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「大きな落書き」で列車が運休・・・犯人の賠償責任はどこまで及ぶのか
落書きは街中でも見かけるが・・・

「大きな落書き」で列車が運休・・・犯人の賠償責任はどこまで及ぶのか

停車中の列車の側面にいつのまにか、スプレーで極彩色の大きな落書きがされていた。そんな事件が、八ヶ岳高原を走る観光列車として知られるJR小海線で起きた。

報道によると、事件が発覚したのは8月12日早朝。小海駅に止まっていた始発列車の側面に大きな落書きがされているのを、運転士が発見した。JR東日本は「落書きを消すまで営業運転はできない」と判断し、この列車の運転を中止。この影響で他にも1本が運休、1本が部分運休になった。

落書き犯が見つかれば、刑事責任に加えて、損害賠償責任も負う可能性があるだろう。今回のような場合、賠償責任の範囲はどこまで及ぶのだろうか。落書きを消す費用だけで済むのだろうか。それとも列車が運休したことについても、責任を取らなければならないのだろうか。三森敏明弁護士に聞いた。

●落書きをした犯人は刑事責任だけなく、民事上の「不法行為責任」も負う

「犯人の刑事責任としては器物損壊罪が問題になりますが、そのほかに民事責任があります。すなわち、列車の側面に大きな落書きをわざとした点について、不法行為責任(民法709条)を追及されることになります」

このように三森弁護士は大枠を説明したうえで、実際のポイントを次のように説明する。

「具体的には、落書きを落とすために必要な費用のほか、落書きの影響によって列車が運休を余儀なくされたと合理的に考えられる期間の営業損害の賠償を、JR東日本から請求されることが想定されます」

では、犯人が賠償すべき「営業損害」の範囲はどこまで及ぶのだろう。

「不法行為(落書き)による損害の範囲を決める判断方法として、不法行為と損害の間に『社会通念上相当である』といえる関係がある場合にのみ賠償の範囲に含まれるという『相当因果関係理論』が、判例では採用されています。そこで、落書きによる賠償範囲を決めるために、落書きと列車運休との間にこの『相当因果関係』があるかどうかを検討してみましょう。

この点、列車はその側面に落書きをされても普通に動くから、営業損害の賠償責任はない、と考えることも可能でしょう。しかし、鉄道は公共交通機関であり、日本では、外国の地下鉄のように落書きされた列車が走ることは通常ありません。

したがって、日本の社会の常識からすると、無視できるような小さな落書きでないかぎり、『落書きを落とさなければ、その列車は通常運転に使用できない』と考えるのが、社会通念上相当であるといえるでしょう」

このように三森弁護士は説明し、次のように結論づけている。

「列車に落書きをした犯人は、その落書きを消すのに必要とみられる期間について、JR東日本が運休で失った営業利益を賠償しなければいけないと考えられます」

(弁護士ドットコムニュース)

プロフィール

三森 敏明
三森 敏明(みつもり としあき)弁護士 ヒューマンネットワーク三森法律事務所
東京弁護士会・労働法制特別委員会副委員長、高齢者障害者の権利に関する特別委員会委員、日弁連・業際・非弁・非弁提携等対策本部運営委員委員

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