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小渕優子氏本人の「法的責任」はどうなるのか――資金管理団体の「架空寄付」疑惑
経済産業省で記者会見に臨んだ小渕優子氏(10月20日撮影)

小渕優子氏本人の「法的責任」はどうなるのか――資金管理団体の「架空寄付」疑惑

小渕優子・前経済産業大臣の関連政治団体が東京で開いた「観劇会」をめぐる政治資金規正法違反事件の捜査が、大詰めを迎えている。

読売新聞の報道によると、東京地検特捜部の調べに対し、元秘書の折田謙一郎・前群馬県中之条町長が「各団体の簿外支出を穴埋めするため、観劇会の収支を操作するなどして虚偽記入した」と供述しているという。東京地検特捜部は、政治資金規正法違反として、折田氏を在宅起訴する見通しとのことだ。

小渕氏の関連政治団体では、選挙の陣中見舞いなどを「簿外」で支出していた。会計を担当していた折田氏はそのずれを解消するため、小渕氏が代表をつとめる資金管理団体「未来産業研究会」(東京)が、関連政治団体の「小渕優子後援会」と「自民党群馬県第5選挙区支部」に寄付をしたように装ったと、関係者はみているようだ。

報道によると、2009年から13年までの5年間で、未来産業研究会から関連団体への寄付は5600万円あったが、この大半が「架空」だったと見られている。

読売新聞は「小渕氏は不起訴になるとみられる」としている。だが、仮に報じられているとおり収支報告書に「虚偽記載」があったとしたら、衆院議員である小渕氏自身も、何らかの法的責任を問われる可能性はないのだろうか。秋山直人弁護士に聞いた。

●まず問われるのは、虚偽記入者と会計責任者の責任

「資金管理団体(政治団体の一種)の収支報告書に虚偽記載があった場合、第一に法的責任を問われるのは、虚偽記載をした人物や、その団体の『会計責任者』です。

報道によれば、『未来産業研究会』の会計責任者は、折田氏とは別の人物で、虚偽記載をした疑いは、主として折田氏にかけられているようです。

仮に虚偽記載があった場合、虚偽記載をした人物は、5年以下の懲役または100万円以下の罰金、もしくはその両方を受けることになります。

その場合、公民権が一定期間停止されます。公民権停止とは、選挙権や被選挙権が一定期間なくなるということです(※1)

また、会計責任者以外の者が虚偽記載を行った場合でも、会計責任者に故意または重大な過失があるときは、会計責任者も同様の罰則規定の適用を受けます(※2)」

●資金管理団体「代表者」の責任は?

そうなると、小渕氏本人の責任はどうだろうか? 小渕氏は、資金管理団体「未来産業研究会」の代表者という立場だが・・・。

「資金管理団体の『代表者』も、会計責任者の選任および監督について相当の注意を怠ったときは、『50万円以下の罰金』に処するとされています。

その場合、同様に一定期間の公民権停止の制裁があります(※3)。

現職の国会議員が公民権停止になれば、議員の身分を失ううえ、一定期間、選挙に出られなくなります。これは政治家にとって極めて重い制裁です」

●立証が難しい

代表者が「相当の注意を怠った」といえるのは、どういうケースだろうか?

「『選任および監督について相当の注意を怠った』とは、代表者が会計責任者を選任する際に、通常期待される程度の人柄・能力等の調査を行わず、さらに選任後も通常期待される程度の業務の監督を行わなかった、という場合だとされています。

これは抽象的で、検察官の立場からすると、現実的には立証するのがなかなか難しいのではないかと思います。

特に、選任後に業務の監督を行わなかったことについて立証できたとしても、選任時に人柄・能力等の調査がずさんでいいかげんな人を選んでしまったと立証するのは、かなり難しいのではないかと思います」

検察の立場からすると、その両方を立証しなければならないわけだ。そうすると・・・。

「仮に、小渕氏が代表をつとめる資金管理団体『未来産業研究会』の収支報告書に虚偽の記載があったことが判明したとしても、ただちに小渕氏の刑事責任に結びつくかというと、まだ分からないというほかないと思います。

なお、観劇会の収支を操作した収支報告書の虚偽記載の問題ということであれば、不当に安い価格で有権者を観劇会に招待したという公職選挙法上の『買収』の問題ではないことになります。

そうなると、仮に折田氏の有罪が決まっても、小渕氏が連座制によって公民権を停止され、失職することは免れることになります」

秋山弁護士はこのように指摘していた。

(※1)政治資金規正法25条1項3号、28条参照。

(※2)政治資金規正法25条1項3号、27条2項、28条参照。

(※3)政治資金規正法25条2項、同法28条参照。なお、失職について国会法109条参照。

(弁護士ドットコムニュース)

プロフィール

秋山 直人
秋山 直人(あきやま なおと)弁護士 秋山法律事務所
東京大学法学部卒業。2001年に弁護士登録。所属事務所は四谷にあり、不動産関連トラブルを中心に業務を行っている。

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