ミネルヴァ破産にみる弁護士法人経営のリスクとは 士業経営を支援する弁護士に聞いた

東京ミネルヴァ法律事務所(以下、東京ミネルヴァ)が、6月24日に破産手続きの開始決定を受けた。負債額は弁護士法人としては過去最多となる約51億円。士業経営に詳しい北周士弁護士は、「東京ミネルヴァは大規模な広告を行なっていたが、弁護士自身が経営を管理できていなかったのであれば、負債が膨らむのを止めるのは難しい」と指摘する。弁護士法人経営のリスクや、弁護士法人制度の問題点などについて、北弁護士に聞いた(2020年7月20日インタビュー実施)。

弁護士自身が経営を管理しなければ、負債が膨らむのを止めるのは難しい

ーー弁護士法人としては過去最多となる約51億円の負債額とのことだが、この事案についてどう考えているか。


経営的な観点から言うと、一般的な経営不振による破産とは異なる事案だと考えています。一般的な経営不振であれば、負債額が51億円まで膨らむとは考えにくい。報道されている範囲でしか確認していないので、本当に広告会社との非弁提携があったのかは断言できませんが、法律事務所の経営主体が実質的には弁護士ではないところにあり、利益などが外に流出していたのであれば、この点が、負債が大きく膨らんだ原因ではないかと思います。

東京ミネルヴァは過払金請求を多く扱っていたので、依頼者に返還していない預かり金が大半(報道ベースで約31億円が預り金)なのでしょう。

債務整理の分野は、かなり広告費をかけないとクライアントの獲得が難しい状況なので、大規模な広告を行なっていたのでしょう。弁護士自身が経営を管理できていなかったのであれば、負債が膨らんでいくのを止めるのは難しかったと思います。

支店を展開して広範囲に顧客を獲得できるのが法人化のメリット

ーー法律事務所を法人化することのメリットは何か。


一般的には、個人の依頼者は近くの弁護士に相談したいと考えるでしょう。支店を展開することで、地理的に広範囲に顧客を獲得できる点が、法律事務所を法人化する最大のメリットです。

依頼に対して永続的な対応ができるという点も、法人化のメリットだと思います。たとえば、依頼を受けた弁護士が依頼を継続できなくなったとしても、弁護士法人であれば、法人として受任しているので、法人内で弁護士が替わることもできます。

ただし、このメリットについては、弁護士法人が制度化されてからまだ年数が経っておらず、長く続いている弁護士法人も少ないので、本当に効果があるのかはまだわかりません。

また、弁護士法人といっても、相当に大規模な法人でないとシステマティックに情報共有していないケースあります。ただの弁護士に集まりに過ぎないこともあるので、担当者が亡くなってしまったような場合に、弁護士法人だからといって、柔軟に引き継ぎができるかどうかはわかりません。

弁護士が個人で受任していれば依頼者との委任契約は、弁護士の死亡によりなくなってしまう一方で、法人は契約関係がなくなるわけではありませんが、実際に引き継ぎが柔軟にできるかどうかは、情報共有を確実にできているかがポイントになると思います。

ーーデメリットはあるのか。


弁護士個人の弁護士会費に加え、法人としても弁護士会費も支払う必要があるというくらいで、それ以外は特にないと思います。

社員の無限責任をあげる方もいますが、個人の事務所でも受任している弁護士自体は無限責任を負うことになるので、経営者にとってはそれほどリスクにはならないでしょう。

もちろん、法人化して、経営規模を大きくしているのであれば、負債を抱えた場合の損害額が大きくなるというリスクはあります。

ーーたとえば、無限責任があるため、破産を回避する目的で預かり金を流用してしまうことは考えられるのか。


あり得る話だとは思います。弁護士は破産すると資格が取り消されます。破産した場合でも、免責許可が決定すれば資格が復権するので、弁護士として復帰できます。しかし、「復帰できないかもしれない」と不安になり、預かり金を流用してでも破産を回避しようと考える人もいるかもしれません。

経営規模が大きくなると経費のコントロールも難しくなる

ーー弁護士法人が破産する原因は何か。


全国展開していて、広告宣伝費などの経費が高いという点が大きいだろうと思います。

法律事務所の経営自体は、複雑ではありません。仕入れや在庫はないし、設備投資もそれほどかかるわけではないからです。また、着手金はすぐに払ってもらえるし、成功報酬も1か月ほどで受け取れるので、キャッシュが入ってくるまでにタイムラグがあるわけでもありません。他の業種であれば、納品してから入金までに2か月ほどのタイムラグがあることもあり得ます。そのような業種と比べれば、キャッシュには比較的余裕があるはずです。

また、売り上げが経費や税金、生活費よりも大きければ、少なくとも経営は成り立ちます。そういう意味で、経営の仕組みは非常に単純です。キャッシュに余裕がなければ、売り上げを上げるか、経費を落とせばいいのです。

ただし、一度経費を上げたら落とすのは簡単ではありません。職員を採用すれば簡単にやめさせられないし、家賃を下げるために引越しをするにしてもお金はかかります。また、集客のために広告を使っていれば、なかなか止められません。

もちろん、事務所を成長させていきたいのであれば、経費をかける必要があります。しかし、その経費が適切かどうか、必要かどうかを厳しく判断したほうがよいでしょう。法人化して経営の規模が大きくなると経費のコントロールも難しくなるので、よりリスクが高くなることに注意が必要です。自分で経費をコントロールができなくなるのはかなり危険だと思います。

たとえば、従業員に関しては、基本的には自分自身で採用したほうがよいでしょう。派遣してもらうにしても、関連会社を利用するなど自分でコントロールできる方法が望ましいです。

また、広告を出すにしても、複数の代理店から相見積もりを取ったり、成果が悪ければ代理店を変更したりすることが重要です。

このように、人件費や広告費などの経費を自分できちんとコントロールできる状態でないと、経費はあっという間に膨れ上がってしまいます。

今回の東京ミネルヴァの事案でも、実質的に東京ミネルヴァに従業員の採用や広告に関する選択肢がなかったのかもしれません。人件費や広告費を管理できず、経費をコントロールできなかったのでしょう。

東京ミネルヴァは負債額がかなり大きい事案になりましたが、ここまで大きくないにしても、似たような事案は他にもあるかもしれません。特に広告に関しては、広告で集客していれば、広告を止めると収入も途絶してしまう可能性があります。経費としてコントロールできていない状態で、広告を出している事務所もあると考えられます。

「経営者の視点」を学ぶことが重要

ーー弁護士も経営について学ぶ必要があるのか。


経営者としての観点を持っている事務所で勤務する機会があれば、経営についてもきちんと学んで理解できます。独立した後も、事務所を適切に拡大できるでしょう。

そうではない法律事務所で働いていた場合、弁護士としての仕事のやり方を学ぶことができても、経営を学ぶ機会がないので、独立しても経営が我流になってしまいます。本を読むくらいしか、経営を学ぶ機会はありません。

先ほども説明した通り、法律事務所の経営自体は単純で、どんぶり勘定でもどうにかなります。仕事があって報酬を受け取ることができていれば、「経費を差し引いたトータルがマイナスでなければいい」という考えでも経営を成り立たせることは可能です。

しかし、将来的に事務所の規模を大きくしたいのであれば、経営者としての視点を学ぶことは重要です。

法律事務所の経営の難しいところは、トップの弁護士が実際に働いているという背中を見せないと、人はついてこないところだと思います。経営の理論は当然知っておいたほうがいいですが、それだけで事務所の規模を大きくできるかというと、必ずしもそうではありません。

経営者としての視点と、弁護士としての視点のバランスが必要です。経営の理論を知った上で、弁護士としても実働できなければ、事務所の大規模化は難しいでしょう。最初から「自分は弁護士として実働したくないので、経営だけしたい」と考えているような人には、誰もついてこないでしょう。

「名ばかり支店長」も無限責任を負う

ーー現在の弁護士法人の制度にどのような問題点があるか。


無限責任について、経営者にとってはデメリットではないと説明しましたが、各社員も無限責任を負わなければならない点は問題だと考えています。

たとえば、支店を展開するためには、各支店に弁護士がいなければならず、支店長はその弁護士法人の社員でなければなりません。そうすると、その支店長も弁護士法人の債務に対して無限責任を負うことになります。これは、支店を展開できる法人ならではの問題点でしょう。

弁護士法人の社員であれば、法人の運営に対する議決権を持っているでしょうが、多くの弁護士法人は持分割合や、出資割合などに応じて議決権を決めています。多くのケースでは、代表者が大半の議決権を持ち、社員には議決権がないのと同じで、代表者が決めたことが全て通ってしまう状況にあります。

そのような社員が支店長になったとしても、言うなれば、「名ばかり支店長」のように何の権限も持っていないのに、無限責任だけが発生してしまいます。権限と責任のバランスがとても悪いでしょう。

特に地方の小さな支店に比較的若い世代が送られることもあるようですが、自分が知らない間に法人が破綻していたということになれば大変です。無限責任の範囲を見直す必要があるかもしれなせん。

一方で、弁護士法人でなければ支店を展開できないという制度自体を見直すことも重要かもしれません。新型コロナウイルスの影響により、テレワークを進めていかざるを得ない状況にある中で、弁護士法人以外は支店を展開できないという規定を厳密に考えるのは困難です。

たとえば、自宅に勤務環境があり、相談者や依頼者も来ているような実態があれば、「それは支店と同じではないか」という議論になる可能性もあります。弁護士法人だけが支店を展開できるルールを考え直してもよいのかもしれません。

北周士弁護士プロフィール
06年3月中央大学法学部法律学科卒業後、最高裁判所司法研修所に入所し、07年9月に修了(旧60期)。青山総合法律事務所、安藤武久法律事務所に入所後、11年4月きた法律事務所を設立(15年9月に北・長谷見法律事務所に変更)。18年9月から法律事務所アルシエンに参画している。主に、ベンチャー企業の顧問業務や、弁護士を中心とした士業の経営支援を行っている。

※画像は、セミナーで講演する北弁護士(18年11月撮影)
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