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イタリアの地震予知学者に禁固6年の有罪判決、日本は何を学ぶべきか

イタリアの地震予知学者に禁固6年の有罪判決、日本は何を学ぶべきか

今年の10月、イタリアの裁判所が、同国防災庁付属委員会のメンバーである地震学者や政府担当者ら7人に、過失致死傷罪で禁固6年の判決を言い渡した。理由は、300人以上の死者を出したイタリアの中部ラクイラ地方の地震が起きる直前に出した「安全宣言」が、被害拡大の大きな要因になったと判断されたためである。

この判決は、世界中の科学者に衝撃を与えた。このようなケースで科学者に結果責任があると認められれば、有罪となるリスクを恐れて多くの科学者が防災行政から離れ、防災対策の質の低下を招く恐れがあるからだ。日本地震学会も他人事ではないとして、「結果責任を問われることに対しては強い懸念を感じます」「防災行政に関与することを避けざるを得なくなる恐れもあります」と声明を発表、強い反発を示した。

日本でも今年の11月に、東京電力福島第1原発事故で津波や事故の対策を怠ったため被害をもたらしたとして、当時の東京電力幹部や政府関係者らと共に、助言をした科学者も集団告訴の対象となった。もっともこの告訴については、12月20日現在、福島地方検察庁は扱いを保留としているようで、当該科学者が刑事責任を問われるか否かは、判断待ちの状態である。

今後より良い防災対策、正確な防災情報を望む上で、防災行政に関与した科学者の結果責任を認めるかどうかは重要な問題だ。わが国でもイタリアのように、例えば政府が警戒宣言を解除した直後に地震による被害が発生した場合、警戒宣言の解除に関与した科学者が刑事責任を負うことはあるのだろうか。近藤公人弁護士に聞いた。

●刑事責任が問われるのは、危険な結果を予測でき、被害を防止できた場合

「日本の刑法では、結果予見義務及び結果回避義務がないと、過失犯としての刑事責任を問われません。よって、結果に対し、予見可能性と結果回避可能性が必要となります。」

「つまり、事前に危険な結果の発生を予測できて、被害発生防止の安全策を講じることができた場合でなければ、刑事責任を問うことができないのです。」

「もっとも、一般に、未知の領域では、それについての経験の蓄積がなく、具体的な予見は不可能と考えられます。しかし、類似の経験や実験などから危険性につき、ある程度推測は可能ですので、その場合には、安全策を講じるべき義務が生じてくるのです。ただし、予見不可能な事態が生じたのであれば、処罰できないといわれています。」

●日本の科学者が刑事責任を問われるとすれば・・・

「地震予知も、未知の領域です。そして、判断した当時のいろいろなデータをもとに、当時の科学者間の支配的な学説に従い、通常の科学者であれば再度地震が起こるだろうと判断するのに、データを見落としたり、又は異端の説を採用した結果、地震は起きないであろうと判断を誤った場合には、関与した科学者は刑事責任を問われることがあると思います。」

「なお、『警戒宣言』を解除しても解除しなくても、同じ結果となるのであれば、結果を回避することができませんので、科学者は刑事責任を問われません。そして、関与した科学者が、どのような地位であったのか、最終的決定に対しどの程度の権限や影響があったのかも重要であり、予見可能性があったからといって、直ちに刑事責任を負うことはないでしょう。」

●イタリアの判決から日本が学ぶべきこと 

イタリアのラクイラ地方は歴史的な建造物が多く、耐震性が低いため多くの人が石造りの建物の下敷きになり、亡くなった。多くの科学者は建物の耐震性を強化すべきと言及していたようで、行政がより耐震性を強化していれば、被害も少なく済んだ可能性がある。

もっとも、今の科学ではまだ完全に地震を予知することはできず、行政も科学者からの全ての提言に対してただちに万全の対策を取ることは難しいだろう。

現在、日本でも原子力発電所直下の活断層の判定について議論が起きているが、科学者の予測を行政はどのように評価し対応するべきか、そして市民にはどのように伝えるべきなのか。今回のイタリアの判決をきっかけに、科学者、行政、市民の三者からの視点で、より適切な防災対策を模索していくべきではないだろうか。

(弁護士ドットコムニュース)

プロフィール

近藤 公人
近藤 公人(こんどう きみひと)弁護士 滋賀第一法律事務所
モットーは「依頼者の立場と利益を第一に」。滋賀県内では大きな法律事務所に所属し、中小企業の法務や、労働事件、家事事件など、多種多様な事件をこなしている。

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