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ロボット犬を蹴る動画に「かわいそう」の声ーー将来は「ロボット愛護法」が必要?
ボストンダイナミクスがYoutubeに公開している「ロボット犬」動画

ロボット犬を蹴る動画に「かわいそう」の声ーー将来は「ロボット愛護法」が必要?

米グーグル傘下のロボット開発会社ボストン・ダイナミクスがこのほど、最新の犬型ロボット「スポット」のデモ動画をYouTubeに公開したところ、意外な反応が出た。倒れにくい特性を示すため、スタッフの男性がスポットを足蹴にしているシーンが「かわいそうだ」と批判を浴びたのだ。

スポットは、配線がむき出しで、本物の犬とは程遠い見た目だが、四本足でうまくバランスをとりながら歩く。公開動画には、高いロボット技術を示すため、スポットが急な坂道や階段を上ったり、人から胴体部分を蹴られても、つまずかずに姿勢を立て直すシーンが映っている。

ところが、ネットで話題になっているのは、高い技術ではなく、この足蹴シーン。動画のコメント欄では「ロボット虐待」の倫理問題についての議論が盛んになっている。今後、ロボットの姿や動きが本物の動物に近づくにつれて「かわいそうだ」と思う人も増えていくかもしれない。

このような社会の反応をどう考えればいいのか、ロボットと法律の問題にくわしい小林正啓弁護士に聞いた。

●「ロボットの虐待はありません」のテロップ

「面白いと思ったのは、このビデオの最後に『No robots were harmed in the making of this video.(このビデオの制作にあたって、ロボットの虐待はありません)』というテロップが表示されたことです。

これは、動物が出演する映画などの最後に『No animals were(動物の・・・)』で始まる同様のテロップが表示されることのパロディですよね」

単なる冗談にもとれるが、何か意味があるだろうか。

「『ビデオ撮影のために動物を虐待することは人道的ではない』のと同様に、『ロボットを虐待することは人道的ではない』という価値観が生じることを、ボストン・ダイナミクス社は予測していることになります」

逆にいえば、現在の価値観や法律では、問題ないということか。

「現在の法律では、ロボットはあくまで機械であり、動産(民法86条)です。これを壊しても虐待とはいいません。所有者がいない場合や、所有者の承諾がある場合は、ロボットの首(があればですが)を切り落とすことも、焼いて破壊することも、合法です」

ロボットの首を切り落とすなんて、合法だとしても、後味が悪そうだ。

「多くの人間は、ロボットが破壊されたり、遺棄されることで、感情を害すると思われます。

人間の感性は、ロボットを単なる物としては認めないでしょう。それを証明したのがこのビデオといえます。私は、そう遠くない未来に『ロボット愛護法』という法律が制定されるだろうと考えています」

●ロボットに向けられた「人間の感情」を保護

ロボット愛護法とは、まるでSFの世界のようだ。

「私の考える『ロボット愛護法』は、ロボットそのものに人権を認めるものではありません。ロボットが今よりもっと身近な存在になれば、少なからざる人間が、ロボット同士に『殺し合い』をさせたり、歪んだ性欲の対象にしたりして楽しむでしょう。

ロボットがそんな扱いをされるのを見た人は、当然、感情を害します。今回のビデオでも、ロボットが足蹴にされる画像を見て、ショックを受けた人が少なからずいるわけです。

そうなると、『ロボットの虐待』が社会に与えるショックを予防する必要があります。愛護法で、ロボットに向けられた『人間の感情』を保護するのです」

ロボットは人間社会をどう変えるのだろうか。

「かつてコンピューターとインターネットは、人間の記憶と情報処理能力に革命をもたらしました。ロボットは、人間の感情に革命をもたらすと予想します。そのとき必要となる法律は、『ロボット愛護法』にとどまらないと思われます」

小林弁護士はこのように未来を見据えていた。私たちはすでにSFのすぐ隣の世界にまで来ているようだ。

(弁護士ドットコムニュース)

プロフィール

小林 正啓
小林 正啓(こばやし まさひろ)弁護士 花水木法律事務所
1992年弁護士登録。ヒューマノイドロボットの安全性の問題と、ネットワークロボットや防犯カメラ・監視カメラとプライバシー権との調整問題に取り組む。

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