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「納税者は課税庁と対等、裁判でも勝てる」理想掲げ40年、税法学者・三木義一が切り開いてきた道

「納税者は課税庁と対等、裁判でも勝てる」理想掲げ40年、税法学者・三木義一が切り開いてきた道

税法学者の三木義一氏は弁護士としても多くの税務争訟に関わり、異例とも言える「不当を理由にした処分取消し」を実現した経験を持つ。また、政府税制調査会の専門委員会に参画し、納税者に有利となる国税通則法の改正に繋げた。実務への影響を目指した訴訟で、最後の最後で悔しい思いをした経験もありながら、その活動を支えてきたのは 「課税庁と納税者は対等」という一貫して変わらない強い思いだ。法学者として、そして弁護士として税法のエキスパートが歩んできた半生を聞く、ロングインタビュー。 三木義一氏(元立命館大学大学院教授、前青山学院大学学長、弁護士)インタビュー(弁護士ドットコムタイムズ<旧・月刊弁護士ドットコム>Vol.54<2020年3月発行>より) 取材・文/矢野大輔 取材/新志有裕・並木光太郎

「課税庁と納税者は法の下で対等」信念が結実した国税通則法の改正

三木氏の税法学者としての歩みは、ドイツ税法と日本税法の比較から始まった。

「ドイツには『租税権力関係説』と『租税債務関係説』という考え方があります。『租税権力関係説』は国と納税者との間に権力関係があり、行政を優位に考える考え方です。

それに対して『租税債務関係説』は、租税も契約上の債権債務と同じで、課税庁も法律に拘束され、納税者も法律に従う必要があるという考え方で、ドイツの税法学者のアルベルト・ヘンゼルが主張したものです。つまり、課税庁と納税者は、上下関係ではなく、対等な関係にあるという考え方です。

私はヘンゼルの税法理論を自分なりの観点で分析して、『ヘンゼル税法学の構造』という修士論文を1975年にまとめました。『課税庁と納税者は対等』ということを強調するものを書いたんです」

「課税庁と納税者は対等」。若い税法学者が抱いたこの想いは、35年以上の時を経て、2011年の画期的な国税通則法の改正に反映される。

三木氏は2010年、民主党政権時の政府税制調査会・専門家委員会に設置された納税環境整備小委員会の座長に就任し、国税通則法の改正などに取り組んだ。「弁護士の志賀櫻氏(故人)、元参議院議員の峰崎直樹氏と私の3人を中心に取り組み、国税通則法の改正を実現できました」
国税通則法改正のポイントは大きく3点ある。

1つ目は税務調査を行う時の事前通知の原則化。2つ目は更正処分の理由附記の義務化。3つ目は従来1年だった更正請求の期間を、課税庁側に合わせて、納税者側も5年間にしたことだ。

「本当は、国税通則法改正だけではなく、(納税者の権利向上に向けて)租税手続法をつくるつもりでいたし、『納税者権利憲章』も制定したかった。やりたいことはまだまだ残っていたけれど、2010年の参議院選挙で勝利した自由民主党の意向もあり、実現できませんでした。それでも、税務調査の事前通知や、更正処分の理由附記、納税者側の更正請求の期間を1年から5年にできたことは画期的だったと思います。

国税通則法が改正された後、東京大学の金子宏名誉教授から『結局、君は若い時に書いた論文の通りにやってきたんだね』と言われました。私自身はそんな意識はなくて、とにかく必死でしたが、考えてみれば確かにそうかもしれない。『三つ子の魂百まで』とも言いますが、研究を始めた頃の想いが影響を与えたと思う。研究者として最初から一生懸命考えてきたからこそ、実現できたのだと教えられました」

税務争訟の低い納税者側の勝訴率、弁護士として変えたかった


研究者を経て、2009年に三木氏は弁護士登録。登録の背景には、不服申立てや税務訴訟をしても納税者側がほとんど勝てない現状を、弁護士として変えたいという思いがあった。

国税庁のホームページによると、税務訴訟で国側が敗訴した割合、つまり納税者の勝訴率は2018年度で3.4%。最近10年間で10%を超えたのは、2011年度と2017年度の2度だけだ。

不服申立ても成功しないことがほとんど。一部認容と全部認容を含めた認容率は、2009年度から2018年度にかけて、10%前後で推移している。納税者側が9割近く負けることが常態化している。三木氏は納税者が勝てない理由として、税務訴訟で活躍する専門の弁護士が少ないからではないかと考えたという。

「行政事件はどうしても行政側が優位に立つ。一方で、十分な資料すら用意できないことが多いなど、訴える側は様々な意味で弱い立場にあります。
税務争訟で重要なことは、『課税要件にあっているかどうか』をポイントに争うことです。税理士は数字には強いですが、税の法律の中身には必ずしも明るくありません。弁護士がもっと税務争訟に関与しなければならないと思ったんです」

三木氏は、弁護士が税務訴訟に関わることで救済できる人が増えると信じて弁護士として活動を始めた。

「明らかに軽微な違法」主張で勝ち取った「不当」理由の処分取消し

税務争訟の勝訴率の低さを問題視してきた三木氏は、弁護士登録後間もない、2010年、画期的な裁決を勝ち取る。青色申告の取消処分に対する審査請求において、「不当」を理由にした処分の取消しだ。

行政不服審査法の第1条は、次のように規定している。

"この法律は、行政庁の違法又は不当な処分その他公権力の行使に当たる行為に関し、国民が簡易迅速かつ公正な手続の下で広く行政庁に対する不服申立てをすることができるための制度を定めることにより、国民の権利利益の救済を図るとともに、行政の適正な運営を確保することを目的とする。"

つまり、制度上は「不当な処分」に対する審査請求も可能な立て付けになっているはずだが、不当を理由として処分が取り消されるケースは非常に珍しい。

「行政不服審査法は、裁判所では救済できない納税者の訴えを救済することが本来の役割です。つまり、不当を理由とした救済は、行政不服審査法の一番の眼目なんです。青色申告を巡る事案では、法律の本来の役割を実現できました」

2009年に、原処分庁である税務署は、複数の賃貸物件を所有する審査請求人に対し、事業に関する帳簿書類の提示を求めたが、「作成していない」という理由で提示がなかったため、青色申告の承認を取り消した。

さらに、審査請求人と審査請求人が株主である同族会社との間の不動産賃貸借取引が、「審査請求人の所得税の負担を不当に減少させる結果となる」ことを理由として、所得税法157条を根拠に、所得税の更正と過少申告加算税の賦課を決めたのに対して、取り消しを求めた事案。三木氏は、次のように分析する。

「処分庁はおそらく、審査請求人が、息子が代表取締役を務める法人に支払う管理料について『過大に高額』と睨んで、ここに課税したいと考えたはずです。
しかし、課税の前提として、審査請求人が青色申告の承認を受けていると(法人税法や所得税法の規定により)推計課税ができないため、青色承認が邪魔になったのだと思う。そのため、処分庁は審査請求人が帳簿をつけていないことに目をつけて、青色承認を取り消したのだと思いました。
私に助けを求めてきた税理士は、税務署ができる同族会社における行為や計算の否認を巡る規定を争点にしようとしていましたが、私は、課税処分の前提になっている青色承認の取消がポイントだと考えました」

三木氏は、審査請求人が帳簿をつけていないものの、取引伝票はしっかりと残していることに着目する。

「私は昔から『伝票も帳簿になるはずだ』と考えていました。『帳簿』は会社法や税法などの法律で明確に定義されていません。法律の趣旨からすれば、取引の明細がわかるように残しておけば問題ないはずです。この事案では、銀行との毎月の取引を集計し、年間の取引の明細があった。だから帳簿があるのと同じだと考えました。
小さな企業で、銀行との取引が明確に分かっていれば、普通は青色承認が取り消されることはありません。承認取消の妥当性が争点になると考えました」

はじめは原処分庁に対して異議申立てを行ったが、処分の一部取消に留まったため、審査請求を行った。

「この事案の審判官は理屈がわかり、法律論争ができる人だと思いました。審判官と、帳簿には法律上の定義がないという認識が一致したので、『伝票が残されていれば帳簿があるといえないのか』と尋ねると、『伝票会計もあるから、伝票があるなら帳簿があると言えるだろう』という答えが返ってきました。伝票は残されていた事実を伝え『この理屈なら帳簿はあることになる』と主張しました」

しかし、審判官は結局、「伝票も帳簿」という主張を認めなかった。「伝票の場合には、日々の残高まで記載されていないと帳簿として扱わない」という具体例が記載された告示を審判官が発見。審査請求人の伝票には、残高は記載されていなかったためだった。

青色申告の取消処分は「違法ではない」ことが明らかになったが、三木氏はあきらめなかった。

「違法ではないといっても、本来、青色承認は、そう簡単に取り消されたりしません。伝票に日々の残高が記載されていなかった事実は、軽微な不備です。課税処分するために青色承認を無理矢理に取り消したという、思いは変わらなかった。そこで、審判官に粘り強く訴えました。確かに帳簿はないし、伝票の記載にも不備があるので取消処分は違法ではないかもしれないが、明らかに軽微な違法だ。課税するためにされた処分としか考えられない以上、処分が不当であることを理由に救済するべきだ、と」

この主張を審判官が受け入れ、三木氏は異例とも言える「不当」を理由にした処分の取消しを実現した。三木氏は「審判官の法的センスが光る事件でした」と遠慮がちに話すが、三木氏の税法への精通ぶりが遺憾なく発揮された事案だった。

「経費」に業務との直接性は必要か 日弁連副会長の支出を巡る費用事件


実務にも大きな影響を与えようと取り組んだが、最後に意外な展開を見せ、悔しい思いをしたことも。弁護士を巡る必要経費と業務との「直接」性に関する事件。

この事件では、2005年 4月から2006年3月まで日弁連の副会長を務めた弁護士が、副会長に立候補した際の活動費用や任期中のマスコミなどの懇親会費、日弁連事務職員の親族が逝去した際の香典などを必要経費として計上したが、税務署がこれらの費用を、「弁護士業務に直接の関係はない」という理由で必要経費として認めなかったことを争った。

所得税法37条では、必要経費について次のように規定している(一部抜粋)。

"その年分の不動産所得の金額......の計算上必要経費に算入すべき金額は、......これらの所得の総収入金額に係る売上原価その他当該総収入金額を得るため直接に要した費用の額及びその年における販売費、一般管理費その他これらの所得を生ずべき業務について生じた費用......とする。"

この規定を三木氏は次のように考えた。「必要経費に関する法律の規定は、売上原価、その他売り上げに直接対応する費用と、販売費や管理費(販管費)、その他業務について生じた費用に分かれています。

条文を読めば、売上原価などについては直接性が求められているが、販管費は直接性が求められていないことがわかる。だから当然、直接か間接かを問わず、業務について生じたものは『必要経費』になるはずです。

ところが実務では、長い間、必要経費は業務に直接関係なければいけないと認識されていました。
私はずっとこれはおかしいと思っていましたが、学者の中にも『業務に直接関係ないといけない』と、考える人が少なくありませんでした」

三木氏は、所得税法の条文から「売上原価などについては直接性が求められているが、販管費は直接性が求められていない。直接か間接かを問わず、業務について生じたものは『必要経費』になる」と考え、条文を素直に読めば勝訴は間違いないと考えていたが、2011年8月の東京地裁の判決は、まさかの敗訴だった。

「地裁では『家事関連費との区別を明確にさせるためにも、経費は業務と直接関係なければならない』という理由で負けてしまいました。 この結果には驚きました。歴史を振り返ると、昭和30年代であれば、家事関連費に関わりそうな費用は一切含めてはいけないという前提で、何が必要経費に該当するかを限定列挙していました。

それを1965年(昭和40年)の所得税法の改正時には、昭和30年代までのように、『家事関連費に該当するものは一切必要経費に入れない』という狭いスタンスではなく、業務について生じた経費は広く認めていくスタンスに変わったんです。

法改正の趣旨から言えば、以降、必要経費は広く認められるべきなのに、地裁の裁判官は、必要経費の範囲を狭く解釈して『業務と直接関係なければ必要経費として認めない』と、結論づけてしまったのです」

一審の敗訴を受けて、三木氏は原因を探る中である点に気が付く。一審では、所得税法の改正案について提言した政府の税制調査会の「所得税法及び法人税法の整備に関する答申」(1963年)が裁判で検討されていなかったのだ。

答申では必要経費について、「(所得の概念を包括的に捉えた)純資産増加説的な考え方に立って、できるだけ広くこの種の経費または損失を所得計算上考慮すべし」という考え方と、「家事費を除外する所得計算の建前から所得計算の純化を図るためには家事費との区分の困難な経費等はできるだけこれを排除すべし」という2つの相反する考え方を提示。その上で、「できる限り前者の考え方を取り入れる方向で(法の:編集部注)整備を図ることが望ましいと考える」と提言している。

「答申を出せば一発で理解してもらえると考えました。条文と立法趣旨が揃っていれば勝てるはずだ、と」

三木氏の考えた通り、東京高裁は2012年9月に、提言の趣旨を受け入れ、判決に反映させた上で、税務署が否認した支出の一部を必要経費として認める判決を言い渡した。国は上告したが、最高裁は2014年1月に、不受理を決定した。

「従来の実務で求められていた『直接性』の要件をひっくり返すことができた。ものすごく大きな影響を持つ事件だ」

三木氏は、逆転勝訴の影響が実務に広がることを期待したが、事態は思わぬ方向に進む。

「結局、この事件は『弁護士や弁護士会の問題であり、一般の人には関係ない』という扱いになってしまい、今でもそう考える裁判官がいます。特殊な事例と扱われて、実務に浸透しなかったことは非常に残念です。弁護士の経費だけが特別な扱いになるというのは、どう考えてもおかしな話です」

三木氏によると、この事件の「特殊な扱い」の背景には、課税庁が実務への影響を極力抑えようと考えて見解を流布し、マスコミも「弁護士や弁護士会に関する特殊な事例」との認識で報道しなかった。三木氏は力を込めて続ける。

「たとえば、シングルマザーが仕事のためにベビーシッターを頼んだら、その料金は経費でしょうか。私は当然経費だと思います。しかし、今でも、『子育ては家事であるから、ベビーシッター代は家事費にあたり、必要経費ではない』と考えられています。このように、未だに経費を狭くとらえる認識が根強い現状では、ベビーシッター代以外にもおかしな例がいくつもあります。

未だ実務には浸透していないとはいえ、弁護士会の事件で勝訴できたことは、経費の認識を改めるための一つの突破口になるとは考えています。弁護士会の会費を巡る東京高裁の経費の考え方は、全ての事業者の経費に当てはまるということを、弁護士が中心になって広めてほしいです。その結果として、広く必要経費を認めることが当たり前の世の中にしていきたいと思っています」

弁護士が税務に関わる魅力とは 「税務調査にチャンスがある」

税務を専門とする弁護士は非常に少ない。だが、三木氏は、そうした実情を「非常にもったいない」と考えている。弁護士が税務に関わる意義を、三木氏はカツカレーを例に説明する。

「税務の世界は会計分野と、税法分野に分けられます。私はよく、カツカレーに例えるのですが、カツの専門店とカレーの専門店があって、弁護士はカツの専門店、会計の専門家である公認会計士がカレーの専門店だとすると、税法と会計の両方を扱う税理士は、本来カツカレーの専門店になれるはずですし、なっているはずです。でも、多くの税理士は会計(カレー)を中心に学んでいて、税法(カツ)には必ずしも詳しくないことがあります。カツの専門店である弁護士が税理士と協力することで、カツカレー専門店の領域で、弁護士が活躍することができるはずです」

三木氏の言う「カツカレー専門店の領域」とは、税務調査段階での救済だ。

「税務争訟で勝つことは難しい、だけど税務調査段階であればチャンスがあります。調査の段階であれば、課税額がまだ確定していないから様々な調整ができる。税理士だけでなく弁護士が入ることで、課税庁と対等に話し合えるので、課税要件を満たしているのかや、事実認定のあり方について擦り合わせることができる。交渉が可能であれば、課税額を減らすことも可能になります。税務の分野は、決して勝てない領域ではありません。課税庁と納税者は対等なんですから」

「課税庁と納税者は対等」。40年以上抱き続ける理想を一歩でも実現に近づけようと、三木氏は税の世界を歩み続けている。

三木義一氏プロフィール

1950年、東京都生まれ。中央大学法学部卒業、一橋大学大学院法学研究科修士課程修了。元立命館大学大学院教授、前青山学院大学学長。元政府税制調査会専門家委員会委員で、現在は民間税制調査会の共同代表を務める。著書に『税のタブー』(集英社インターナショナル)、『日本の税金 第3版』、『日本の納税者』(共に岩波新書)など。

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