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ガバナンス・組織風土を科学する  BUSINESS LAWYERS AWARD 2025 深水大輔弁護士

ガバナンス・組織風土を科学する  BUSINESS LAWYERS AWARD 2025 深水大輔弁護士

「BUSINESS LAWYERS AWARD 2025」全受賞者インタビュー。ガバナンス改革部門の深水大輔弁護士(長島・大野・常松法律事務所)に聞く。 【受賞理由】 ガバナンスや組織風土の問題に対し、経済学・経営学・心理学等の科学的知見とデータ分析に基づくリスク検証を行うという新たなアプローチを開拓している。この手法は、日本企業が組織風土の課題に取り組み、コンプライアンスやガバナンスをもう一段進化させることに大きく貢献するものであり、その分野における中心的役割を担う存在として高く評価できる。 【プロフィール】 ふかみず・だいすけ 東京大学法科大学院修了。 2008 年、弁護士登録。実務の傍ら、信州大学特任教授等として企業犯罪や組織風土の研究にも取り組む。2024 年からは NO&T Data Lab 株式会社代表取締役。2025 年から京都大学特任教授。2025 年「日経弁護士ランキング」コンプライアンス部門 1 位など、受賞歴多数。

文化差のある「システム」の問題を解く


企業はヒトが協働する複雑なシステムだ。深刻な企業不正の多くはその複雑なシステムにおける様々な要因が絡み合って起きている。問題解決のためには、システム思考のほか、経営学、経済学、心理学など、法学以外の学問も駆使する必要があると言う。

海外当局を相手にすることも多く、宗教学や哲学の知識を利用することも。たとえば、アメリカやイギリスでは、一神教であるキリスト教等の影響もあり、独立した個人(individual)としての人間観が確立している。他方で、日本のように多神教で歴史的に仏教との関わりも深い社会では、人間は様々な関係性の中にあり、その影響を受けるものであって、必ずしも独立した存在ではない。

関与者の「責任」や再発防止策を論じる際は、このような人間観の違いから議論する必要が生じる。仮に工場で 10 年以上続くデータ改ざんが見つかったとする。アメリカなら個人は独立した存在なので、不正と知りつつ自らの意思で続けた以上、責任は重くなるだろう。しかし、日本ではどうか。

「多くの同僚が関与し、様々なプレッシャーの下で長く続いている不正を一人の力で止めるのは難しい。たまたま発覚したタイミングでそこにいた従業員に重い責任を負わせることに抵抗を感じる人が多いのでは。契約観や組織観も文化によって異なり得ます」

重要なのは優劣の問題ではないということだ。ガバナンスやコンプライアンスの問題を解くというゴールは一緒でも、それを解決するための方法は文化によって異なる。

常套句の解像度を上げる


若手時代から多くの危機管理・調査案件に携わる中、事案の分析・解決法に課題を感じた。特に、「コンプライアンス意識が低い」や「企業風土に問題がある」といった常套句は一見分かりやすいものの、解決策に必ずしもつながっていないという点だ。

「日本企業で大きな問題になるのは、長期間続いてしまったデータの改ざんや組織的なカルテルなど、その空間に入れば誰でもやってしまうような不正。企業・組織をシステムとして捉え、また、ヒトの認知・学習メカニズムを踏まえて、なぜ不正が起こるのか、どうすればそのような不正が起こる組織を変えられるのか、解像度の高い議論が必要だと思いました」

企業不正という複雑なシステムの問題を深く分析し、解こうとすれば、ゲーム理論やインセンティブに関する基本的理解、システム思考の視点等が不可欠だ。組織内のヒトや文化への理解も必要となる。新しくルールをつくっても、そこで働くヒトのマインドセットまで変えにいかなければ、いずれ異なる形で問題が再発するだろう。実際にそういう企業は少なくない。

「法律知識を提供するだけではなく、問題を解決したい。法律だけでダメなら他の領域から必要な知見を持ってくればいい」
解こうとする問題の解像度が上がるにつれ、求める知見が法学の外に広がっていった。

ガバナンスを捉えなおす


日本では企業に対する訴訟や法執行が少なく、ガバナンスの質を問われる機会が乏しい。機会がないので、外見を取り繕う行動が最適化し、いざ蓋を開けると中身は空っぽということも珍しくない。状況打破にはガバナンス自体を捉えなおす必要があるという。

「外から言われてではなく、内発的な動機づけが必要。外部環境が刻々と変化する中、当該企業が良い製品・サービスを提供しながら長期的に稼ぎ、社会貢献を続けるために、どのような組織・仕組み・ヒトをつくりたいのか。ありたい姿を言語化し、その実現に向けて日々試行錯誤する営み全体をガバナンスと捉えなおすべきです」

人の価値観や行動様式をいかにありたい姿にデザインするかという点で、「実効的なガバナンス」と「健全な組織風土」は重なるという。経営幹部と、その企業の過去(これまで)と未来(これから)について対話し、「ありたい組織風土」を言語化する。また、「匠」や「道」の思想、高い協調性など、日本文化の強みを組織づくりに活かすことも重要だ。最近では、不祥事に関係なく、組織風土づくりの相談が増えているという。

実践の場として、2024 年 12 月には京都大学と連携した「NO&T Data Lab 株式会社」も設立。利用企業は心理学や行動経済学などに基づいた課題解決を得られ、研究者は企業のリアルな問題に触れたり、企業の実データを分析したりする機会を得られる。

ガバナンスの課題に対し、法律家、学者、コンサルタント、経営者と拡張していく自身のアプローチについて、「周りからはクレイジーに見えるでしょうね」と笑う。だが、その言葉には新しい専門家像を切り拓く自負が滲んだ。

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