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シン・街弁論〜採用難時代、現場からの声 会員弁護士324名アンケート

シン・街弁論〜採用難時代、現場からの声 会員弁護士324名アンケート

5 大法律事務所の弁護士数は右肩上がり、組織内弁護士という存在が定着した令和時代。いわゆる「街弁」と呼ばれる中小規模の事務所は採用難と言われています。弁護士ドットコムでは「シン・街弁論」と題して、弁護士の未来像について考えます。今回は、会員弁護士 324 人の現状把握と共に、数々の案件を経験してきた北周士弁護士の説く「これからの事務所経営」を特集します。 (弁護士ドットコムタイムズVol.73<2024年12月発行>より)

「街弁」としての働き方に満足、カギは自由度


アンケートは 8 月 18 〜 26 日に実施し、324 人から回答を得ました。あえて「街弁」は定義せず、自身を街弁だと思う人を問うたところ、約 8 割(262 人)に上りました。このうち、働き方の満足度を尋ねると、「満足」「どちらかといえば満足」合わせて 77.1%と高い数字が出ました。



その理由として挙げられたのは「自由だから」が最多の 20.2%。次に多かったのは「地域に貢献できる」「依頼者との距離が近い」など身近な存在として活躍できるとした 8.7% でした。他にも「案件の種類が多く興味深い」「なんでもできる」などといった案件の多様性を挙げた人も5.8% いました。

「これからも街弁でいたい」77%

これからも街弁であり続けたいと思いますか?(n=262、円グラフ))

現状への満足度と同様、これからも街弁を続けたいという声が大半を占めました。やはり「自由だから」「ワークライフバランスが保たれているから」などの理由が多数で、「やりがいがある」を挙げた人も複数いました。

「定型大量処理でクオリティを下げたくないから。いつまでも職人でいたい」「弁護士は街弁が基本。企業のためにだけ働き、法廷にも立たず、プロボノもしない弁護士は弁護士とはいえない」などの声もありました。

一方で、少数ですが続けたくないという人の中には、弁護士をやめることを前提とした人や別の仕事に就いてみたいという意見が複数ありました。また若手の弁護士から「長時間労働で報酬が安い」という声も。うまく時間をやりくりできている人だけとは限らないようです。

求められるのは幅広い対応力


「街弁の要件、求められる資質」について単一回答で尋ねると、最も多かったのは「1 人で幅広い案件に対応できる」が 34%を占めました。ほぼ同数だったのが「刑事・民事など全般に対応できる」。個として独立していて、汎用性の高い人材かどうかが問われると考えている人が多いようです。

次に多かったのは「傾聴力・共感力がある」で 18.5%。どんな依頼がきても対応できる、そんな町医者のような姿がイメージされます。

街弁の要件・資質BEST5

不人気論の理由は複合的


実際に働いている人たちの満足度とは裏腹に、中小規模事務所は採用難が叫ばれています。その若手への不人気の理由は何なのかを尋ねると、最も多かったのは「報酬の安さ」で 26.5%。次いで「大手のほうが人気があるから」が 16.0% でした。背景に「若手の価値観が安定志向・ブランド志向に変化した」という指摘が複数ありました。


他の選択肢は数字の差はあまりなく、若手にとって就職への不安要素が複数あることが推察されます。

「地域のために」街弁は必要


いわゆる「街弁」が必要だとする人が74.4%に上りました。

その理由を書いた 155 人中の 1 割が挙げたのが「地域密着」という視点です。近年では、全国に支店を持つベリーベストやアディーレといったチェーン系弁護士法人が、個人法務を担当もしています。「大規模事務所では地域の需要に応えることができない」「大規模事務所は事務員に任せがち。依頼者としては弁護士の顔が見えず、不安や不満を覚えやすい」などの問題点を指摘しています。さらに、選択肢を確保するためにも多様な事務所が必要との声も複数ありました。

生き残るには「専門性」「ビジネスセンス」


最後に、令和の時代の街弁論を問いました。新たに求められるものを複数回答で聞くと、「専門性」が最多でした。「経営などのビジネスセンス」「新たな集客チャネルの開拓」と続きます。弁護士数が 20 年前と比べて 2 倍になるなかで、中小事務所として成功するには、「特徴」と「経営力」が必要とされると考える人が多いようです。自由回答でも「大手には無いメリット(飛び抜けた専門的能力、丁寧さ、価格等)を提示できる」「裁判実務のプロフェッショナル」といった意見が目立ちます。

さらに、DX が進む時代を見据えた差別化が必要だという声もありました。「ITを使いこなし、本質的な業務に時間をコミットする」など効率化を実現した上で、本来の仕事に注力することを提言します。「AI が発展する時代で、精神的に依頼者の心の負担を軽くさせることのできる存在であるべき」「離婚、相続など個人的感情が絡む分野では、弁護士個人に対する信頼を基礎とした依頼は続く。人間力を磨き、人と人とのつながりを大事にする弁護士が生き残るのではないか」など、人間しかできないことに言及する意見が中堅弁護士に集中していました。

一方で、時代や街弁という定義には左右されるべきではないという声も複数ありました。「基本的には依頼者に寄り添った誠実な対応が求められる点は昭和平成と変わらない」「令和時代に限らず、街弁に限らず、人から信頼される・責任感、優しさ及び愛嬌のある・常に成長するための努力を欠かさない存在であるべきと思います」

その上で、「街弁があるべき姿を維持できなくなることが問題だと考える。このままでは街弁は絶滅する」との懸念を示す人も。現状では 1 人事務所は年 150 〜300 生まれており、独立する弁護士が減っているわけではないようです。しかし、東京一極集中や若手の大手志向は数値にも現れています。DX が進めば、業界の様相は確実に変わるはずです。市民に最も身近である「街弁」を中心に、未来の弁護士界を展望する試みを続ける必要がありそうです。


【編集部まとめ】 今回のアンケートでは、自身の仕事に誇りを持つ方たちから、たくさんの熱い声が寄せられました。10 年後、20 年後も「市民や地域のために」という意見が多数残ることを願ってやみません。「街弁という言い方はやめた方が良い」「『街弁はこうあるべき』という考え方が時代遅れ」というご指摘もありました。弁護士ドットコムでは、今後も「市民に最も身近な法律家」という視点で、「シン・街弁論」を追求していきます。 ※構成比は小数点第 2 位以下を四捨五入しているため、合計が 100 にはならない場合があります

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