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家出少女と「食事をして話を聞くだけ」 男性の「善意」の行動にひそむ危険とは?
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家出少女と「食事をして話を聞くだけ」 男性の「善意」の行動にひそむ危険とは?

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「家出少女・少年の話を聞き、何かしてあげるのが趣味」という男性から、弁護士ドットコムの法律相談コーナーに「私の行動は罪に該当するのか」という質問が投稿された。

この男性は、街で出会った家出少年・少女にファミリーレストランで食事をさせて、家出した理由や何日帰っていないかなどの事情を聞き出すのだそうだ。DVや虐待がないか、援助交際をしていないか、単なる家族喧嘩なのか――。そんな話を聞いたうえで、警察に届けるか、児童相談所に一時保護してもらうかを、本人と相談するという。

「どうしても家に帰りたくない」「警察も児童相談所も嫌だ」と言う子どもには、ホテル代だけ渡して自分は帰り、後日また、相談する場を設けるという。お金をせがまれたり、家に泊めてほしいと言われることも多いが、決して応じない。こうした方針のもと、これまで数十人の家出少年・少女と会ってきたそうだ。

ところが先日、男性の自宅に突然、警察が訪れた。「どうせエッチなことしてるんでしょ?」などと言われ、警告もされた。しかし、具体的にどのような罪に問われる可能性があるのかは教えてくれなかったという。

男性は「私の行動は罪に該当し、また罪になるとしたらどの行動がまずいのでしょうか?」と質問しているのだが、実際に何か問題があるのだろうか。刑事事件にくわしい服部梢弁護士に聞いた。

●「未成年誘拐罪」に問われる可能性も

そもそも、未成年の家出少年・少女に食事をごちそうし、話を聞く行為は犯罪なのだろうか?

「青少年保護育成条例では、青少年の深夜外出について制限する規定が設けられています」

このように服部弁護士は切り出した。

「たとえば、東京都の場合、正当な理由なく深夜に青少年を連れ出し、同伴したりとどめおくことを禁止し、深夜に外出している青少年に対しては保護・善導に努めなければならないとされています(東京都青少年保護育成条例15条の4)。これに違反した場合、30万円以下の罰金に処せられます(同条例26条5号)」

服部弁護士はそう語り、たとえ「善意」によるものでも、男性の行動が問題となる可能性があると指摘する。

「警察にも児童相談所にも行きたくないという少年・少女を、そのまま放置するのはたしかに心配です。しかし、未成年者が一人でホテルに宿泊することで、新たなトラブルに巻き込まれる恐れもあります。ホテル代を渡して宿泊するよう勧めることは、『保護』に当たるとはいえないでしょう」

危惧されるのは、それだけではない。

「未成年者誘拐(刑法第224条)の罪に問われる可能性もあります。『誘拐』とは、詐欺または誘惑の手段により、他人を自己の実力支配内におき、その居所を移させることです。

法律用語では『欺罔(ぎもう)』ともいうのですが、ここでいう詐欺とは、虚偽の事実をもって相手方を錯誤に陥れることをさします。また『誘惑』とは、欺罔の程度には至らないものの、甘言をもって相手方を動かし、その判断の適正を誤らせることをさします」

●警察は「児童買春」と「淫行条例違反」を疑っている?

助けてほしい少年少女と、その話を聞く「善意の男性」という関係なのに、なぜ「誘拐」となってしまうのだろうか。

「この男性としては、純粋な親切心からの行動かもしれません。しかし、家出して困っている少年・少女に対して、ホテル代をあげたり、食事をごちそうしてあげたりする行為は『誘惑』、つまり甘言をもって相手方を動かしていると判断される可能性も、否定できません」

では、この男性のケースのように、未成年者から「泊めてほしい」と依頼されても問題となるのか?

「未成年者を連れ回したり、家に泊めてくれるよう求められて実際に泊めた場合、未成年者本人は同意していても、保護者の監督権や親権を侵害しているとして、未成年者誘拐罪に問われると考えられます」

実際、昨年8月には、家出中の女子中学生(12歳)を、自宅に宿泊させた会社員男性(24歳)が、「未成年者誘拐罪」で逮捕された事例がある。この女子中学生は、男性宅に宿泊することに同意していたとされている。

相談者の男性のケースで、警察は何を問題視したのだろうか?

「男性に対する言動からすると、警察は児童買春や淫行条例(青少年保護育成条例)違反に当たると考えている可能性があります。ただ、男性本人はそうした事実はない、ということですので、もし仮に買春や淫行があったとすれば、という仮定の場合を考えてみます。

児童買春・ポルノ禁止法では、児童買春について『対償を供与し、またはその供与を約束して、当該児童に対し性交等をすること』と定義しています。つまり、金銭を支払って18歳未満の児童と性行為をした場合には、児童買春・ポルノ禁止法の児童買春罪が成立します。

仮に金銭のやりとりがない場合、児童買春罪には当たらないものの、青少年保護育成条例違反として処罰される可能性があります」

相談者の男性としては「善意の行動」だったとしても、その行動は、法的にみると「危険と隣り合わせ」といえそうだ。

(弁護士ドットコムニュース)

プロフィール

服部 梢
服部 梢(はっとり こずえ)弁護士 刑事弁護士・東京法律事務所
名古屋大学卒業。刑事事件や男女間のトラブルを幅広く取り扱う。

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