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バレンティンの「56号ホームランボール」 所有権は誰にある?
ヤクルトのバレンティン選手は日本新記録となる「56号」ホームランを放った

バレンティンの「56号ホームランボール」 所有権は誰にある?

ついに「56号」が出た。ヤクルトのウラディミール・バレンティン選手が放った、日本プロ野球史上に燦然と輝くホームランボールは、スタンドでキャッチした阪神ファンの男性の手を経て、バレンティン選手に「返還」されたという。歴史的価値のあるこの記念球は、バレンティン選手の快諾で、野球殿堂博物館に寄贈されるようだ。

このニュースを聞き、アメリカでホームランボールの所有者を巡る訴訟があったという話を思い出した。日本ではどうなのだろうか。

プロ野球のボールは、ホーム側のチームが用意する。この日の試合は神宮球場で行われていたので、元々ボールを所有していたのはヤクルト球団だといえる。

ヤクルト球団広報によると、通常、ホームランボールやファウルボールについて、球団側での回収は行っていない。ただ今回の56号や、プロ初ホームランなどのような記念球は、「回収するというのが慣習」(広報)という。厳格なルールがあるわけでもないようだ。

日本では、ホームランボールが法的に「誰のもの」か、裁判で争われたことはあるのだろうか。また、もしそのような事態になった場合、裁判所はどのような判断をする可能性が高いだろうか。大久保誠弁護士に聞いた。

●もともとボールは、ホームチームの所有物

「野球が好きな私ですが、ホームランボールが誰の所有に帰するかをめぐって、日本で裁判で争われたということは聞きません」

このように大久保弁護士は答える。では、もし日本で裁判が起きた場合、ホームランボールは誰のものとされるのだろうか。

「プロ野球の試合で使用されるボールは、『ホームチームがコミッショナーの承認印が捺された公認ボールを用意して、審判員に届ける』とされているようなので、『ホームチームの所有物』と思われます。したがって、もともとの原則からすれば、観客がホームランボールをキャッチして占有権を取得したとしても、所有権者たる球団から返還を求められれば、返還せざるを得なくなると考えられます」

●「長年の慣行」からすると、ボールは観客のもの?

ということは、ホームランボールの所有権は球団にあるといえるのだろうか。この点について、大久保弁護士は「長年の慣行」という観点から、次のような解釈を披露する。

「昔から、ファウルボールを回収することはあっても、ホームランボールを球団が回収することはありませんでした。この長年の慣行からすれば、ホームランボールについては、球団とそれをキャッチした観客のあいだで『暗黙の贈与契約』があるのだと解釈できるでしょう。

最近では、ファンサービスの充実強化策として、ファウルボールも回収しなくなりましたので、ファールボールについても、『暗黙の贈与契約』があると解釈できると考えます。したがって、ホームランボールやファウルボールについては、それをキャッチし、占有した人に所有権があるといえます」

アメリカでは、誰が最初にキャッチしたのかをめぐって、争いが生じることもあるようだ。たとえば、今回のようにオークションに出せば高値がつきそうな「記念ボール」をめぐって、最初にボールをキャッチした人が落球してしまい、コロコロと転がったボールを別の人がつかんだ場合、どちらの観客が「ボールの所有権」を手に入れらるのだろうか。大久保弁護士の回答は次のようなものだ。

「最初にボールをキャッチした人の落球が、最後にボールをキャッチした人の故意行為によるものか否かによって、結論が変わってくるでしょう。もし故意行為があれば最初にキャッチした人に、逆に、故意行為がなければ最後にキャッチした人に、所有権があると認められるのではないでしょうか」

今回は、ホームランボールをキャッチした観客が快くバレンティン選手に「返還」したため、このような問題は起きなかった。すがすがしい結末になって良かったと、多くの野球ファンは思っているのではないだろうか。

(弁護士ドットコムニュース)

プロフィール

大久保 誠
大久保 誠(おおくぼ まこと)弁護士 大久保法律事務所
ホームページのトップページに写真を掲載しているように、野球が趣味です。

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