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水泳・冨田選手が弁明会見「本当のことが言えなかったのは、心が弱かったから」
競泳・元日本代表の冨田尚弥選手が名古屋市内で記者会見を開いた

水泳・冨田選手が弁明会見「本当のことが言えなかったのは、心が弱かったから」

今年9月、韓国・仁川のアジア大会でカメラを盗んだとして、韓国の検察に窃盗罪で略式命令を受けた競泳・元日本代表の冨田尚弥選手が11月6日、名古屋市内で記者会見を開き、「カメラは何者かが自分のバッグに入れた。僕はやっていない」と無実を訴えた。同席した國田武二郎弁護士は「韓国当局に再捜査を求め、正式裁判に持ち込むことも考える。日本に風が吹くことを期待したい」と世論の支援を求めた。(ジャーナリスト/関口威人)

●アジア系の色黒の男が「黒い塊」をバッグに入れた

冨田選手は黒のスーツ姿で会見場に現れ、詰めかけた大勢のカメラマンのフラッシュを浴びた。今回の件で精神的に不安定になり、病院で「急性ストレス反応」だと診断されているという。時折つらそうな表情を見せ、家族やコーチの話に触れると目を赤くはらせて涙をこらえる場面もあったが、窃盗疑惑については一貫して強く否定した。

冨田選手によると、事件があったとされる9月25日正午ごろ、メインプールのプールサイドで台座に腰掛けながら仲間の練習を見ていると、何者かに突然、左手首をつかまれた。色黒のアジア系の男で、目があうとニヤッと笑い、何か話しかけてきたが、日本語や英語ではなく意味が分からなかった。そして、冨田選手のバッグに「黒い塊」を入れたのだという。冨田選手は怖くなって、手を振り払ってその場を離れた。

黒い塊は「ゴミかと思った」という。捨てようと思ったが周りにゴミ箱がなく、そのまま選手村の部屋に戻ってバッグを開けると、カメラが入っていた。カメラはレンズが外されている状態だったが、冨田選手は一眼レフカメラがレンズを取り外せるものだと知らず、「レンズが折れるなどして壊れたカメラだ。それを男がゴミとして押し付けてきたのだ」と解釈し、とりあえず部屋の片隅に置いておいた。

すると翌日、50メートル平泳ぎの予選に出場後、韓国の警察官などにカメラのことについて聞かれ、部屋に置いたカメラを確認されてから嫌疑をかけられた。車で警察署に連れられ、「素直に応じれば刑が軽くなって大ごとにはならない。応じなければ日本に帰れない」などと言われ、1時間ほどの取り調べを含めて6時間ほど拘束される中で、嫌疑を認めてしまったという。

冨田選手は「頭の中がパニクッていて、取り調べで何を言ったかほとんど覚えていない。そこで本当のことを言えなかった。自分の心が弱かった」などと述べた。

その後、一部の関係者らには無実を訴えたが、当局や日本水泳連盟などに異議を申し立てなかったのは「お世話になったコーチや監督を相手にすることになり、迷惑をかけたくなかった」と、声を詰まらせながら弁明した。

しかし、真実を話さなければと思い立ち、自ら弁護士に依頼して、この日の会見に至った。

●「彼の言うことは終始一貫して、具体的」と弁護士

國田弁護士は「彼の言うことは終始一貫して、具体的で臨場感があり、実際に経験したことでなければ語れない」と擁護したうえで、「取り調べは1時間ぐらいの表面的な捜査で終わり、物証もない。日本ならせめて起訴猶予だ」と語り、性急な取り調べや、それを受けた日本水連の対応などを批判した。

今後、韓国の警察に再捜査を求めるとともに、韓国の法律に従って略式命令の判決文が領事館を通じて送られてくれば、1週間以内に正式裁判の手続きを申し立てる。しかし、日韓の言葉や法律の違い、弁護士の選任や裁判費用などの壁が大きく立ちはだかる。

「日本から風を起こしてほしい」と國田弁護士は繰り返した。

冨田選手は愛知県東海市出身。豊川高校から中京大を経て、スポーツ用品メーカーのデサントに入社。2011年アジア大会の平泳ぎで優勝した有望選手だったが、今回の事件で日本水連から1年半の選手登録停止処分を科され、デサントからも解雇されている。

(弁護士ドットコムニュース)

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