「販売預託商法」が原則禁止へ 被害撲滅に向けた課題をジャパンライフ被害弁護団団長の石戸谷弁護士に聞いた

商品を販売すると同時に預かり、第三者に貸し出すなどして、運用で得られた利益を還元するとして高額な商品を購入させる「販売預託商法」(オーナー商法)。1985年に「豊田商事事件」が大きな社会問題となった以降も、「安愚楽牧場事件」や「ジャパンライフ事件」など、大規模な被害が相次いだ。消費者庁の検討会が取りまとめた報告書では、販売預託商法を「本質的に反社会的」と指摘し、預託法の改正などにより「原則禁止」とする方針を示した。全国ジャパンライフ被害対策弁護団連絡会の団長を務める石戸谷豊弁護士は、「消費者庁は販売預託商法の本質をようやく認識した」と評価しつつも、販売預託商法を原則禁止とする方針については「法の抜け道ができて、イタチごっこにならないようにする必要がある」と指摘する。被害撲滅に向けた課題を石戸谷弁護士に聞いた。(インタビュー実施日2020月9月4日)

預託法は金融商品取引法の脱法行為を促進してしまっている

ーー「販売預託商法」による事件の手口と被害の実態は


「販売預託商法」が大きな問題となったのは、1985年の「豊田商事事件」が最初です。

豊田商事は、顧客に金の地金を販売するが、顧客には地金を引き渡さずに賃借し、賃借料を顧客に支払うという仕組みで、「契約期間が終了すれば、地金か地金相当の金銭を支払う」と謳い事業を行っていました。

ところが、豊田商事は実際には地金を調達していませんでした。顧客には地金の代わりに「純金ファミリー証券」を渡していたため、「現物まがい商法」「ペーパー商法」などとも言われています。顧客から集めた資金の一部はゴルフ場やマリンレジャーといった事業を展開するための不動産取得などに使っていましたが、1985年に豊田商事が破産したことで、事件が大きな社会問題となりました。

豊田商事事件の再発防止を目的として、「特定商品等の預託等取引契約に関する法律(預託法)」が制定されましたが、その後も、「安愚楽牧場事件」や「ジャパンライフ事件」などの事件が相次いで発生しました。

「安愚楽牧場事件」は、業者が繁殖牛等を顧客に買戻し特約付きで販売した上で、牛の飼育は業者が行い、繁殖や売却した際の利益等を配当として顧客に支払うという仕組みです。安愚楽牧場は、実際に一定程度牛を飼育していましたが、事実上元本保証の仕組みであったことからポンジスキーム(自転車操業)に陥り、2011年に破綻しました。被害者は7万人を超え、被害額も4000億円以上という大規模な被害が発生しました。

「ジャパンライフ事件」は、磁気ベルトなどの健康器具商品を販売し、商品を客から預託を受け、第三者にレンタルすることで、レンタル料を客に支払うという仕組みとしていました。年6%という高い利率で顧客を募って、契約満期時は買取価格を全額返し、途中解約時も当初支払い金額を全額返すという契約内容でした。初めから何の利益を生まないポンジースキームであり、2018年に破綻しました。被害者は約7000人で、被害総額は約1800億円とみられ、被害者1人あたりの被害額が大きいという特徴があります。

ーー販売預託商法による被害が相次いだ背景は何か


手口の問題と法制度の問題という2つの側面があると思います。

販売預託商法は基本的に、顧客から集めた資金を使って他の客に配当したり、自分たちの経費に使ったりして、資金が尽きると破綻するというポンジースキームの商法です。

冷静に考えれば詐欺であり、高齢者が騙されやすいので被害が大きくなったと思うかもしれませんが、この種の手口は、月々の配当が支払われている間は被害が認識されにくいです。一般に、ポンジースキームの場合、配当されている間は被害と思いません。例えば、史上最大のポンジースキームと言われる「マドフ事件」では、10%を上回る投資ファンドとして資金を集め、被害額は5兆円とも6兆円とも言われており、その被害者には日本の著名な金融機関も多数含まれています。

また、豊田商事事件では地金、安愚楽牧場事件では牛など、被害者は具体的な「物」を契約対象とするため、事業に投資するよりも、「詐欺ではないか」という警戒感が薄れ、リスク判断が歪められてしまう面があります。

法制度の問題としては、販売預託商法が金融商品取引法のように、参入規制がないことや投資家保護ルールが極めて不十分だということです。

金融商品取引法では、顧客から資金を拠出してもらい、事業者が運用して顧客に配当を支払うような事業を「集団投資スキーム」と定義し、第2種金融商品取引業者としての登録を義務付け、金融庁・財務局の監督を受けます。

販売預託商法も、実質的にみると事業者が行う事業への投資と同視でき、集団投資スキームと同じような構造です。しかし、契約形式からみると、顧客に地金や牛などの「物」を販売した上で、事業者がその「物」を預かって第三者にレンタルなどの運用を行うといった仕組みです。形式としては顧客が事業者に「物」を預けているので、資金を拠出するという集団投資スキームに当たらないとされ、預託法の対象になっているのです。

つまり、集団投資スキームと同じような商法を無登録で行えてしまうのです。その意味で、むしろ、預託法は金融商品取引法の脱法行為を促進してしまっているとさえ考えられます。

現行の預託法は預託契約の部分だけ着目して規制しており、販売預託商法の売買契約の部分にはまったく規制がありません。

したがって、たとえば、使わなくなったブランド品などを預かって、第三者にレンタルし、謝礼金を持ち主に支払うといった仕組みは、「シェアリングエコノミー」という観点からも広がりを見せていますが、これも預託法の対象になります。

現行の預託法は、このような真っ当な仕組みの預託商法を行う事業者に対しても一律の規制を設けているため、過剰規制にならないように配慮する必要がある結果、悪質な販売預託商法を行う事業者にとっては、非常に緩い規制になっています。

消費者庁が販売預託商法の問題をようやく認識した

ーー「販売預託商法の原則禁止」を掲げた報告書をどう評価しているか


豊田商事事件以来、販売預託商法による被害が相次いでいたので、販売預託商法を原則禁止とする報告書は、遅きに失したとは言え、基本的に評価できる内容だと思っています。

預託法は豊田商事事件の再発防止を目的として作られた法律ですが、当時、預託法を所管していた通産省はもともと産業振興の役所であり、「この商法は振興の対象ではない、一定の規制は必要だが最小限にすべきだ」という考え方でした。そのため、預託法も最低限の規制しか設けられませんでした。

2009年に消費者庁が設立され、預託法を所管することになりました。そのタイミングで預託法の見直しをすればよかったのですが、人手不足の問題などもあって見直されませんでした。そして、安愚楽牧場やジャパンライフなど、大規模な被害を生じた事件が発生してしまいました。

それでも消費者庁は預託法を見直す必要はないとしていたため、消費者委員会が2019年に「いわゆる『販売預託商法』に関する消費者問題についての建議」を公表し、預託法の見直しを求めました。また、総理主催の「桜を見る会」にジャパンライフの山口会長が招待されていたことが明らかとなり、マルチ商法や販売預託商法の問題も脚光を浴びるようになりました。

このような流れの中で、消費者庁に検討委員会が設置され、報告書が取りまとめられました。報告書では、販売預託商法を「反社会的」と指摘しているので、預託法の見直しに取り組んでこなかった消費者庁も、ようやく問題を認識したと思っています。

私としては、販売預託商法の本質は業者の事業への投資であることから、本来は「集団投資スキームの適用対象とするのがよい」と考えていました。しかし、金融商品取引法を所管する金融庁が反対したため、消費者委員会の建議でこの方向が採用されませんでした。

そこで、消費者庁が預託法を見直して法整備するとして、その内容は「金融商品取引法と同等なものにすべきだ、つまり金融商品取引法と新預託法で横断的な(広義の)集団投資スキーム規制ができるようにする」という方向に変更しました。法整備を急ぐ必要があったからです。

しかし、消費者庁は、「そもそも販売預託商法を行う事業者に、真っ当な事業者がいるとも考えにくい」という考え方から「原則禁止」とする方針を打ち出しました。

ーー販売預託商法による被害の撲滅に向けてどのような課題があるか


「原則禁止」という方針で、実際に販売預託商法による被害を防ぐ制度を作るのは簡単ではなく、これから様々な課題に直面すると思います。

金融商品取引法や不動産特定共同事業法など、投資に関する法律では、登録制や許可制が採用されています。預託法も登録制を採用すれば、これらの法律と横並びで(業法間に規制の凸凹がないように)、かつ、隙間がないようにした規制を設けることができ、悪質な事業者の参入も防止できると思います。

報告書では原則禁止の方針を示した上で、「禁止する事業者に対し、十分な抑止力を持った法定刑を設ける」としています。罰則を設けて禁止するのであれば、構成要件が明確でなければならないので、何を禁止するのか、かなり厳格に決めなければなりません。

豊田商事や安愚楽牧場、ジャパンライフなど、販売預託商法による事件や類似の手口を整理し、禁止する行為を定めていくことになるでしょうが、禁止の対象を厳格に決めていくことで、対象が限定されてしまうと、法の抜け道ができてしまう可能性があります。

抜け道が広いと、悪質な業者がどんどん参入してきて、新たな手口による被害が発生し、その新たな手口を禁止するという、イタチごっこになりかねません。

検討会の報告書は方向性を示しただけなので、内容は評価できるとしても、販売預託商法の問題を解決に導くためには、これからが大変な作業になるでしょう。

また、大規模な被害が生じる事件であれば、破産申立てが問題となることがあります。

事業者自身が破産申立てすればよいですが、被害者が申し立てる必要があるケースでは、高額な予納金が必要になります。

たとえば金融商品取引法の領域なら、金融機関等の更生手続の特例等に関する法律により、金融庁も破産申立権を持っています。しかし、消費者庁には破産申立権がありません。

また、「特定適格消費者団体」は被害を受けた多数の消費者を代表して訴訟を起こすことができますが、やはり、破産申立て権はありません。

迅速に被害を救済するためには、早期の破産申立てが必要ですが、予納金が高いため被害者自身が申立てることが困難な場合が多く、消費者庁や特定適格消費者団体に申立て権を認めることも課題です。

石戸谷豊弁護士プロフィール


1974年東北大学法学部卒業後、1976年弁護士登録(神奈川県弁護士会※旧横浜弁護士会)。1979年港共同法律事務所開設。これまで、日本弁護士連合会の消費者問題対策委員会委員長や、消費者行政一元化推進本部事務長、内閣府の消費者委員会委員長代理などに就任。現在は、国民生活センター消費者判例情報評価委員会委員や東京都消費生活対策審議会委員、全国ジャパンライフ被害対策弁護団連絡会団長などを務めている。

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