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「恋愛資本主義に抵抗する!」 クリスマス粉砕デモに参加した「非モテ」たちの生き様
「クリスマス粉砕」を唱えるデモ隊は渋谷周辺を練り歩いた

「恋愛資本主義に抵抗する!」 クリスマス粉砕デモに参加した「非モテ」たちの生き様

今年もやってきたクリスマスの季節。街にはクリスマスソングが流れ、幸せそうに手をつないで歩くカップルであふれている。そんなムードのなか、「クリスマスを粉砕しよう!」という一風変わったデモが12月21日、「リア充文化の聖地」である東京・渋谷でおこなわれた。主催者は「革命的非モテ同盟」という団体。2006年からほぼ毎年、クリスマス粉砕デモやバレンタイン粉砕デモなどを決行している。いかにも怪しい感じがするが、同じ「非モテ」として、のぞいてみたい。そう思って足を運んだ。(取材・構成/山下真史)

【動画】クリスマス粉砕デモの様子はこちらから

https://www.youtube.com/watch?v=SGzPXTppPCc

http://www.nicovideo.jp/watch/1419399784

●「中二」のヘルメットをかぶった代表が登場

集合場所は、渋谷駅東口から歩いて5分ほどのところにある宮下公園。山手線の線路のすぐそばで、電車音が鳴り響いている。少しうらぶれた雰囲気もあるが、若い男女のカップルがイチャイチャと抱き合う姿もちらほらと見られる。

午後3時半。デモ開始時刻の30分前になると、主催者や参加者がポツリポツリと集まり出した。ニコニコ動画やキャリコネニュースの記者の姿もある。デモを誘導する警察官も複数来ていた。そこに「中二」と書かれた白いヘルメットをかぶり、サングラスと網状のマスクをかけた一際目立つ風貌の男性が現れた。「革命的非モテ同盟」のマーク・ウォーター氏(39)だ。

普段は会社員だというマーク氏は2013年4月から、「革命的非モテ同盟」の革命評議会議長をつとめている。彼のツイッターアカウントのプロフィール欄には、「在日アイルランド人反政府活動家」と記されているが、日本風の顔立ちで、流暢な日本語を話す。「マーク・ウォーター」という名前も本名ではないと思われる。

「革命的非モテ同盟」はもともと、初代代表の男性が女性にフラれたことがきっかけで結成された。その初代代表はたまたまカール・マルクスの本を読んで、「非モテとは革命闘争だ」と思いついたらしいが、旧来の左翼運動ではなく、「ゆるい」人間が集まっているという。

「景気が上向いていると言われても、モテない私たちは恋人もできない。そんな中でも自由に生きていける環境をつくりたい」

「日本のクリスマス文化は広告代理店がつくった幻想だ。そんな恋愛資本主義の象徴であるクリスマス文化の粉砕を唱えることで、抵抗していかなければならない」

デモに先がけて開かれた集会で、拡声器を持ったマーク氏がこのように訴えかけ、25人ほどの参加者たちから、まばらな拍手が起こった。

毎年参加しているという団体職員の男性(40代)は「個人的には、人それぞれクリスマスの楽しみ方を見つけていこうよ、と訴えたい。彼氏や彼女がいないならいないなりの、非モテは非モテで、リア充はリア充で楽しめばいい」と話す。

どうやら、一枚岩の団体ではないらしい。デモに来る前、「クリスマス粉砕」という言葉から「反キリスト教団体」による過激デモの可能性も否定できないと思っていたが、そうではなさそうだ。

●通りすがりのカップル「面白いからいいんじゃない」

午後4時ごろ、「クリスマス粉砕!」と書かれたお手製の横断幕がかかげられ、警察官数人とパトカーに誘導されながらデモが始まった。「クリスマス粉砕!」「リア充は爆発しろ!」「カップルは自己批判せよ!」。まるで学生運動のようなシュプレヒコールも飛び出たが、マーク氏によると、「あくまでパロディ」ということだ。

そんなデモ隊が悠然と渋谷の街を練り歩いていく。沿道の人々から「なに、アレ?」「うわぁ・・・」という声や笑い声が起きた。デモの様子をスマートフォンで撮影してる人や、きょとんとした目で眺めている子どもとすれ違う。それなりに関心を持たれたようだ。

途中、通りすがりの20代カップルに感想を求めると、「デモの主張にはまったく賛同できません。でも、面白いからいいんじゃないですかね。日本は平和だと思いますよ」と彼氏が答え、さわやかに立ち去った。

宮下公園を出発したデモ隊は、渋谷駅に向かって大通りを南下し、テレビ中継でおなじみのスクランブル交差点の手前まで歩いた。その後、山手線のガードをくぐって北向きに進路を変え、スタート地点近くにある別の公園に戻って終わった。歩いた時間は約20分ほど。想像していたよりも、あっけなかった。

こんなことで、本当にクリスマスは粉砕できたのだろうか。マーク氏にたずねると、「少なくとも渋谷近辺のクリスマスは粉砕できた」と胸を張った。

意外かもしれないが、このデモには複数の女性も参加していた。「女子力」もそれなりに高そうだった。その中の一人、相武紗季似の20代女子大生から「クリスマスを過ごす相手は恋人じゃなくてもいいはず。ひとりでゆっくりと過ごしても良いはずでしょう」と諭された。

確かにそうだよな・・・。痛いところを突かれたような気分だった。

●反省会はシャレオツな「オープンカフェ」

午後5時。あたりが、にわかに暗くなりはじめた。デモ終了後の公園では、それぞれが記念撮影をしたり、おしゃべりをしていたが、いったん解散となり、近くの喫茶店で「反省会」が開かれることになった。

反省会に参加したのは、マーク氏など7人。ただ、そのうち3人はメディアの記者だった。オープンテラスの喫茶店で、小さなプールがあり、クリスマス風の電飾もあしらわれている。カップルより女性の集団客が多いが、いずれにせよ、非モテには入りづらい「シャレオツ」な雰囲気だ。

そんな喫茶店の奥に、マーク氏は堂々と入っていく。手馴れているなと思ったら、「反省会はよくここでやっている」ということで、デートではなかった。聞けば、反省会に集まった人は、記者も含めみな未婚で、恋人もいなかった。しかも一様に「結婚願望はない」という。

注文したコーヒーやホットチャイが全員に行き届くと、マーク氏がデモの「総括」を述べた。「今回は、全体的に歓迎ムードだったと思う」。マーク氏は、ネット上の活動だけでは「手応えが染みてこない」として、今後も「リア充文化の聖地」渋谷でデモを続けていくと宣言した。

一方、一部の男性参加者が拡声器を使って下ネタを叫んでいたことから、飛び入りで初参加した女性は「女性も参加しているので配慮してほしかった」と苦言を呈した。これを受けて、別の男性は「非モテでも誇りを持ってほしい」と、女性の意見に賛同していた。

反省会は1時間以上にも及んだ。オープンテラスのテーブルで、全身が震えるほど寒かったが、メンバーたちは熱い議論を続けた。この人たちは、「非モテ」かもしれないが実に楽しそうだ。そう思いながら、私は話を聞いていた。やがて反省会も終わり、みんな散り散りに帰っていった。

渋谷は夜になろうとしていた。デパートからはクリスマスソングが流れ、駅前ではカップルが白い息を吐きながら談笑していた。一方、私の中では、デモで女子大生に諭された「ひとりでゆっくり過ごしてもいい」という言葉が頭から離れなかった。

「非モテ」でも楽しく生きていける、笑顔でクリスマスを迎えていいんだ。そんな思いを抱きながら帰宅したが、翌日、見事に風邪を引いて、仕事を休んでしまった。私の身体が「粉砕」されたのだった。

(弁護士ドットコムニュース)

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