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話題の映画『そして父になる』が描いた「赤ちゃん取り違え」 現実世界で起きたら?
高度成長期の日本の病院では、「赤ちゃんの取り違え事件」がときどき起きていたと言われる

話題の映画『そして父になる』が描いた「赤ちゃん取り違え」 現実世界で起きたら?

6年間育ててきた息子は、他人の子どもでした――。出産した病院で子どもを取り違えられたことが原因で、そんな事態に直面することになった2組の親子の葛藤を描く是枝裕和監督の『そして父になる』。カンヌ国際映画祭で審査員賞を受賞した話題作が9月28日から、全国の映画館で上映されている。

この映画のような「赤ちゃんの取り違え事件」は、いまでこそほとんどないと考えられるが、高度成長期の日本の病院では、ときどき起きていたようだ。なかには裁判に発展したケースもあるという。現実の世界では、どんな判決があり、どのような対応がなされてきたのだろうか。家族問題にくわしい福谷朋子弁護士に聞いた。

●過去の裁判では主に「病院側の責任」が争点となった

赤ちゃん取り違え事件における過去の裁判は、主に「病院側の責任」が争点となったものだったようだ。福谷弁護士はこう切り出した。

「映画のように、病院側のミスで赤ちゃんの取り違えが起きてしまった場合には、親子とも病院に対して損害賠償の請求ができます。

わが子を育てる権利、実親に育ててもらう権利を侵害され、さらに、取り違えが判明した時点で、それまで作り上げてきた関係を根底から覆されることになる親子の精神的苦痛は、金銭に換算できないほど大きいものと言えます」

●取り違えから数十年経過した後に損害賠償請求が認められたケースも

確かに取り違えは、親だけでなく子ども自身にも、取り返しの付かないほど大きな影響を与えることになるだろう。裁判で病院側の責任が認められたケースはあったのだろうか。

「過去には『母親が取り違えに気づくべきであった』とする病院側の主張を退け、慰謝料などを支払うよう命じた判決があります。

また出生後、数十年経過した後に取り違えが判明した子ども自身が、病院に損害賠償を請求した裁判で、病院側の時効主張が退けられ、請求が認められた判決もありました」

数十年とは……それを知った時の本人や関係者の衝撃は、計り知れないものがあるだろう。

●過去には子どもを「交換」したケースが多く存在したが……

こうした親子たちのその後は、どうなるのだろうか。福谷弁護士はこう説明する。

「昭和30年代~40年代にかけて起きた取り違え事件では、取り違えが判明した時点で子を『交換する』ケースが多かったようです」

それでは例えば、取り違えが証明され、戸籍を変更する場合はどうすればいいのだろうか。

「戸籍を変更する際には、単に役所に届け出るだけでは済まず、親子関係が存在しないことを家庭裁判所において確認してもらう『親子関係不存在確認』などの法的手続きが必要となるでしょう」

ただし……、たとえ損害賠償請求が認められ、戸籍の訂正ができたとしても、本人たちが納得できるかどうかは別問題だ。福谷弁護士も「仮に取り違えが法的に『解決』されたとしても、失われた時間を取り戻すことはできず、親子とも非常に苦しい思いをすることが多いようです」と話していた。

(弁護士ドットコムニュース)

プロフィール

福谷 朋子
福谷 朋子(ふくたに ともこ)弁護士 久屋大通法律事務所
1998年弁護士登録。離婚・相続や児童虐待などの家族の問題を中心に扱う他、企業の社会的責任(CSR)に関する活動にも参加。2008~2012年名古屋家庭裁判所家事調停官、2009~2012年愛知大学法科大学院実務家教員、2010~日本CSR普及協会会員、2012~名古屋市教育委員会教育委員。

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