「IPアドレスから投稿者をたどる方法は限界」 発信者情報開示の手続はどうあるべきか 神田知宏弁護士インタビュー vol.2

インターネット上で誹謗中傷を受けた被害者が投稿者を特定しやすくするため、制度改正に向けた議論が続いている。6月25日には、総務省で3回目となる有識者会議が開かれた。誹謗中傷の問題に取り組む神田知宏弁護士(第二東京弁護士会)は、現状の発信者情報開示請求は「権利侵害が明白でも投稿者にたどり着けない可能性があり制度的な欠陥がある」と指摘する。インタビューのvol.2では、現状の仕組みの問題点について聞いた(2020年6月中旬インタビュー)。

ーー情報開示請求制度の問題点はどこにあるのでしょうか。


サイトからIPアドレスが開示されるか分からない、IPアドレスが開示されてもプロバイダに開示訴訟ができるか分からない、すべて開示されても投稿者が誰か分からないなど、投稿者を特定するまでにはいくつものハードルがあります。

つまり、発信者情報開示請求制度には、権利侵害がどれだけで明白でも投稿者の特定に至らない可能性がいくらでもある、という制度的な欠陥があるのです。

ーーもっとも問題なのは、どの点だと考えていますか。

接続プロバイダに、ログの保存を義務づけていないことでしょう。保存義務は法律では明示されていません。むしろ「電気通信事業における個人情報保護に関するガイドライン」(総務省告示)では、すみやかに消去することが求められています。

現状では各プロバイダが、3カ月や6カ月といった期間を決め、顧客管理などの目的で通信ログを保存している状況です。そして発信者情報開示請求は、プロバイダのログに、偶然にも開示請求の対象となる情報が残っていれば、それを開示してもらえる建て付けになっています。

また、ログの調査義務も規定がないため、プロバイダから「ログを調査しない」と言われることもあります。ログがあるかどうか調べてさえもらえないことがあるのです。

ログの調査義務がなければ、発信者情報開示請求は絵に描いた餅です。そしてログの保存義務と調査義務はセットで必要だと思います。

ただ、ログの調査はプロバイダにとって利益にならない業務ですので、やりたくないと考えるのも自然なことです。調査義務はひとつの方策にはなるのでしょうが、プロバイダにかかる負担などを考えると、義務化はハードルが高いとも思えます。

「サイト管理者からIPアドレスを開示してもらい、プロバイダから投稿者の住所氏名を開示してもらう」という、IPアドレスから投稿者を辿っていく方法自体に限界があるのかもしれません。
ーー携帯電話の番号を開示してもらう手続が検討されています。

IPアドレスから投稿者を辿るのが難しい中、別の方法で投稿者を特定する方法が議論されています。具体的には、2段階認証用に使われ、サイト管理者などが保持している携帯電話番号を開示請求できるようにするとの案です。携帯電話番号が分かれば、弁護士会照会により、携帯電話の契約者を特定できる可能性があります。

この方法なら、裁判手続は1度で済みますし、また、ネットカフェ等を利用していても、投稿者個人の情報へダイレクトにたどりつける可能性があります。

もっとも、携帯電話番号を必要としないサイトは数多くあり、また、アカウント登録時に携帯電話番号を必要とするサイトでも、アカウント登録後は管理画面から削除できる場合もありますので、たとえ省令に「電話番号」が追加されたとしても、投稿者特定が万全となるわけではありません。

しかし、できるだけ使い勝手のよい制度にしていくという意味で、有効な手段の一つにはなるとは思います。

なお、東京地裁は2020年6月26日の判決で、ツイッター社に対する携帯電話番号に対する開示請求を、(電話番号あてに文字メッセージを送る)ショートメッセージサービス(SMS)の「メールアドレス」との位置付けで開示請求を認容しています。私はこの事件の原告代理人を担当しましたが、省令改正を後押しするだろうと思います。
ーー発信者情報開示請求では、裁判手続は必須ですか。

サイト運営会社によっては、オンラインフォームからの開示請求だけでIPアドレスを開示してくれることもあります。他方で、接続プロバイダに対して投稿者の住所氏名を開示請求する手続は、原則として裁判手続が必須と考えられています。

サイト運営会社や接続プロバイダを免責することで、裁判手続なしでの情報開示を促進する案が議論されており、それも一つの方法とは思います。ただ、免責して、どんどん開示していくのが良いのかというと、それは少し違うと思います。匿名投稿の自由も表現の自由として保障されていると、私は考えているからです。

たとえば、政権批判の匿名投稿を緩い手続で開示請求できるようになっては問題です。

もちろんネットの誹謗中傷は社会問題となっていますので、個人に対する誹謗中傷については、ある程度開示しやすくして良いのかもしれません。ただ、何が誹謗中傷なのかは簡単には定義できないため、結局、これまでと同じような手続にならざるをえないのかもしれません。
ーーその他、誹謗中傷問題全般について、他にどのような問題点がありますか。

誹謗中傷問題の解決方法としては、情報開示請求だけでなく、削除請求も重要だと考えています。現状、開示請求には訴訟手続が事実上必須のため、どれだけ早くても半年くらいかかります。その間にも自分を中傷する投稿が目に入ったり、知り合いの目に触れたりする可能性を考え、気を病んでしまう被害者は多いのです。それを少しでも和らげるため、削除請求により投稿を見えないようにして、被害者の心を平穏に保つことが重要です。

あまりにも数が多いのなら、検索結果からの削除請求により短時間で目に触れなくすることも考えねばなりません。

ただ、削除請求にも開示請求にも共通することですが、人格権侵害には、「受忍限度」という判断基準があり、これが事実上のハードルになっています。そもそも相談者は、「もう我慢できない」と思ったからこそ、安くもない料金をかけて削除請求しているのに、サイト管理者や裁判官から「受忍限度の範囲内」と判断され、削除を認められないというケースが多々あるのです。

「受忍限度」という判断基準を維持したまま問題を解決するには、手続を工夫するか、基準の適用方法を工夫するしかありません。しかし現状では、その方向での議論はなされていません。インターネットの誹謗中傷に苦しむ人がいるとの立法事実を前にして、現状、対応できる法制度が十分ではありません。上記のように、開示請求の議論は進んでいますが、あわせて削除請求と、さらには「受忍限度」に関する議論もすべきだと思います。

記事のタイトルとURLをコピー