原富士子弁護士プロフィール

京都大学卒業後、1981年に弁護士登録。日本学術会議連携会員、家族<社会と法>学会理事、ジェンダー法学会理事、日弁連家事法制委員会委員。「離婚判例ガイド」(共著/有斐閣)など著書多数。

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