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「憲法96条」を改正すべきですか? 弁護士48人が考える「憲法改正論」
憲法改正をめぐって国会で議論がおこなわれようとしている

「憲法96条」を改正すべきですか? 弁護士48人が考える「憲法改正論」

日本国憲法が1947年5月3日に施行されてから66年が経った。その間、時代は移り変わり、日本を取り囲む国際情勢も大きく変化している。当時は想定されていなかった問題も生まれている。

ここにきて憲法改正の気運が高まりつつある。というのも、昨年12月に政権復帰した自民党の安倍晋三首相が、憲法改正の発議要件を定めた「憲法96条」の改正について、この夏の参議院選挙で争点とする構えを見せているからだ。

憲法改正に賛成している人々の中には、「これまで憲法が改正できなかったのは、厳しい手続要件のせいだ」として、「まずは96条の改正の発議要件を緩和するべきだ」という主張も見られる。たとえば自民党案では、両議院議員の発議要件を「3分の2以上」から「過半数」に変更することを提案している。

一方で、反対している人は「憲法の発議要件を一般の法律並みに引き下げるのは慎重にすべきだ」と主張している。ほかにも、「議論が成熟しない中で、96条だけを変えてしまうのは時期尚早だ」といった意見や、「改正の手続きだけではなく、中身に関する議論もあわせて行うべき」といった声もあがっている。

はたして、憲法96条を見直して、改正手続きを緩和すべきなのだろうか。弁護士ドットコムに登録している弁護士たちに意見を聞いた。

●75%が「96条改正に反対する」

弁護士ドットコムでは、憲法96条の改正について弁護士にたずね、以下の3つの選択肢から回答を選んでもらった。48人の弁護士から回答が寄せられ、次のような結果となった。

(1)96条改正に賛成する

   →8人

(2)96条改正に反対する

   →36人

(3)その他

   →4人

このように、回答した弁護士の75%にあたる36人が<96条改正に反対する>と答えた。その理由として、次のような意見が見られた。

「憲法は国のかたちを決める基本法であり、改正に慎重な手続を要することが適切であると考えます。小選挙区制のもとでは民意が下駄を履かされて与党の議席が伸びる傾向にあり,そのような国会での過半数程度の意見では、憲法改正を発議するには十分でないでしょう」(秋山直人弁護士)

「時々の政権や国民感情で簡単に動かすことができない普遍的な価値を盛り込んであるというのが現憲法の矜持でもあり、容易に改正すべきではないというのが現憲法の基本的なスタンスです」(池田伸之弁護士)

「『憲法改正の発議はぎりぎり51%あればいい、とかぎりぎり67%あればいい』というものでもありません。できるだけたくさんの同意が必要になるはずです(国の基本的なあり方について51対49で意見が分裂したとなれば、これは国家分裂の危機でさえあります)。そのような分裂の危機を誘発するような憲法改正発議の要件の緩和はやめておいた方がよいように思います」(三輪和彦弁護士)

●「96条改正に賛成する」という意見も

一方、回答者のうち17%にあたる8人の弁護士が、<96条改正に賛成する>という意見を支持した。その理由は、次のようなものだ。

「憲法は時代と共に変貌するものです。現に、プライバシー権、知る権利等、憲法制定直後には想定されていなかった権利が、憲法の解釈という形で認められています。しかし、解釈によって認められた権利は、解釈によって認められなくなる可能性があります。これらの権利を確認する作業を手始めにした憲法改正は必要であり、それを行いやすくするためには、96条を改正することも容認されうると思います」(青木一愛弁護士)

<その他>という回答した弁護士は4人だった。次のような意見があった。

「発議は文字通り『発議』にすぎないのだから衆参それぞれの過半数でかまわないでしょう。むしろ、国民投票の要件を3分の2以上にすべき。憲法制定権力の淵源は国民なのだから国会よりも国民を重視すべき。また、単に3分の2以上あれば良いとするのではなく、国民投票を有効であるとするための投票率もある程度高めに設定し、その投票率を超えなかった場合には、仮に3分の2以上の賛成があっても国民投票は成立しないとすべき」(梅村正和弁護士)

憲法改正の手続きを定めた「96条」をめぐっては、肝心の国民が置き去りにされたまま、改正ムードだけが高まっている感がある。憲法は、国民の人権を守る砦となる重要なルールだ。一人ひとりが強い関心を持って向き合うことが求められるだろう。

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