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「ヘイトスピーチへの抑止効果を期待」 在特会「賠償判決」の意義はどこにある?
在特会は京都朝鮮第一初級学校のすぐ近くで、過激な街宣活動を繰り広げた(撮影:松岡瑛理)

「ヘイトスピーチへの抑止効果を期待」 在特会「賠償判決」の意義はどこにある?

「朝鮮学校を日本からたたき出せ」「(在日朝鮮人は)キムチ臭いで」――朝鮮学校の校門前で行われた激しい街宣活動をめぐる訴訟の判決が世間の注目を集めた。在日特権を許さない市民の会(在特会)が2009年12月に京都朝鮮第一初級学校前で行った街宣活動について、京都地裁は10月7日、ヘイトスピーチ(憎悪表現)にあたるとして違法性を認定し、損害賠償の支払いと学校周辺での街宣活動の禁止を命じたのだ。

裁判では、過激な言葉を浴びせる在特会の街宣活動がヘイトスピーチにあたるかどうかが大きな争点となった。京都地裁の判決は、在特会の暴言を「差別的発言」、行為全体を人種差別撤廃条約が禁じる「人種差別」に該当するものと認定。在特会側に約1220万円の損害賠償の支払いと、学校の半径200メートル以内における街宣活動の禁止を言い渡した。

ヘイトスピーチの違法性を認定したのは、この裁判が初めてだという。その判決のポイントや意義はどのような点にあったのだろうか。在特会へのカウンター活動に積極的に関わってきた神原元弁護士に聞いた。

●ヘイトスピーチを「人種差別」と認定した画期的判決

「今回の判決では、在特会による街頭宣伝が『在日朝鮮人に対する差別意識を世間に訴える意図の下、在日朝鮮人に対する差別的発言を織り交ぜてされたものであり……人種差別撤廃条約1条1項所定の人種差別に該当する』とされました。ヘイトスピーチを人種差別と認定した、画期的な判決といえるでしょう」

このように神原弁護士は述べたうえで、「ただし」と言って、次のように続ける。

「間違ってはいけないのは、この判決も、現行民法上の『不法行為』が成立する場合に初めて損害賠償が認められると言っているのであり、人種差別であれば直ちに損害賠償が認められると言っているのではないということです。

当然のことですが、この判決によって『人種差別』に該当する発言が広く禁止されるわけではありませんから、ヘイトスピーチの根絶を願う立場からは、一定の限界があることは否めません」

それでも、今回の判決は大きな意義があるという。それは、どのような点だろうか。

「この判決が、『政治的な言論である』等の在特会の主張を退けたことや、彼らの行為が『人種差別』に該当することを理由として高額の慰謝料を認めたこと、朝鮮学校周辺の街頭宣伝禁止を認めたことは非常に画期的であり、ヘイトスピーチに対する一定の抑止効果があがることを期待しています。この判決を前提にして、ヘイトスピーチに対する新たな法規制の必要性が議論されていくことになるでしょう」

今回の京都地裁の判決内容について、在特会側は不服として大阪高裁に控訴した。ヘイトスピーチに関する議論の行方とともに、高裁での審理が注目される。

(弁護士ドットコムニュース)

プロフィール

神原 元
神原 元(かんばら はじめ)弁護士 武蔵小杉合同法律事務所
早稲田大学政治経済学部政治学科卒業、2000年に弁護士登録、2010年武蔵小杉合同法律事務所開所。2013年3月にはジャーナリスト・有田芳生氏とともに東京都公安委員会に在特会のデモに関する申し入れを行った。

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