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袴田さん釈放で改めて「死刑」を考える――日本の「死刑執行」の実態は?
死刑の実態は、広く知られているとは言えない

袴田さん釈放で改めて「死刑」を考える――日本の「死刑執行」の実態は?

「世界で最も長く収監された死刑囚」としてギネスブックにも掲載されている袴田巌さんの再審開始が決まり、ついに釈放となった。

1966年に逮捕されてから48年。1980年に死刑判決が確定してから34年の月日が流れていた。長い間、「死刑囚」として生活し、精神的にも強い重圧を受け続けていた袴田さん。一時は、弁護士や家族との面会を拒否した時期もあり、釈放後のいまも、家族や支援者とのやり取りでかみ合わない部分がみられるという。

袴田さんは死刑囚として、どのような日常を送ってきたのか。今回の再審開始決定を機に、改めて「死刑制度」の意味を問う声が出ている。近年、裁判員裁判のもと、一般の国民が死刑判決にも加わることになったが、死刑囚や死刑執行の実態は、ほとんど知られていない。

死刑囚はどのような環境に置かれ、死刑はどのように執行されるのだろうか。日弁連死刑廃止検討委員会の委員をつとめる若林実弁護士に聞いた。

●「死刑」はいつ執行されるかわからない

「死刑判決が確定すると、死刑囚は拘置所内の独房に移され、死刑執行を待つことになります。

いつ死刑を執行するかは、法務大臣が指揮命令をします。死刑執行の順番は特に決まっておらず、死刑が確定した順番どおりということではありません。

最近は死刑囚が多いという理由で、法務大臣によっては、一度に大量の執行をする場合も見られます。再審や恩赦の請求がなされているのに、死刑が執行される場合もあります。以前は年末には執行しないといわれていましたが、最近はそのような慣例もなくなっています」

死刑囚としては、いつ刑が執行されるかわからない、という状況が続くわけだ。

「死刑囚は、『いつ死刑を執行されるのか』という強い恐怖感を持ちながら、日々を拘置所の独房で過ごすことになります。

死刑の確定から執行まで、短い人で数カ月間、長い人だと数十年にもわたって、そのような恐怖感を抱き続けることになります。

この心理的負担は大きく、死刑囚の自殺を防止するために、常に刑務官が監視をしているほどです」

●朝食後、刑務官3人ほどが独房の前で止まったら・・・

死刑囚は、いつ「そのとき」を知らされるのだろうか。

「死刑囚が『執行の時』を知るのは、朝食を食べたあとしばらくして、刑務官が3人くらい、自分の独房の前に止まったときです。

死刑囚は、ほかの死刑囚が執行場所に連れて行かれるのを、見たり聞いたりしていますから、そのことの持つ意味を知っているのです。

刑務官が3人がかりなのは、死刑囚が執行場所に行くことに抵抗するためです」

それから、執行までの間は?

「死刑囚は、執行場所の横にある、カーテンで仕切られた場所に連れて行かれ、教誨師(宗教家)の話を聞いたり、遺書を書いたりします。仏教なら線香がたかれ、読経が始まります。

この際、気が動転して、話が聞けなかったり、手がぶるぶる震えて遺書が書けないのが普通といわれています」

死刑囚の心を落ち着かせるためのもののようだが、平静を保つのは至難の業だろう。

●死刑執行の「スイッチ」が3つある理由

死刑の執行はどんな風に行われるのだろうか。

「執行はそうしたことの後、カーテンが開かれた隣の部屋で行われます。

日本の死刑は法律上、絞首刑とされていますので、まずは縄で編んだロープが死刑囚の首に巻かれます。この際には、顔に目隠しをされる場合もあるといわれています。

執行場所は床が開く仕組みになっています。刑務官3人(連行時の3人とは別)がスイッチを押すと、床が開き、死刑囚は床下に落ちて、首が絞まることになります。正確にいうと、実はこれは絞首ではなく、縊首なのです。

このとき、3人の刑務官は別々のスイッチを押し、このうち一つのスイッチだけが作動するようになっています。これは『実際には誰が執行したのか』をわからないようにするためで、刑務官への配慮です」

死刑は、それを「執行する側」にとっても、相当な負担がある行為なのだろう。

「死刑囚の身体は、執行後もしばらく動いています。それが動かなくなって、死斑があることや脈がないことなどが医務官によって確認されると『執行完了』です。

遺体はロープを解かれ、遺体安置所に運ばれて、そこで遺族や弁護人に引き渡されることになります」

●死刑は「残虐な刑罰」なのか?

このように死刑確定から執行までの流れをざっと説明してもらったが、執行までの経緯も、執行の方法も、まさに「極刑」という感じを受ける。

「元検察官の土本武司氏は、死刑執行の現場を見た経験から、このような執行のやり方は日本国憲法の禁止する『残虐な刑罰』に当たると指摘しています。

世界各国で、死刑執行の方法はさまざまです。北朝鮮のような銃殺刑は論外として、米国の一部の州で行われている薬殺なども、ベッドに押さえつけて拘束し、注射を打って殺すという方法ですから、決して『残虐な刑罰でない』とはいえません

私は死刑執行について、『残虐でない』といえる方法は存在しない、と考えます」

そうすると、「死刑廃止」ということになるが、内閣府が4年前に行った世論調査では、8割以上の国民が「死刑は存続すべき」と回答している。

「裁判員裁判において、一般市民も死刑判決に関与するようになりましたが、多くの市民はこうした死刑の実態を知りません。

裁判官や弁護士も、死刑執行の立会いはできませんので、死刑の実態を本当に知っているとは言えません。また、執行を指揮命令する法務大臣ですらも、死刑執行に立会いません」

若林弁護士はこのように述べ、実態を踏まえた議論をすべきだと話す。

「残虐だという問題に加えて、死刑には、『冤罪』の場合に取り返しが付かなくなるという、別の大きな問題もあります。そうしたことから、世界では死刑を廃止した国のほうが多くなっています。

もちろん被害者遺族の心情も分かりますが、死刑囚も一人の人間ですし、家族や子どもだっています。

死刑囚の中には、犯行を悔いて反省し、絵画等に打ち込んでいる人もいます。そういった人にも、このような形で、死刑を執行すべきなのでしょうか」

若林弁護士はこのように問いかけていた。

(弁護士ドットコムニュース)

プロフィール

若林 実
若林 実(わかばやし みのる)弁護士 若林法律事務所
1954年10月生まれ。1977年3月早稲田大学法学部卒業。第二東京弁護士会所属。日弁連死刑廃止検討委員会委員。刑事事件(被害者支援も含む)、ハラスメント事件(特にアカデミックハラスメント及びセクシャルハラスメント)の被害者救済、不動産物件に関する事件(賃料減額請求、建物明渡請求、土地開発問題)

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